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工場見学

朝から晩まで作っているのである。休憩時間を挟んだり挟まなかったりして作り続けているのである。雨の日も小雨の日も大雨の日だって作り続けているのである。
降る日も降る日も、来る日も来る日も作り続けて、そうして何百年と続いてきているのである。
そういうことになっているのである。

「今日の仕事は明日に残さず!」
  「残った仕事は今日の間に!」
    「考えるより、とにかく動け!」
      「口より体、とにかく動け!」
        「準備を笑うものは順番に泣く!」
          「動く前に、よく考える!」
            「言ったことは、てこでも守る!」

工場長が社訓を大きな声でのたまうと、それに続いて従業員が社訓を繰り返す。ピリピリとした朝の空気の中で、厳かに繰り返される。社訓は全部で7つあって何百年と続いている社訓であった。毎日繰り返されることだから、もはやすべての従業員の頭の中にすっぽりと入っているものでありながら、それでいて一日も欠かすことなく続けられているのは、人間の忘れやすさに配慮しているというよりも、古くからの伝統を重んじる工場の儀式として定着しているためであった。社訓が終わると、次は準備体操である。

その頃、副工場長は屋根裏ですやすやとしていた。

怪我のないように念を入れてやること。工場長の指示によって準備体操は世界中のどの工場よりも念入りに行われる。
まずは足の指先から行われる。それが済むと、今度は反対の足の指先である。それが済むと爪先を全体的にほぐすのだ。そうして足の裏、踵、足の甲の部分、足首へと進む。工場長の目が、いたるところで厳しく光っていて、準備体操だからといって少しでも手を抜こうものなら、それは準備不足に当たると言って社訓を述べるところからやり直させられたり、工場の周りを3周させられたりするのであった。たかだか3周といっても、大きな工場であるため、朝一番の運動としてはとても厳しく、小さな村なら村一周にも匹敵する。中には、地球7周にも勝ると主張するものも、過去にはいた。その何人かは、引退したり他所の国へ移住したりして、もはやここにいない人々であった。
準備体操は、足の指先から始まって少しずつ少しずつ1円玉が貯まっていくような速さで這い上がっていき、膝まで到達すると一旦休憩となる。

その頃、副工場長は一足遅く下りて来て、皆の顔を見てまわっている。

準備体操が再開されると、もう一度足の指先から始まることになる。
休んだ間の勘を取り戻すためには、それが運動学的にいって最も正しいやり方なのである。けれども、そこは一度ほぐされている箇所だけあって、やはり最初と全く同じというわけではなく、多少軽めに、ペースを速め行うため思ったよりは早く膝の部分まで到達する。そして膝の部分というのは準備体操の中でも最も重要視され、最も時間を費やす部分であって、準備体操の大半の時間を占めていると言ってもさほど過言ではないのであった。膝の部分が終わると、準備体操はそこからいよいよ頭の天辺へ向けて一気に駆け上がっていくのだ。
そうして準備体操は念入りに行われ、終わったところでいつも昼休みになる。少し手前で終わってしまう日もあるにはあるが、そうした日であってもだいたいそのまま昼休みになるのが慣例であった。

工場が、本格的に動き出すのは、昼からである。
「さて、来週はいよいよ工場見学があります!」

工場長が、発表すると、従業員の顔は皆一様にレンガのように固くなった。
レンガはキョロキョロと他のレンガを見回し、無数のレンガが工場内で交じり合った。
そして、今にもそれは冷たくひび割れ、壊れてかけそうなのだった。
誰一人として、何も言わずモアイ像の親類のように地面にくっついていた。
ただ、副工場長だけがペタペタと工場内を歩き回っていた。
あまりに静かであったため、そのペタペタは、工場の隅々までも、
響いた。



準備を積んで積んで
僕らは強くなる

第一関節から
ぼちぼちと
強くなる

準備の煉瓦を
積み上げて
さあ今日も
鉄くずの街へ出かけよう

準備を呑んで呑んで
僕らは影になる

第一候補から
ばちばちと
散っていく

準備の不安を
呑み込んで
さあ今日も
人形の街へ出かけよう

準備準備準備
準備準備準備準備
準備準備準備

まだまだ準備
まだまだ準備

準備準備準備準備
準備準備準備準備準備
準備準備準備準備

さあさあさあさあ
さてさてさてさて

何かに創られた
僕らだからさ
きっと何かを
創り出せるだろう

さあ諸君

生産ラインを確保せよ

準備はいいかい




「子供を騙せるだろうか?」
      髭が、鉄を叩きながら言った。

さあ、どうだろうかと、メガネがメガネの向こう側を曇らせる。
大人は騙せてもな……。長身が泥を丸めながら、口の中で言葉を噛んでいる。
騙せっこないっしょ。太っ腹が小麦粉にトントンしながら語りかけた。
おおかみよ。長老が石を撫でながら静かに吼えた。

「俺たち何にも作ってないもーん!」
            ぶっちゃけ馬が嘶いた。

髭も、メガネも、長身も、太っ腹も、長老も、ぶっちゃけ馬も、みんな家の人にうそをついていた。
うそをついて、つき続けて毎日工場にやってきていた。それは優しいうそだった。それは厳しいうそだった。家の人を安心させたいという同じ思いからみんなみんなうそつきになっていたのだった。いつからそうなったのか、それは誰にもわからなかった。最近になってからの話のようでもあったし、遥か昔から、あるいは最初の最初から何もかもがうそで始まったようでもあった。願わくば誰かが傷つくことのないうそであってほしい、そしていつかうそから本当が生まれたら、幸せか何かに変わったらいい、そのような思いの中で、今日まで静かにうそは続いていたのだ。

工場見学。
その横顔は、真の星から飛来する隕石のようなものだった。
無数に射し込んで来る光の帯を、みんなが恐れていた。

「何かを作っているように、
 一生懸命に、
 見せること」

工場長が、社訓を歌うように言った。
けれども、誰も言葉を繰り返すことはなかった。
猫だけが、お婆さんの足下に擦り寄ってきて、
小さく鳴いた。






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テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

Comment

お久しぶりです。
猫とお婆さんのやりとり、今でも続いているのですね。詩だけではなく、その前後のストーリーがほんわかしていてすきです。

某人さん、お久しぶりです。
月日の経つのは早いものですね。
あの12月の頃ほどにも、今は詩を書けなくなった気がします。
書いているのか書いていないのか、自分でもわからないくらい(^_^;)
できるだけ更新しないことで、なんとか更新を続けているありさまです。
なくなってしまうのは、怖いので……

あの頃は、詩があって猫たちがいたけれど、今はただ猫が逃げてしまうのが怖くて、
お話の中で猫を囲うことに必死で、時折詩は猫の額より小さくなってしまいます(^^)
コメントありがとうございました♪
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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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