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黄色い目

黄色い目で見ているから、私は動けないでいる。
ハムに睨まれたチーズのように動けないでいる。
壁一面に広がる鏡の中には、無数の猫がくつろいでいた。
けれども、振り返っても猫はいない。
あの猫たちは、いったいどこに住んでいるのであろうか……。

お婆さんは、カゴいっぱいの野菜を運んできた。
「サラダになります」
するとそれは、カボチャが馬になるような勢いでサラダになるのだった。
色とりどりの、おいしそうなサラダが目の前にある。
けれども、黄色い目が見ているので、食べることはできない。

お婆さんは、束ねられた古新聞を抱え運んできた。
「スープになります」
読者の声がささやくような微かな音とともに、スープが浮かび上がった。
ふわふわとおいしそうに湯気が沸き出ている。赤く浮かんでいるのは、トマトのようだった。
けれども、黄色い目が見ているので、食べることはできない。

時折り鏡の奥から、猫の鳴き声が聞こえてくる。
「あの、猫はどこにいるのですか?」
お婆さんは、答えない。
耳が遠くて聞こえないのかもしれなかった。



あんたはみてるのかい
あんたはみてるのかい
どこまでもみてるのかい

いつまでも見てないで
どうか自由にしておくれ

あんたはみてるのかい
あんたはみてるのかい
どこまでもみてるのかい

いつまでも見捨てないで
わたしをみていておくれ

あんたはみてるのかい
あんたはみてるのかい
ぼんやりみてるのかい

ただぼんやりとなら
いっそみないでおくれ

あんたはみてるのかい
あんたはみてるのかい
ぼんやりみてるのかい

ただぼんやりとでも
一生みていておくれ

あんたはみてるのかい
あんたはみてるのかい

どっか 遠くの方から




お婆さんは、バレーボールを抱えながら歩いてきた。
「食後のデザートになります」
すると、それは薄オレンジの寒天のようなものに変わった。
器の隅には、ちょこんと生クリームが添えられている。
食後だというのに、実際にはまだ何も食べていないので、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
黄色い目が、じっと見つめていると思うと体が硬直して動かないのだった。
うさぎに睨まれた朝顔のように動けないのだった。

「間もなく閉店になります」
風鈴を振りながらお婆さんが冷たく言うと、昼過ぎだった時間が、突如として夜になっていた。
鏡に映っていた街の風景は、今ではキラキラと輝く夜のアートを映している。
その中に猫の目が隠れているのかもしれない。

「おまえなんか、見てないよ」
黄色い目が、突然口を開いた。

その横顔は、高層ビルの上から地下街を見るような生意気な目であった。

じっと見ていると思っていたので戸惑いは大きかった。
あるいは、じっと見ていたのは自分の方であったか……。
それとも黄色い目がうそをついているのかもしれなかったが、気がついた時には右手にスプーンを握り締めていた。
そして、それは一直線にカレーライスの真ん中へと突き刺さった。
ガラスが割れる音が響く。


  *

日の光の降り注ぐ公園で、私はカレーを食べているのであった。
夜も、カフェも、おばあさんも、鏡も、美しい夜景も、くつろぐ猫たちもいない。
みんな幻のように消えてしまった。
夏の幻のように溶けてしまった。
あるいは最初から、ここにいたのだろうか……。
草むらの向こうから、猫がふらふらと近寄ってくる。
ひとりぼっちの猫が。



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ジャンル : 小説・文学

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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