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蜘蛛のハート

お婆さんのペンが走っている。
猫が話しかけても、お婆さんは振り向いてさえくれない。
「時間がないんだよ」
そうだ。時間はない。
この世に時間なんて存在しないのだ。
その証拠に、あの時計ときたらいつも同じ場所を回っている。
お婆さん、ねえ遊ぼう。
けれども、お婆さんはペンと共に走り続けている。

猫は、窓から飛び出した。
庭の木に飛び移った。
猫は、時々は、木に登る。
運動不足を感じた時や、どこか無性に遠くに行きたくなった時……。
それから、お婆さんに置いてきぼりにされた時などだ。

猫は木を駆け上がった。まるで何かと競争しているように。
あっという間に、お婆さんの家が小さくなっていく。
みるみる小さくなっていき、豆粒のように小さくなった。
随分遠くまで来てしまった。きっと、もうお婆さんの声も聞こえない。

浮世離れした高い場所で、蜘蛛が網をかけていた。
一生懸命に働いていて、猫が来たのにも気がつかない様子だった。
「こんなところに張っても、誰も来ないよ」
猫は、優しく教えてあげた。



キミが教えてくれた
喜びを頼りに
私は回り続ける

うれしかったよ
楽しかったよ

生きていて

生きていて

キミが教えてくれた
痛みをバネに
私は飛び続ける

くるしかったよ
死にたかったよ

生きていて

生きていて

私はおぼえていたよ

それぞれのキミのかけらを

今度は私が教える番だ

生きていて

生きていて

やがて訪れるキミに




「キミが、来たじゃない」

蜘蛛は、冷静に言った。
それからまた、糸を紡ぎ始めた。
それは違うよ。キミの待っているものと訪れたもの。それはウサギの期待に対しての亀の寂しさ、雪の待ち人に対しての傘の骨、虫のささやきに対する猫の瞬きのように、別の場所に位置するものだよ。
けれども、蜘蛛の直向な姿を見ている間に、猫は理屈のすべてを屁理屈のすべてを言葉のすべてを壊れた時計の中に封じ込めた。
来るべき時が来たら、それは蜘蛛自らが知るべきことだ。
「蜘蛛よ、寂しさのひとつを大切に……」

遠くでお婆さんの呼び声が聞こえる。
聞こえるはずはない。それは猫が決めたこと。
地上を見る。爪が震える、耳が震える、体中の毛が震えている。
お婆さんのことを忘れている間は、平気だったのに、お婆さんのことを思い出してしまうと、自分がどうしようもなく高い場所に来たことに気がついてしまったのだ。
過ぎた冒険への後悔に、猫は微かに喉を鳴らした。

その横顔は、不安のかけらをかき集めてできた浮雲のように白かった。

蜘蛛は、ゆっくりと糸を下ろしはじめた。まるで、猫の心を読み取ったように。
それは、とても細く頼りなく、瞬きするだけで見失ってしまうような糸だった。
けれども、それは果てしない物語のように地上へと続いているようだった。

「さあ、
 帰りなさい。
 猫よ」



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テーマ : 自作連載小説
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junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
たいした意味などありゃしない


旅の途中の紙くずたち
今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

猫と婆とそんな横顔はリンクフリー
「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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