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カレー・ノスタルジア

「プロと専門家ってどっちがうまいのかな?」
「そりゃプロでしょ。プロ中のプロだもの」
「えー、でもでも、
 専門家の人は、そればっかりやってるんだよ!」
「うーん、難しいなあ……」

見知らぬ人の疑問が、風に乗って猫の耳元にも届いた。
お婆さんの肩の上で、猫は無関心を装いながら密かに小さな頭を回転させる。
街にはいつだって素朴な疑問があふれていて、その一つ一つを集めては解決したり投げ出したりするのが猫の大事な努めの一つだった。猫は、街の声がよく集まる場所についてよく知っていた。それは、猫駅長のいる駅、おばあさんたちが集う待合所、ボールかぴょんぴょん跳ねる公園、そして誰もが足を止めなければならない場所だ。
信号が青に変わって、みんなが一斉に歩き始めた。
猫とお婆さんは、横断歩道を渡ってすぐの店に足を踏み入れた。

カレー専門店。だからメニューはカレーしかない。
お婆さんは特製ヤングカレーを、猫はシェフの大いなる気まぐれカレーを注文した。
シェフは、全身を輝ける白さで装っていて、猫はその白さにとても親近感を覚えながらも、その一番上の大いなる謎の部分にすっかり心を奪われてしまった。
まるで白い巨塔のように立ち上がった帽子は何だろう?
一体その中に何を秘めているのだろう?
特別な個室になっていて誰かが秘密の会議をしているのか?
小人たちが小さな野菜や果物を育てているのか?
未開の森が、どこまでも緑豊かに開けているのか?
あるいは依然として頭の一部であり続けているのか?
幾つもの想像の中に、可能性は無限に広がっていくように思われた。
けれども、シェフは静かに遠ざかっていった。



人の知らない
丘の上からこっそり
世界を眺めれば

何もかもが
小さく小さく
なった気がする

昨日の僕は
その中にいたんだ

人が忘れた
塔の上から静かに
世界を見下ろせば

何もかもが
遠く遠く
なった気がする

昨日の友は
その中にいたんだ


おーい みんな!

世界の中で 世界は見えるかい



届かない距離だから
思い切り叫べた今日

明日は どこに登ろうか


そうだ

キミの 帽子の上がいい




「ふぁー、からーい!」
お婆さんも猫も、思わず声に出してしまう。
一口食べるごとに、全身の毛穴という毛穴から汗が噴き出してくるけれど、その甲斐あってお婆さんはみるみる若返り、元気になっていった。
はっきりと、今10歳は若返っていた。
そして、猫はシェフの気まぐれすぎるカレーの中で溺れそうになりながら、必死に闘っていた。
まったく、どこまでも気まぐれな気まぐれなカレーの中で……。

「マルボロ・メンソールひとつください」
「はーい!」
お客さんに呼ばれて、厨房の奥から、再びシェフが現れた。
カレー専門店は、実は煙草屋も兼ねているのだった。
それでも、カレーの味にけちがつくなんてことはないことを、誰よりも猫とお婆さんの口が知っていたのだ。
無事にマルボロを手に入れると、高校生らしき少女は帰っていった。

白いシェフは、厨房に戻ることはなく色とりどりの煙草たちが並ぶ窓からじっと外の様子を眺めていて、その白い帽子をじっと眺めているのが猫だった。
突然、シェフは、そんな猫の視線に気づいてか、あるいはそれとは違う何か別の理由だったか、とにかく両手で頭の上を押さえた。
そして、ゆっくりと玉手箱を開けるように帽子をとったのだ。
そこに浮かび上がった光景は、猫の想像していたどれとも被ることはなく、ほとんど次元さえも違うものだった。
ああ、なんという、なんという……
猫は、ただただ驚き、言葉を失くし、目を丸くした。
自分の想像力の浅さ、世界の広さをまた一つ思い知る。
ねえ、お婆さん……。
お婆さんは、まだまだカレーを食べ、またまた若くなっていた。

その横顔は、音のない教室で永遠の給食を食べる少女のようだった。







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junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
たいした意味などありゃしない


旅の途中の紙くずたち
今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

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「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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