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2008-07-22 Tue 20:51
今にも、ひと雨きそうな空模様だった。
はて、窓はちゃんと閉めてきただろうか? そんな不安が頭の片隅を過ぎるにつれて、お婆さんの歩く速度はカブトムシ並みに落ち、ついには完全に止まってしまった。 これだけ気になるということは、それこそ忘れていることの証拠ではないだろうか……。 早速、お婆さんは引き返す道を選択した。 お婆さんの左肩の上で、猫も少し不安を覚えたのか、ひまわりのように首を傾けた。 家に戻ると、窓は嘘のように閉まっていた。 不安が嘘の不安であったことに安心し、お婆さんは再び旅立った。 今にも、ひと雨きそうな空模様だった。 灰色の雲が、東の方から大挙して押し寄せてくる。 はて、玄関の鍵はちゃんとかけてきただろうか? もしかして、さっきは窓が閉まっていたことに安心しすぎて、うっかりかけ忘れなかっただろうか。 そんな不安が、お婆さんの心の窓をガタガタと震わせたり、トントンと叩いたりするのをじっとこらえていたけれど、とうとう耐え切れなくなってしまった。 猫がガラスの割れる音を聞きびくりとした時、お婆さんは引き返すという道を選択した。 やけに行ったり来たりする一日だ、と猫は思った。 家に戻ると、玄関は嘘のように閉まっていた。 不安が嘘の不安であったことに安心し、お婆さんは再び旅立った。 今にも、ひと雨きそうな空模様だった。 世界中のあらゆる不安がひそひそと相談しながら寄せ集まり、ありとあらゆる方向から、猫とお婆さんの頭の上を目指していた。 逃れようとして歩調を速めたとしても、それはまったく無駄だった。 空は、人よりも遥かに高く遠く大きく、永遠の時を引き連れていたから。 もくもくと増え続ける灰色の、あるいはそれよりもっと濃い色の雲を見つめていると、それはなぜか無数の?に見えてきて、そのためお婆さんはまた新しい不安を作り出さなければならないのだった。 はてはてな、はてはてはてな、はてはてな、はてなはてなの、はてはてはてな はて、扇風機はちゃんと止めてきただろうか? 先ほど家の玄関まで戻った時、その音は聞こえなかったけれど、そのドアの向こう側では忘れ去られた扇風機が右に左に首を振っていたのかもしれない。 誰もいなくなった部屋の中で、誰にも喜ばれずに風を起こし続ける扇風機。 もしも、それが本当なら、その責任は誰にある? はてはてな、はてはてはてな、はてはてな、はてなはてなの、はてはてはてな 北から吹きつける風に、猫は不安を募らせた。 今度も、お婆さんは、引き返すという道を選択する。 それは、風の答えだった。 物語は 灰色の雲と 流れてくる どこへ向かうか どこへ戻るか 誰も知らない そらみてごらん 気がつけば どんどん妖しくて 物語は 灰色の雲の 中にある 誰と出会い 誰と離れるか 誰も知らない そらみてごらん 近づけば だんだんかなしくて 物語の終わりは いつも 灰色の雲だけが 知っている そらみてごらん 手を伸ばせば ほら きっと 届かない 玄関のドアを開け、家の中に入るとやはり扇風機が回っていた。 そればかりか、頭にタオルを巻いた見知らぬ男が忙しそうに動き回っていた。 猫は、咄嗟にお婆さんを盾にして隠れた。 お婆さんが、問いただしてみたところ、男は、引越しの手伝いだと言った。 「ごくろうさまです!」 それならば、扇風機が回っていてもやむを得ないというもの。 お婆さんは、お手伝いの邪魔をしないよう、猫を抱きかかえると家を後にした。 しばらく歩くと、ぽつりぽつりと雨が歌い始めた。 はてはてな、はてはてはてな、はてはてな、はてなはてなの、はてはてはてな しまった! 突然、雷に打たれたように気がついた。 引越しの予定など、これっぽっちもなかったということに! だとすると、あのタオルの男の正体はいったい何者だ? 得体の知れない不安に包まれて、お婆さんは固まった。 その横顔は、?仕掛けの人形のように当惑に満ち満ちていた。 花模様の傘に、雨粒が当たる音を猫は聞いていた。 お婆さんは、まだ引き返そうとはしなかった。 ついに、不安という魔物にそっと寄り添って歩くことに決めたのかもしれない。 猫は、強まっていく雨に負けず、 ひとつ大きなあくびをした。 |
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