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空っぽシンフォニー

フタを開けると、空っぽだった。
3分の間、お婆さんはここを動かなかったし、じっと楽しみに待っていたのだ。
3分後にできあがるおいしいヌードルを想像して、わくわくと待っていたのである。
それが、その結果がこうだった。

「3分も待ったのに……」
お婆さんの口から、無念さが零れ落ちる。
沸々としたお湯を注いだのは、今から3分ほど昔のことであった。
お婆さんは、時々昔のことを振り返り、あれは本当にあったことだろうか、物語の中で体験したお話だったろうか、あるいは自分の空想が創り出した出来事であっただろうか、と首をひねったり、微笑んでみたりすることがあった。そしてほとんどの場合、本当のところはわからことが多かった。わからないから過去なのだし、わからないほど過去なのだし、また、わからないから微笑んでもいられるのであった。猫と一緒に落ち葉の中で踊りながらバスを待ったこと、メラメラと燃えさかる人形から走って逃げたこと、クルクルと回る傘の上で猫が踊っていたこと、その遥か上には8色の虹が架かっていたこと、なんてあれやこれや……。
けれども、たった3分前のことを振り返りながら、これほどの疑いを抱いたことはない。

「どうしてくれるの……」
お婆さんの口から、どうしようもないつぶやきが漏れ落ちる。
落ちて、空っぽの器の中で反響している。
お婆さんは、元々空っぽの容器に、胸いっぱいの期待を注いだのだろうか?
猫は、ソファーの上で踊っていた。落葉が踊るように、枯れた踊りだった。



最初の最初
みんなみんな
空っぽだったのに

思い出すのは
満ち満ちた
時ばかり

幻であったなら
どうしていつまでも
離れないのか

歩き始めた私は
ふわふわとした
空っぽだったのに

近寄ってきたのは
厄介な厄介な
重みばかり

幻であるのなら
どうして幾重にも
重なり続けるのか

海のゲートの向こう
白い猫が手招いている

けれど記憶の色が
私の足を遠ざける

進めない もう

戻れない

空っぽの私




踊りつかれた猫が、ふらふらと近づいてきた。
何かちょうだい……。
「欲しいのは、あたしの方だ」
何でもいいからちょうだい……。
お婆さんは、猫のおねだりに負けて海の缶詰を開けた。
威勢よく開けると、中は空っぽだった。
猫は、空っぽとお婆さんに交互に視線を移す。しばらくの間、繰り返し繰り返し移していたが、やがて疑問の照準はお婆さんの前髪一本に絞られた。
お婆さん……。
何かちょうだいと言ったのに、何もないのはどうして?

その横顔は、遥か火星の海の上で新しい波を待っているサーファーのようだった。

お婆さんは、次々と缶詰を開けたが、いずれも結果は同じであり、最初のうち、猫は期待を込めて近づいていたけれど、そのうち一歩離れた場所から眺めているようになった。やがて家の中は、空っぽの海が奏でる静寂のシンフォニーに包まれていた。
その中で、猫はミューと鳴いた。
「空っぽになったら、なけばいいんだね」
猫と一緒に、お婆さんも泣きはじめた。
しばらくの間、競い合うようにないていた。








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junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
たいした意味などありゃしない


旅の途中の紙くずたち
今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

猫と婆とそんな横顔はリンクフリー
「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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