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生みの苦しみ

お婆さんは、餅になって待っていた。
呼ばれることを待っているはずなのに、餅になっているとなぜが自分が食べられることを待っているような気がしてきた。
食べ物の姿になって、初めて食べられる身の気持ちがわかり始めたのである。
「204番のカードでお待ちの方!」
過去の記憶を頼りに、はい、と返事をしたけれど、餅になっているためうまく声が出せない。微かに皮の表面をぶるぶると震わせることが精一杯であり、それさえも錯覚にすぎないのかもしれない。餅になっているということは、不安の中に閉じ込められているということでもあった。

「はい! はい!」
お婆さんは、喉を振り絞って声を出した。私は、ここです。これが私です。
けれども、いくら振り絞ってみたところで、言葉のたまご一つ、お婆さんは生み出すことができなかった。
205番のカードでお待ちの方。206番のカードでお待ちの方。207番のカードでお待ちの方……。
お待ちの方が、次々と呼ばれ、お餅であるお婆さんを追い越しては席に着いて行く様子をただじっと見守っていると、わんわんと泣き出したくなったが、そうすることができないということも、もう既に気づいていたのである。
お婆さんは、徐々にぷっくらと膨らみ始めた。泣くことはできなかったが、膨らむことはできた。それはお婆さんの内なる炎がメラメラと燃えていたためであった。

猫は、おいしそうな匂いに吸い寄せられるように、餅に近づいてきた。
ぷっくらと膨らんだ餅を、ぱくりと呑み込んだ。
そして、口の周りをぺろりと舐めた。



私が私であった頃
あなたは私を知っていた

けれども私は
私だったろうか

私が私であった頃
あなたは私を愛してた

けれどもあなたは
知っていただろうか

私が私であった頃
もう一人の私が私の
影から私を見ていた

私はある時
私を失いあなたは
私を去った

私は
今はここに
いる

見つけることは
できますか

変わってしまった

今の
私を




「204番のものです」
猫がしゃがれた声で言った。
けれども、受付の人は聞こえないふりをしている。

「私が204番ですが」
椅子から立ち上がりながら、なおも猫は言った。
言いながらも、猫のお腹はどんどん膨らんでいた。
受付の人は席を立ち、後ろの方へ下がってしまった。
猫は、膨らんだお腹をしきりに叩いている。和楽器のように良い音がする。
さっき食べた餅が、どうやらお腹の中で、何かを主張しているようだった。
受付の人が戻ってくると、猫に容赦なくコショーを振りかけた。避ける暇もない素早さに、流石の猫も堪忍した。

その横顔は、降り注ぐのりたまをじっと受け入れている白ご飯のようだった。


猫が吐き出した餅は、まだまだ膨らんでいてやがて見上げるほどになると、猫はじりじりと後じさりし始めた。
ボーンッと音が弾けると、餅の中からお婆さんが生まれ、猫はその場でひっくり返った。
「204番のものです」
早速、お婆さんは席に着く。今度は、本当のお婆さんだった。







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テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

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junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
たいした意味などありゃしない


旅の途中の紙くずたち
今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

猫と婆とそんな横顔はリンクフリー
「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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