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2008-11-22 Sat 09:18
お婆さんは、餅になって待っていた。
呼ばれることを待っているはずなのに、餅になっているとなぜが自分が食べられることを待っているような気がしてきた。 食べ物の姿になって、初めて食べられる身の気持ちがわかり始めたのである。 「204番のカードでお待ちの方!」 過去の記憶を頼りに、はい、と返事をしたけれど、餅になっているためうまく声が出せない。微かに皮の表面をぶるぶると震わせることが精一杯であり、それさえも錯覚にすぎないのかもしれない。餅になっているということは、不安の中に閉じ込められているということでもあった。 「はい! はい!」 お婆さんは、喉を振り絞って声を出した。私は、ここです。これが私です。 けれども、いくら振り絞ってみたところで、言葉のたまご一つ、お婆さんは生み出すことができなかった。 205番のカードでお待ちの方。206番のカードでお待ちの方。207番のカードでお待ちの方……。 お待ちの方が、次々と呼ばれ、お餅であるお婆さんを追い越しては席に着いて行く様子をただじっと見守っていると、わんわんと泣き出したくなったが、そうすることができないということも、もう既に気づいていたのである。 お婆さんは、徐々にぷっくらと膨らみ始めた。泣くことはできなかったが、膨らむことはできた。それはお婆さんの内なる炎がメラメラと燃えていたためであった。 猫は、おいしそうな匂いに吸い寄せられるように、餅に近づいてきた。 ぷっくらと膨らんだ餅を、ぱくりと呑み込んだ。 そして、口の周りをぺろりと舐めた。 私が私であった頃 あなたは私を知っていた けれども私は 私だったろうか 私が私であった頃 あなたは私を愛してた けれどもあなたは 知っていただろうか 私が私であった頃 もう一人の私が私の 影から私を見ていた 私はある時 私を失いあなたは 私を去った 私は 今はここに いる 見つけることは できますか 変わってしまった 今の 私を 「204番のものです」 猫がしゃがれた声で言った。 けれども、受付の人は聞こえないふりをしている。 「私が204番ですが」 椅子から立ち上がりながら、なおも猫は言った。 言いながらも、猫のお腹はどんどん膨らんでいた。 受付の人は席を立ち、後ろの方へ下がってしまった。 猫は、膨らんだお腹をしきりに叩いている。和楽器のように良い音がする。 さっき食べた餅が、どうやらお腹の中で、何かを主張しているようだった。 受付の人が戻ってくると、猫に容赦なくコショーを振りかけた。避ける暇もない素早さに、流石の猫も堪忍した。 その横顔は、降り注ぐのりたまをじっと受け入れている白ご飯のようだった。 猫が吐き出した餅は、まだまだ膨らんでいてやがて見上げるほどになると、猫はじりじりと後じさりし始めた。 ボーンッと音が弾けると、餅の中からお婆さんが生まれ、猫はその場でひっくり返った。 「204番のものです」 早速、お婆さんは席に着く。今度は、本当のお婆さんだった。 |
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