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お婆さんの古時計

 一日が終わると狂っていることに気づく。
 狂っているなら狂っているでも構わなかったが、正しい時もあった方が何かの支えになるだろうと考えてお婆さんは、また新しいものを探しに行く。時計屋の時計は例外なくみな狂っていることを学んだ後では、どこかの街角で拾ってくることが多くなったが、一日が終わるとああやはり狂っているのだ。
 今日も一日が終わり、いつものように狂っている。狂っているものばかりがお婆さんの部屋を占領し始めているのだった。

 「みんなで狂えば怖くはないか」
 新しい古時計の一つに向きながら、お婆さんが言うと時計はカチカチと負け誇ったような音を立てた。
 「いつまでもそうやって遊んでいなさい」
 そんなことを言ってから、猫は不機嫌になってしまった。それから消えてしまった。
 お婆さんの時計がおかしくなってしまったのは、それからだった。

 猫の横顔が好きだった。
 夜にお婆さんは思い出していた。
 他に好きなところは思い出せなかった。

 雨が大人しくなった街角で、お婆さんは時計を探していた。
 見知らぬ猫がお婆さんに向かって走ってきた。けれども、お婆さんを通り越して見知らぬ友達の元へ駆けていくのだった。三毛猫と黒猫の追いかけっこが始まった。
 お婆さんは、古時計を一つ拾い持ち帰った。



キミの消えた
季節の中で
春は訪れない

私は凍てつく
季節を描けない

もう何も

キミの消えた
時間の中で
時は刻まれない

私は狂った
時を描けない

もう何も

キミの消えた
街の中で
風景は流れない

私は知らない
風景を描けない

もう何も

もう何も

狂った時が支配する世界の中で
もう何も 私には
描くことはなくなった

何もないところから

さあ




 一日が始まると狂っていることに気がついた。
 狂っているので始まっているか始まっていないのか本当のところは定かではなかったが、狂っているということだけはまず確かなようだった。狂っているものに囲まれながら、自分を励まし勇気づけ、未来というものがあるのなら頭の中に描いてみようと空想のペンを振ってみたが、駆けて行くのは真っ直ぐに西日を追う猫の後姿だった。じっと見つめようとするが、猫はあまりに速くあまりに小さくまたオレンジの光が障壁となって視界を塞ぐのだった。
 猫のネットワークを頼って、猫のことを頼んでみようかとも考えたが、現実の猫たちはお婆さんの猫だけに構ってもいられないのだと考え直した末、お婆さんはしなかった。しないことに決めた後も、お婆さんは少し後悔してみたりした。

 「御免ください」
 人の力を借りることにした。突然、決断することが閃いたのだ。
 「猫探しを頼みたいのですが」
 人のお巡りさんは、驚いたようにお婆さんを見返した。
 お婆さんは、事細かに猫の特徴について説明し、似顔絵まで書いて見せたのだった。

 「それなら、あなたのすぐそばにいますよ」
 人のお巡りさんは、あっさりしょうゆラーメンを食べたような顔で微笑んだ。
 お婆さんの肩の上で、猫が小さく鳴いた。

 その横顔は、どこにでもいるようなどこにもいないようなお婆さんの猫だった。

 猫と額を合わせて、お婆さんは久しぶりの再会を喜んだ。
 わけがわからないといった顔をしながら、猫はお婆さんの顔をなめた。
 春風が入り込んで、猫の似顔絵を揺らした。




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junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
たいした意味などありゃしない


旅の途中の紙くずたち
今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

猫と婆とそんな横顔はリンクフリー
「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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