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風の夏休み

先生、さようなら。
みなさん、さようなら。
新学期に、元気な顔で。

  *

「ねえ、いちいち風車のってつけるのもうやめない?」
「なんでだよ、風車のノッチ。ちゃんと回れよ」
風車のヤシキは言った。
「いいじゃないか。誰も見てないんだから」
「ばかやろー。結構風吹いてるだろ」
クルクル回りながら風車のヤシキは、少し切れた。

  *

虫を追いかけて走った。
手に手に虫取り網を持って、走った。
トマト畑では、所々に取り付けられた小さな風車が風を受けて回っている。
「おい、そっちに飛んでいったぞ、リュウちゃん」
「よし、まかせろ!」
突風が吹く。その風に乗って、虫は一気に加速していく。

  *

「風に救われたな、あの虫は」
「そんなことより、ちゃんと回れよ」
「なんでだよ、風車のヤシキ。誰もいないだろ」
「あそこに帽子の女がいるだろ。見てるだろう、こっちを」
「見てるけど、見てないよ」
「何言ってんだ、風車のノッチ」
「見ててもトマトだよ」

  *

猫について歩いた。
虫かごの中で、バサバサと羽音がする。
「猫は、ゆっくりだな」
「疲れてるのかな?」
「コウちゃん、お腹すかない?」
風の強い日だった。

  *

「僕もうダメだよ、風車のヤシキ」
「さぼってるからだぞ!」
「助けてくれ! 風車のヤシキ」
「自分で頑張れ!」
「もう、ダメだよー!」
風車のノッチは、風に乗って飛んでいった。

その横顔は、未知なる自由に怯える風車のようであった。

  *

猫について歩くと、たこ焼き屋さんにたどり着いた。
「ばあちゃん、たこ焼き」
「ほい、ほい」
「今日はセミしかとれなかった」
「ほー、ほー」

  *

「やっぱり、本物の花火はすごいね」
「本物は、いいね」
何度も何度も、惜しみなく打ち上がる。
打ち上がる度に、わかっているのに歓声が起こる。
まるで伝統的なお芝居みたいに。
「これで最後かな?」
しばらくの沈黙。空に北斗七星。
本日の花火はすべて終了となりました。

  *


闇が寂しくて
どうしようもなく
吸い寄せられるように
光に近づいた

光の正体は
眩しすぎて
見えなかったのに

危険を薄々知りながら
どうしようもなく
恋焦がれるように
光に近づいた

ただ闇が寂しくて
どうしようもなく
憧れるように
光に近づいた


暗がりの中に
ひとり
きみが光ってみえる




「さっきから、ずっと同じ場所を回っているよね」

はっとして、我に返ると夏休みは遥か彼方へ過ぎ去っていた。
いつもいつも、そうだった。
もらった日にはたくさんたくさんあるように、感じたのに。それは簡単に終わったりしない長さだった。
いつの間にかそれは、尽きてきて、最後の3日くらいになるともう泣きそうで。後悔でいっぱいになる。まだ、たっぷりと残されていた時間になぜもっと精一杯楽しめなかったのか、ゆったりとできた時になぜもっと精一杯のんびりとできなかったのか……。神様どうかもう一度、ふりだしに戻してください。そしたら今度は、ちゃんとしますから。もう一度、今度はちゃんとしますから。
自由にすぎた時間を持て余した後に、残されたのは手付かずの宿題と空っぽの自由研究だった。

「虫の命は、人間よりもずーっと長いんだよ」
ばあちゃんの言うことは、何気なくて、それでいて謎がいっぱい詰まっていた。
あの時、赤とんぼの目には、追いすがる虫取り網の動きはどんな速さに映っていたのだろうか?
「人間は、少しだけ大きいだけなんだよ」
ばあちゃん、少しって難しいね。まだよくわからないよ。

リュウちゃんは、まだ虫を追いかけているだろうか?
そんなはずはない。そんなはずはなかった。
きっと、それより少しだけ違った何かを追いかけている。何だろう……。
夏の夜空に描かれる無数のアートを見上げながら、もっと遠いものを、僕は見ていた。
ぷーっと息を吹くと、クルクルと青い風車が回った。



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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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