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感謝の言葉

お婆さんは危険な状態だった。
浜辺に大の字に倒れ込み、意識を失った体に救急隊員の手が触れる。
その手は頼りなく確信なく彷徨った後、ようやく心臓の上あたりに留まった。それから押して叩いて揺さぶり出した。
揺さぶって揺さぶって、何度も何度も揺さぶり続けるとやがてお婆さんは、口の中から飲み込んでいたものを吐き出した。
最初に出てきたのは接続詞の「けれども」だった。続いて、「だから」、「そして」、「。」が出てきた。「さよなら」を吐き出してお婆さんは息を吹き返した。
それからもまだお婆さんは、色々なものを吐き出した。改行、段落、長い台詞、助詞、空白、*、風景、メッセージ、72ページのすべて……
ごほごほと口を動かしながら、次々と吐き出した。
吐き出された言葉の欠片、言葉の名残たちは、風の中で軽やかに舞いながらしばらくの間みな行き先を決めかねたように漂っていたけれど、やがて思い思いの方向へ旅立っていった。あるものはひたすら上を上を目指して、またあるものは果てしない水平線を目指して、そして中には砂をつつきながらその下に潜り込んでいくものもあったのだ。
一通り吐き出した後、再びお婆さんは倒れ込んでしまった。
隊員の耳が、風に揺れ動いた。



空想の海だけが
私を闇の中から
助けます

日常の向こう側に
本当の宝物が
待っているように

物語はいつも
青い海から生まれて
いつかやがて
永遠の海へ還ってゆきます

空想の海鳴りが
酩酊の時を
覚まします

日常の向こう側で
奇跡の友達が
泣いているように

物語はいつも
赤い海から生まれて
誰もいつかは
永遠の海へ還ってゆきます

だから私は
泡沫の
愛の中で溺れよう

キミという名のノスタルジーの中で

戻れなくなっても

もう




「あの猫がいなければ、本当に危ないところでした」

院長先生が言うには、寸前のところでお婆さんを引き戻したのは猫の手だったということだ。
お婆さんの胸に聴診器を当てながら、先生はまだ感動の余韻を引きずっている様子だった。
そんな芸当ができる猫はこの世界にはそうはいないだろうということ、そして奇跡の偶然が重なった幸運について語りながら、お婆さんの日頃の行いについて褒めたりした。

「それで、その猫は、今どこに?」

「それが、名前も告げずに……」

院長先生は、とても残念そうに言った後で付け加えた。

「そうそう、本が落ちていたんですよ」

差し出された本を、手に取った。
ずっしりと重く感じたのは、お婆さんの体力が少し弱っていることの証拠でもあった。
お婆さんは、病院のベッドに横たわりながら読みかけのページからまた読み始めた。
長いセンテンスに転ばないように注意しながら、句読点のある場所ではちゃんと息をすることを忘れずに気をつけながら、楽しみながら、それでいて夢中になりすぎないように意識しながらページをめくっていった。
そうして72ページまでくると、真っ白いベッドの中で猫が寝息を立てながら眠っていた。

その横顔は、永遠の眠りを刻み続けるさざ波のようだった。

「こんなところに、いたのかい……」


  ありがとう。

お婆さんは、猫の小さな耳の横に鉛筆で書き込んだ。
猫を起こさないように、
そっと小さな文字で。




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junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
たいした意味などありゃしない


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今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

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「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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