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2008-10-13 Mon 16:10
順路をたどって歩いた。
一つ一つの絵を遥々と見上げる。 絵の中には、それぞれに風景があり世界があり物語があり、猫はその中に入り込んではしばらくの間、自分が猫であることを忘れてしまうくらいの間、うっとりと見入っているのだった。森が深ければ更に深く入り込んで秘密の森を探しにいき、空が青ければ青さの中に溶け込んでどこかにあるはずの雲を探しにいき、見たこともない食べ物が盛り付けられている時などは一つ一つ匂いを嗅ぎ、舌を出してみた。 けれども、そのすべては絵の中のことだ。 ふと我に返ると、猫は、自分がどこにも行ってなくただ首がずいぶん疲れてしまったことを知るのだった。 くるくると首を回し、ついでに体も回し、猫としての自分を取り戻す。 そうして再び、歩き出し、歩き出しては立ち止まることを繰り返す。 他の人間たちも、きっと同じようにそうするのだろうか? 猫にとっては、ちょっとした謎であった。 小さな足跡重なって 重なって重なって いつか真っ黒い 夜になった 星をつかって 描いたら きっと誰かが 見つけてくれる 夏が消えるまでに きっと誰かが 小さな傷跡重なって 重なって重なって 気がつくともう 朝になった 雨音だけで 奏でたら きっと誰かが 聴いてくれる 雲が消えるまでに きっと誰かが いつか 順路を見失う 時が訪れても 生まれたものは おいていく ひとつの風を 小さな涙が重なって 重なって重なって 空より透明な 絵になった 逆行するしか ない時に きっと誰かが わかってくれる 道が消える前に きっと誰かが いつか 出口しか 見えなくなっても 生まれたものは 生きていく 生まれたものは 生きていく 一つの絵が今まで以上に猫の目に留まった。 帽子の女が小さな猫を抱いて椅子に座っている。 思わず猫は、あっ、と叫び声を上げるところだった。 なぜなら、それはかつての自分の姿に違いなかったし、それが絵として残っていること、この場に飾られ大勢の人々の目に触れられていることに感慨を抱きながらも、いったい誰がいつの間に描いたのか不思議でならなかったからだ。 猫は、飛び出しそうな「あっ」をなんとか呑み込んだ。 帽子の女は、お婆さんその人だった。 お婆さん……。 猫は、消えたお婆さんのことを思い出して、いつも以上に真っ白になった。 その横顔は、絵の中のみどりに落ちた露のようにぷるぷると震えていた。 ようやく訪れた出口。 本来ならそこから出て行くのが道理であった。 けれども、猫は少しも迷うことなく引き返した。 かっこいい制服を着た男が追いかけてくるのは、きっと猫の応援団に違いなかったけれど、猫は足を緩めることはなかった。 絵の世界から解き放たれた猫、人々と逆の方向に走る猫は、いつもどおりの猫だった。 ほどなくお婆さんを発見する。 それはほとんどまだ入り口に近い場所であった。 3番目の絵の前で、降ってくる餅を待つ時のように、お婆さんは立ち尽くしていた。 猫も、お婆さんの隣に座り、再び遥々と絵を見上げた。 2度目に見るそれは、またどこか違った世界にも見えてくるのだった。 閉館の時が迫ってきていた。 けれども、猫とお婆さんはまだまだ動かない。 まるで、絵になったように動かなかった。 |
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2008-10-07 Tue 18:18
「プロと専門家ってどっちがうまいのかな?」
「そりゃプロでしょ。プロ中のプロだもの」 「えー、でもでも、 専門家の人は、そればっかりやってるんだよ!」 「うーん、難しいなあ……」 見知らぬ人の疑問が、風に乗って猫の耳元にも届いた。 お婆さんの肩の上で、猫は無関心を装いながら密かに小さな頭を回転させる。 街にはいつだって素朴な疑問があふれていて、その一つ一つを集めては解決したり投げ出したりするのが猫の大事な努めの一つだった。猫は、街の声がよく集まる場所についてよく知っていた。それは、猫駅長のいる駅、おばあさんたちが集う待合所、ボールかぴょんぴょん跳ねる公園、そして誰もが足を止めなければならない場所だ。 信号が青に変わって、みんなが一斉に歩き始めた。 猫とお婆さんは、横断歩道を渡ってすぐの店に足を踏み入れた。 カレー専門店。だからメニューはカレーしかない。 お婆さんは特製ヤングカレーを、猫はシェフの大いなる気まぐれカレーを注文した。 シェフは、全身を輝ける白さで装っていて、猫はその白さにとても親近感を覚えながらも、その一番上の大いなる謎の部分にすっかり心を奪われてしまった。 まるで白い巨塔のように立ち上がった帽子は何だろう? 一体その中に何を秘めているのだろう? 特別な個室になっていて誰かが秘密の会議をしているのか? 小人たちが小さな野菜や果物を育てているのか? 未開の森が、どこまでも緑豊かに開けているのか? あるいは依然として頭の一部であり続けているのか? 幾つもの想像の中に、可能性は無限に広がっていくように思われた。 けれども、シェフは静かに遠ざかっていった。 人の知らない 丘の上からこっそり 世界を眺めれば 何もかもが 小さく小さく なった気がする 昨日の僕は その中にいたんだ 人が忘れた 塔の上から静かに 世界を見下ろせば 何もかもが 遠く遠く なった気がする 昨日の友は その中にいたんだ おーい みんな! 世界の中で 世界は見えるかい 届かない距離だから 思い切り叫べた今日 明日は どこに登ろうか そうだ キミの 帽子の上がいい 「ふぁー、からーい!」 お婆さんも猫も、思わず声に出してしまう。 一口食べるごとに、全身の毛穴という毛穴から汗が噴き出してくるけれど、その甲斐あってお婆さんはみるみる若返り、元気になっていった。 はっきりと、今10歳は若返っていた。 そして、猫はシェフの気まぐれすぎるカレーの中で溺れそうになりながら、必死に闘っていた。 まったく、どこまでも気まぐれな気まぐれなカレーの中で……。 「マルボロ・メンソールひとつください」 「はーい!」 お客さんに呼ばれて、厨房の奥から、再びシェフが現れた。 カレー専門店は、実は煙草屋も兼ねているのだった。 それでも、カレーの味にけちがつくなんてことはないことを、誰よりも猫とお婆さんの口が知っていたのだ。 無事にマルボロを手に入れると、高校生らしき少女は帰っていった。 白いシェフは、厨房に戻ることはなく色とりどりの煙草たちが並ぶ窓からじっと外の様子を眺めていて、その白い帽子をじっと眺めているのが猫だった。 突然、シェフは、そんな猫の視線に気づいてか、あるいはそれとは違う何か別の理由だったか、とにかく両手で頭の上を押さえた。 そして、ゆっくりと玉手箱を開けるように帽子をとったのだ。 そこに浮かび上がった光景は、猫の想像していたどれとも被ることはなく、ほとんど次元さえも違うものだった。 ああ、なんという、なんという…… 猫は、ただただ驚き、言葉を失くし、目を丸くした。 自分の想像力の浅さ、世界の広さをまた一つ思い知る。 ねえ、お婆さん……。 お婆さんは、まだまだカレーを食べ、またまた若くなっていた。 その横顔は、音のない教室で永遠の給食を食べる少女のようだった。 |
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2008-10-01 Wed 12:16
それにしても、やけに暗い。
ただ暗いだけの道は、少しだけ首筋を冷たくした。 金網の向こうに最初に現れたのは、猫だった。 お化け屋敷など所詮は子供だましである。流しそうめんくらいに涼しくなればいいのである。 猫は気配を察すると振り返り、そのまま動かない。 首だけを後ろに向けた姿勢は人からすれば少し無理が入っているような気がするが、猫にとってはそうでもないのか表情一つ変えず目を輝かせている。 なぜ、猫なのだろうか? たまたま迷い込んでしまったのか、それともここで働いているのか、捕らわれているのか。もしかすると、あれは猫のように見えて猫ではないのかもしれない。そう考えてみれば動きがどこか猫離れして見えなくもない。 確かめたくて、もう少し近寄ってみようとすると猫はぷいっと顔を背けて、奥の方へ消えてしまった。猫が消えるとまた暗闇が深まった。 謎を残したまま歩いていくと、暗い道が続く。 所々にあるローソクの灯りを頼りにゆっくりと進む。地面がやけにぬるぬるとしている。まるで雨を吸い込んだ泥道のようである。靴が汚れてしまうのが心配であるが、外の世界に出るまでそれを確かめる術はない。転んでしまわないように、少し大股になって歩く。 次の光で現れたのはお婆さんであった。お婆さんは、薄暗い光の中で灰色の布切れを纏っていた。そして少し苦しそうに地面に四つん這いになりながら筆を握っていた。長く乱れ伸びた髪が顔を覆い隠し、その目を見ることはできなかったが、お婆さんは確かに苦しそう、あるいは泣き出しそうに見えた。縦に大きく広げられた白い紙に向けて、今まさに何かを書こうとしているようであった。 けれども、いつまで待ってもお婆さんは書き出さない。書くべきことを忘れてしまったのだろうか。それとも本当に苦しくて書けないのだろうか。 やがて筆の先から、ぽつりぽつりと墨が垂れてきた。それは赤く、赤く、まるで血のように赤かった。 気持ち悪くなって小走りに駆け出したが、ぬるぬる道が邪魔をする。 ぴちゃぴちゃと音が、あとをついてくる。それは水を食べた泥の音、あるいは赤い墨の音であった。 お化け屋敷。 その横顔は、何人も決して足を踏み入れてはならない魔物の庭のようであった。 どこへ続くか 闇深き道の果て 誰も知らない 罪深き闇の果て 怖い怖い こわい わからない からこわい 何が待つのか 何ゆえ待つのか すべての隣人は いなくなってしまった 天空に浮かぶ 銀色の廃墟で 笛が鳴る 怖い怖い こわい 人間は 子供は こわい わからない からこわい かつては 誰もが 通った道だ おそるおそる 振り返る猫 道は 限りない 闇 闇 闇を追いすがってくる音がしなくなると、徐々に道は明るくなった。 そして目の前に現れたのは小さな教室だった。 「夏休みの自由研究は何にする?」 「カブトムシの価格変動について?」 「もうすぐ戦争が始まるんだぞ」 「読書感想文はどうする?」 「ハリーにする指輪物語にする?」 「読めるの?」 「もうすぐ戦争が始まるんだぞ」 20人足らずの子供たちが、だらだらとしゃべっているところだ。 夏休みはまだなのだろうか? 先生はいないので、自習の時間、あるいは休み時間なのだろうか? 「先生、早く、早く!」 金網の教室の生徒たちが一斉にこちらを向いた。 「早く、宿題出してよ!」 一人の少女の手が金網の向こうから伸びて来て、あり得ない力で引っ張った。 気がつくと、教壇の上に立たされているのだった。 子供たちは、全員銃口を教壇に向け構えていた。 「撃てー!」 学級委員の声が、響く。 その時、目の前がはっきりと暗くなった。 |
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2008-09-23 Tue 21:24
チーターとして歩くのに疲れた。
僕は亀になった。 その瞬間から、僕の横をピョンピョンとたくさんのうさぎたちが追い越していく。 うさぎって、こんなに速かったんだ。 うさぎだけじゃない、チワワ、マルチーズ、ダックスフントに上から見下ろされながら置いていかれるなんて、驚くべき経験だ。 ついには、カブトムシにまで抜かれたぞ。 長いゴボウを持った子供たちが、集まってきて僕の背中を突っついてきたけれど、首をすぼめて完全ガードすればゴボウなんかはちっとも怖くなんかないのだし、それはまるで遥か何万光年彼方からやってきたピカピカの宇宙船に、尖った石ころを投げつけているようなものだったのだから、僕はほとんどうとうとし始めたくらいなのだった。大船に乗った気で歩いていると、悪い子供たちは、もっと悪いことを探しに散っていった。 そうして歩いていると、コガネムシに抜かれたぞ。 どんどんと置いていかれた後の風景は、とても静かだ。 もうレースのことを忘れられる。 そうだ、 僕は遠い宇宙のことを考える。 遥か過去のこと、未知の未来のことを想像する。 僕が歩いているのは、この場所じゃない、 どこかだ。 みんな、 いなくなれ。 亀は、つぶやいた。 チーターの頬のように 選ぶ余地のない道は とても狭い 岩やチワワに ぶつかりながら 歩いて行こう 坂が見えたら 上がっていこう 夕焼けまでも 亀の甲羅のように 用意された道は とてもかたい 人差し指に さされながら 歩いて行こう 角が見えたら 曲がっていこう 優しさまでも 続いていくなら 歩いて行こう どこかにあるさ 自分の道が 長い長い眠りから覚めたマンモスが、背後から迫った時、亀は本来の自分を取り戻した。 それは、やっぱり猫だ。 早速、猫は本来の猫のようなスピードで駆け出した。 すると、今まで亀であったことがうそのように、あるいは亀であった時間が猫の脚力を十分に温めていたというように、それはすごいすごいスピードで走ることができたのだった。まるでアンパンマンの友達のように猫は、微笑んでさえいた。 けれども、マンモスも長く休んでいたことについては、猫以上だったし、その大きさといったら正にマンモス級だったのだから、追跡の足はまるで緩まるということはないのだった。 猫は、猫らしい逃げ足と優雅さで木に跳び乗った。 なぜなら、そこに木があったからだ。 自分の道を探し当てた旅人の確信に満ちた歩みのように、猫は振り返ることなく木を歩き、自らをマンモスの牙の届かない安全な場所に運ぼうとした。 けれども、何かが猫の単純な計算を狂わせてしまった。木はマンモスの背よりも低かったのだ。あるいはマンモスが木よりも偉大だったのだ。 ズシリ、ズシリ、と近づいてくる灰色の脅威に、猫はついに追い詰められ、小さくなった。 その横顔は、今にも月から零れ落ちそうなうさぎのように真っ白だった。 その時、お婆さんの声がした。 気のせいでなく、木の下にはお婆さんの姿があった。 次の瞬間、お婆さんはヒョウになった。 なぜなら、愛があったからだ。 ヒョウは、ヒョウらしい勇敢さと優雅さで木に跳び移った。 あっという間に猫のところまで到達すると、その優しさでもって猫を抱きくわえた。 それから、ヒューッという音とともに飛び乗ったのはマンモスの大きな背中だった。 これには、流石のマンモスも手も足も出ない。 猫もようやく安心することが出来たのだった。 猫とヒョウは、あるいは、猫とお婆さんはマンモスの背中で昼寝をすることにした。 しばらくして、マンモスは、 猫のイビキを聞かされることになった。 |
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2008-09-10 Wed 12:37
夏のバーゲンが、始まったのはいつ頃だったろうか。
おそらく、夏のはじまり頃だろう。 でも、それが思い出せない。 家具屋の窓には、10%オフの紙が貼ってある。 家具屋の前には、店のお婆さんが座っている。 お婆さんがいない日には、大きな犬が舌を出してハーハー言っていたり、水を飲んでいたり、寝そべっていたりする。 それは、曜日によって決まっているのか天気によって決まっているのか、適当に決まっているのか決まっていないのかわからなかったが、必ず犬かお婆さんかどちかだけであり、犬とお婆さんが同時にいるということは一度もないのだった。 * 夏の日に 束の間落ちた 優しさは スーツケースの 三日月だった * 夏の間は、夏の歌を歌うことにしている。 それは夏休みの宿題だった。 家具屋の前を通ると、今日は、家具屋の前にはお婆さんが座っている。 特に何をするというわけでもなく、ただ座っている。 静かに前を見つめ、背筋を伸ばして、座っている。 * 夏のかぜ 束の間落ちた 闇の中 隙間に遠い みどりの記憶 * 夏の間中、歩いていた。 歩いていると、色んなものとすれ違う。すれ違い、色んなものは過ぎて行く。 歩いているだけで、どんどんどんどん過ぎて行く。 歩けば歩くほど、どんどんどんどん過ぎていって、どんどんどんどん失っていく。 けれども、立ち止まっていても、やはり同じように失っていくのだから、どうせ同じなら歩かなければならない。 歩いていると、決まって家具屋の前を通る。何回でも通る。 「夏のバーゲンは、いつまでですか?」 座っているお婆さんに、訊いてみた。 「夏の間」 やっぱり、そうか。 やっぱり、そうだった。 夏の歌と同じ。 * 夏休み 束の間落ちた 宿無しに 澄めば親子の みたらし団子 * 夏のバーゲンが、始まったのはいつ頃だったろうか。 おそらく、夏がかけ始めた頃だろう。 でも、それが思い出せない。 あと、どれくらい残っているのだろうか……。 歩いていると、いつの間にか朝が夜になり、日曜日が水曜日になる。 月夜は真昼になり、水曜日は月曜日になる。 家具屋の前のお婆さんが、犬になっている。 家具屋の窓の貼り紙には、10%〜30%オフと書いてあった。 「夏のバーゲンは、もうすぐ終わりですか?」 寝そべっている犬に、訊いてみた。 けれども、犬は、眠っていて答えられなかった。 あるいは、眠ったふりをして答えなかった。 * 夏はもう 束の間落ちた 約束だ 水性ペンで 短く書いた * 朝の商店街を歩く。 準備中となっている店を覗くと、店の中で従業員がせっせと準備をしている。 せっせせっせと言う賑やかな声が、漏れてくる。 閉店、本日終了、今日はもう終わりましたとうたっている店は、静かなままだ。 たくさんの静かさに打たれながら、歩いた。 商店街を端から端まで歩いて、商店街を突き抜けた。太陽が高い。 家具屋の前を歩くと、昼だった。 貼り紙は、とうとう半額になっていた。 夏のバーゲンも、間もなく終わる。 * 夏の輪に 束の間落ちた 柔らかく 擦り切れたひと みかんのままで * 知らない街を歩いた。知らないものばかりが目に入る。 知らない街は、自分のことを知らない。 だから、知らない街には多くの逃亡者たちが身を潜めている。 知らない街をゆっくりと歩いた。知らない街を歩けるのは、一度きりだ。 このまま歩いていて、冬になったらどうしよう……。 逃げているわけでもないのに、時折どうしようもない不安が襲ってくる。 しばらく歩いていると、家具屋の前にいた。 70%〜90%以上オフ もう、捨てるような勢いだった。 もう、おしまいなのだろう。もうすぐ……。 「夏も、おしまいですね」 久しぶりに、お婆さんに話しかけた。 「あの夏は、終わったけどね…… まだ残ってる夏もあるのよ」 お婆さんは、あの夏の方を見ながら答えてくれた。 「夏のバーゲンは、まだ続くのよ」 そう言って微笑んだ。 「そうですか。じゃあ……」 僕も、夏の歌を……。 * 夏はかれ 束の間落ちた 夜光虫 寿司屋のかどで 三毛猫に逢う * あの夏とは違う夏を歩いた。 もう少しだけ、歩いていたいのだった。 夕闇、鳴き始めた虫の音色は、落ち着いている。 前方から流されてきた落葉と、音もなくぶつかった。 風は、夏でないどこか遠いところから吹き始めていた。 * 何かしら伝えるまでは休めない 筋書き未だ見えないけれど * |
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