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あふれる

 次々と警官があふれ出していた。
「ごくろうさまです」
 お婆さんは、労いの言葉をかけたが、現場へと急ぐ警官たちの目にお婆さんの存在は映らないようだった。これほどの警官が、あふれんばかり飛び出し続けているこの町は、恐ろしく治安がいいとお婆さんは感心した。

 スーパーでは、カラフルな野菜や果物たちがあふれながらお婆さんを待ちわびていて、私も私も私もとそれぞれの野菜たちが手を上げ声を上げ、お婆さんを誘惑するのだった。これもいいな、あれもいいな、そうねこれもこれも、あれもこれもいいね。頭の中で、ありとあらゆる季節のメニューがあふれていく。買い物カゴなんかは使わずに、エコお婆さんはそれらを直接マイバッグに詰め込んでいた。あっという間にそれはいっぱいになり、もう苦しいよ、と猫があふれ出てくるのだった。
 カラフルな野菜と果実と猫であふれたマイバッグを抱えて、お婆さんはレジにたどり着いた。
 マイバッグから、まず猫が出てバーコードをスルーし、それに野菜たちが続いた。間もなくそれは、再びマイバッグの中で合流し、猫が多くの野菜たちをしっかりとおさえつけた。
「ありがとうございました!」
 エコな買い物に、感謝の言葉が投げかけられた。



街も緑も打ち消して
窓を伝わる雨粒たち
あちらこちらと散らばりながら
逃げても逃げても追ってくる

見るべきもののなくなった
きみはいないきみを探して
雨粒になる

誰を呼ぶのか
窓を叩きつける雨粒は
もつれあいほつれあいながら
時を奏で夢と消える

寂しいきみよ
寂しいきみの友達になる

窓も消えた部屋の中で
雨はただ
静かに夢見る
きみへきみへと落ちてゆく

満たされたままのコーヒーカップ
きみはいないきみを見つけて
微笑んでいる

自然と呼ぼうか
規則を持たない水滴が
期待と回想に交じりながら
遠い町を跳ねていく

寂しいきみは
寂しいきみの友達になる

もうすぐきみはあふれてしまう

横たわったまま
抱き続けた夢の重さに
耐え切れなくなって

きみは一粒も寂しさを
独り占めすることはできない

言葉としては不確かな
雨はただ
きみへきみへと落ちてゆく

寂しいきみよ
寂しいきみの




 交番からは、相変わらず無数の警官たちがあふれ出してお婆さんたちの行く手を阻んでいた。
 これほどの警官がとめどなくあふれ出ているこの町は、恐ろしく治安が悪いに違いない。お婆さんは、先程と考えを改めた。きっと自転車に乗って逃げる泥棒を追いかけたり、サンバのリズムに乗って逃げるひったくりを追いかけたりしているのだ。

「ごくろうさまです」

 お婆さんが重々しく労いの言葉をかけると、警官たちは一斉に猫に変わった。
 ああ! お婆さんは思わず驚いて抱えているバッグを落とした。
 コロコロと猫が転がっていき、無数の警官猫の混沌の中に紛れ込んでしまうのだった。

 その横顔は、どれもこれもあふれんばかりの猫たちの中でぼやけて見えた。

 あるいは、お婆さんには見えないのだった。
 親切な通行人たちが、脱走したオレンジや熟したトマトを拾い集めてお婆さんの元へ持ってきてくれるけれど、お婆さんはそれには礼も言わずに、交番からあふれ続けている猫に見入っていた。
 なぜか、あの中から自分の猫が戻ってくるような、そんな気がして。


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ジャンル : 小説・文学

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junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
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今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

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「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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