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月のかけら

お婆さん、遊びましょ。
けれども、お婆さんは寡黙である。
ピンと背筋を伸ばし、すらすらとテーブルの上でペンを走らせているのだ。
今日は、お婆さんのペンがとてもよく走る。走っている時のお婆さんは大人しく、猫がちょっかいを出してもほとんど何も返してこず、ひどい時などは完全に無視されてしまうのだ。そうだ、ちょうど今日みたいに。
お婆さん、遊びましょ。
けれども、お婆さんは応えない。仕方なく、猫は走るペンを追っていく。
今日のお婆さんは、とても速い。追っても追ってもなかなか追いつけない。それでも猫は、あきらめずに走り続ける。


森の奥深く、入り込み、猫はまだ走っていた。足に絡みつく長い草が、ひんやりとして冷たかった。猫の前にはシロウサギが走っていて、猫の後ろにはワニが走っている。艶やかな月が大木の真上で丸く光っていた。もう、夜だった。
走っても走っても、ワニとの距離は縮まらない。
このままでは、ワニに捕まってしまう。なんてことだ、なんてことだ。猫は、想像を超えたワニの体力に、パニックに陥っていた。
ペンを追いかけていた猫は、いつの間にか追われる身になっていたのだ。



振り向いて
くれないなら
僕もキミと幻を
追いかけよう

窓から森へ
飛べ飛べ

どこまでも
キミと一緒

ふたりでいて
くれないなら
僕もキミの分身を
追いかけよう

森から星へ
飛べ飛べ

どこまでも
キミと一緒

寂しさのかけら
紡ぎつないで
物語の中へ

どこまでも
キミと

逃げる




「こっちだよ!」

シロウサギの声に導かれて進むと、天へと続く縄梯子が見えた。
シロウサギはぴょんぴょんと、猫はするすると縄梯子を上っていったけれど、ワニは長い顎を持て余して、二つの小さな生き物をただうっとりと見つめているだけであった。くやしさからか、あるいは寂しさからワニが縄梯子に噛み付いて食いちぎった時、もう猫の体は月の上にあった。

「本日は、満室になります」

どこまで歩いても、月の宿は満室だった。
今日は、秋だからね、とシロウサギが言った。今日だけが秋というのは、おかしな言葉だと思ったが、シロウサギのしゃべることだから多少おかしくても当たり前と思い、猫はあれこれと言うのを思いとどまった。
月の宿で、おいしいものでも食べたかったけれど……。月の大地に寝そべりながら、月のかけらを食べた。あまりおいしくはなかった。

「あまり食べないでね」
明日は満月だからね、とシロウサギが忠告する。
月の理屈はよくわからないものだ。それに、多少食べたところで、月の形が変わるわけでもあるまいし……。
猫は、気にせず食べることに決めた。今は、自分の空腹を埋めることが何より大事に思われたし、助けてもらった恩はあるけれど、何かと口うるさいのはごめんだった。
そうして、ポリポリポリポリと食べていると、月の大地は脆くも崩れ去り、猫は滑り落ちてしまうのだった。
「だから、」 
一瞬、声がした。
みるみる地球が近づいてくる。ワニが大きな口を開けて、待っているのが見えた。
同じ場所に、落ちる、なんて……。
猫は、落ちながら、回りながら、頭を抱え込んでいた。

その横顔は、ツキノワグマが投げつけた雪のように真っ白だった。



「ごはんですよ!」

ペンを止めて、お婆さんが言った。
ようやく、時間が止まった。あるいは、動き始めた。
また、何かつまみ食いしたね……。猫の口の周りに、そっと指を走らる。
それは、月のかけらだった。



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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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