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一期一会

みんなが阿呆に見えた。
突然立ち止まり、空を見上げる人。
空に呼び止められたように、振り返る人。
白い雲にすっぽりと覆われた地上のものは、みんなが阿呆に見えた。

「ちょうど今くらいの時間だよ」
少年は、立ち止まって言った。
「私は、もう見られないのよ。
今日、見ておかなければ」
お婆さんは、浮かない顔で少年を見た。
使い終わったサランラップの筒の先に小さく穴を開けた銀紙を輪ゴムで止めたものを、お婆さんは右手に握り締めていた。
「40年前に、一度見たのよ。
でも、その時にはこんなものはなかったの。
その頃には、何も知らなかったの」
偶然その場にいたというだけの少年と、お婆さんは奇跡が現れるはずの空を見上げた。
けれども、そこにあるのはただ白いというだけの雲、あるいは空にすぎなかった。

「どっちの方かな?」
お婆さんは、あっちだよと白い彼方を指差した。
雨天中止。
雲が流れていくように、かなしい言葉が、少年の脳裏をよぎった。



大きな空の下で
私たちは小さく
二人だった

一度だけ触れた
微笑みの記憶を
微かな手掛かりに

やっぱりあなたは
帰ってきたの

いつまでも白いまま
私たちはぼんやりと
二人だった

あったかもしれない
微笑みの欠片を
微かに頼って

やっぱり私は
待っていたの

落ちてきそうな空の下
私たちは小さく
二人だった

一度きりの雲と
私たちは小さく
二人だった




その時、突然二人の頭上で雲が割れ始めたのだった。
それは、お婆さんが指差した方角とはまるで違っていた。
けれども、二人はほぼ同時に声を上げた。
雲の切れ目から、それは遠い約束を思い出したようにやってきて、その光は小さく頼りないものではあったけれど、地上で待ちわびるものに対して、その存在を照らし示していた。そして、そのかたまりの一部は、一人分のケーキをカットしたように見事に欠けていたのだった。

「お婆さん、それを」
少年は、お婆さんの右手にあるそれを使うように促したが、お婆さんはそれを聞き入れなかった。
「ああ…… みれてよかった」
とても幸せそうに、お婆さんは微笑み、小さなため息さえ漏らしたようだった。
少年は、お婆さんの右手からそれを奪い取ろうと手を伸ばしたが、すっかり満足しきったお婆さんが手を引っ込めてしまったため、ついにそれは叶わなかった。
そうしている間に、時は早くも空を白く塗り戻してしまった。

「よかったね」
何よりもお婆さんの一日に対して、少年は言った。
お婆さんと別れた後、少年の歩く空は限りなく果てしなく白く、そのせいで少年はほんの少し前に起きた出来事が全部幻だったような気がした。


猫は、空から落ちてきたケーキを食い尽くした後で、空を見上げていた。

その横顔は、空にアンコールを繰り返す熱狂的な地上人のようだった。

いつになく背筋が伸びた猫だった。



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テーマ : 詩・ことば
ジャンル : 小説・文学

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junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
たいした意味などありゃしない


旅の途中の紙くずたち
今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

猫と婆とそんな横顔はリンクフリー
「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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