スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

人間の言葉

「ばばあー、早くしろよー」
振り返ると、人間の皮を被った人間が立っていた。
そして、それは熊の皮を被った熊よりも遥かに恐ろしい。
下手に言葉をしゃべるだけに、それはなおさら恐ろしい。
お婆さんは、小銭を数えている。
一枚、二枚、三枚、四枚、五枚、六枚、七枚、八枚……

「ばばあー、もたもたすんじゃねえよ!」
再び、後ろで声がしたが、今度は振り返らなかった。
振り返らなくても声は、届く。届いてなど欲しくないのに、届く。
それは人間の声だ。人間は誰であれ人間の言葉を聞くようにできている。
人間は、人間の言葉から逃げることはできないのだった。
けれども、猫は違う。猫は、聞きたい人の声だけを聞きたい時にだけ聞くだけだ。
お婆さんは、人間の口を塞いでしまいたいのをがまんして、小銭を数え始めた。
一枚、二枚、三枚、四枚、五枚、六枚、七枚、八枚……
早くしろと言われれば、余計に遅くなる。それは、そういうことになっているのだ。

「740円のお返しになります」
お婆さんの手の中から、10円玉がするりと滑り落ちて転がっていった。
猫が、人の間を掻き分けて追いかけていく。
「待てーっ!」 猫は、叫んだ。
けれども、10円玉には猫の言葉はわからなかった。
雑誌コーナーの下に潜り込んで、それっきり見えなくなった。
お婆さん、ごめんなさい。ダメでした。
いいんだよ。ありがとう。



死んでも
あんな奴に
負けない

たった一人のせいで
時々私は
進めなくなるけど

猫の瞳の奥に
よみがえってくる
記憶

いつだったか
名前も
知らない人が

優しく道を
教えてくれた

そんなことで

だから私は

死んだって
負けない
あんなことで

たった一人のせいで
時々世界は
暗くなってしまうけど

猫の瞳の奥に
よみがえってくる
記憶

いつだったか
名前も
知らない私に

旅人は道を
訊いてくれた

そんなことで

だから私は




店の前には、つながれた犬が、主を待ちわびて鳴いている。
あるいは、怒っているのかもしれない。
ゴミ箱は、それぞれ燃える種類や燃えない種類などに分類されていて、その下では帽子を被った男がしゃがみ込んで蟻と話し込んでいた。うんうん、そうなの、そうなのかい、大変だねえ。
けれども、お婆さんには、もし蟻がしゃべっているのだとしても、蟻の言葉は聞こえなかった。

「天国町はどっちですか?」
しばらく歩いていると、男の子が道を訊いてきた。
「ずーっと真っ直ぐいきなさい」
「ん? えっと、どっち?」
「思った通りをいきなさい」
男の子は、少し戸惑った様子で、来た道を振り返りこれから進むかもしれない道を、見つめた。

その横顔は、天井裏から水色の世界を見下ろしている猫のようだった。

「それから目立たない良いことを、たくさんしなさい」
何のことだろうか……。
猫は、お婆さんの肩の上で、頭をひねった。
時々、お婆さんの言うことがわからなくて、猫は頭をひねるのだった。
無事に、たどり着くといいな……。
真っ直ぐに歩いて行く少年を、しばしの間、見つめる。



スポンサーサイト

テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

Comment

非公開コメント

カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
リンク(相互、片道、色々…)
最近の作品
最近のコメント
プロフィール

junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
たいした意味などありゃしない


旅の途中の紙くずたち
今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

猫と婆とそんな横顔はリンクフリー
「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

最近のTB / 返詩
そんなカテゴリー
折り返し地点

『折句ストレート』

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

フリー素材のある場所

・天の欠片
・e-素材web
・素材屋さんromance.com
・アイコンワールド




RSSフィード
月別アーカイブ
フリースペース

フリー百科事典
『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























ブログ内検索
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。