スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

はてなの窓

今にも、ひと雨きそうな空模様だった。
はて、窓はちゃんと閉めてきただろうか?
そんな不安が頭の片隅を過ぎるにつれて、お婆さんの歩く速度はカブトムシ並みに落ち、ついには完全に止まってしまった。
これだけ気になるということは、それこそ忘れていることの証拠ではないだろうか……。
早速、お婆さんは引き返す道を選択した。
お婆さんの左肩の上で、猫も少し不安を覚えたのか、ひまわりのように首を傾けた。
家に戻ると、窓は嘘のように閉まっていた。
不安が嘘の不安であったことに安心し、お婆さんは再び旅立った。

今にも、ひと雨きそうな空模様だった。
灰色の雲が、東の方から大挙して押し寄せてくる。
はて、玄関の鍵はちゃんとかけてきただろうか?
もしかして、さっきは窓が閉まっていたことに安心しすぎて、うっかりかけ忘れなかっただろうか。
そんな不安が、お婆さんの心の窓をガタガタと震わせたり、トントンと叩いたりするのをじっとこらえていたけれど、とうとう耐え切れなくなってしまった。
猫がガラスの割れる音を聞きびくりとした時、お婆さんは引き返すという道を選択した。
やけに行ったり来たりする一日だ、と猫は思った。
家に戻ると、玄関は嘘のように閉まっていた。
不安が嘘の不安であったことに安心し、お婆さんは再び旅立った。

今にも、ひと雨きそうな空模様だった。
世界中のあらゆる不安がひそひそと相談しながら寄せ集まり、ありとあらゆる方向から、猫とお婆さんの頭の上を目指していた。
逃れようとして歩調を速めたとしても、それはまったく無駄だった。
空は、人よりも遥かに高く遠く大きく、永遠の時を引き連れていたから。
もくもくと増え続ける灰色の、あるいはそれよりもっと濃い色の雲を見つめていると、それはなぜか無数の?に見えてきて、そのためお婆さんはまた新しい不安を作り出さなければならないのだった。

   はてはてな、はてはてはてな、はてはてな、はてなはてなの、はてはてはてな

はて、扇風機はちゃんと止めてきただろうか?
先ほど家の玄関まで戻った時、その音は聞こえなかったけれど、そのドアの向こう側では忘れ去られた扇風機が右に左に首を振っていたのかもしれない。
誰もいなくなった部屋の中で、誰にも喜ばれずに風を起こし続ける扇風機。
もしも、それが本当なら、その責任は誰にある?

   はてはてな、はてはてはてな、はてはてな、はてなはてなの、はてはてはてな

北から吹きつける風に、猫は不安を募らせた。
今度も、お婆さんは、引き返すという道を選択する。
それは、風の答えだった。



物語は
灰色の雲と
流れてくる

どこへ向かうか
どこへ戻るか
誰も知らない

そらみてごらん
気がつけば
どんどん妖しくて

物語は
灰色の雲の
中にある

誰と出会い
誰と離れるか
誰も知らない

そらみてごらん
近づけば
だんだんかなしくて

物語の終わりは
いつも
灰色の雲だけが
知っている

そらみてごらん
手を伸ばせば

ほら きっと 届かない




玄関のドアを開け、家の中に入るとやはり扇風機が回っていた。
そればかりか、頭にタオルを巻いた見知らぬ男が忙しそうに動き回っていた。
猫は、咄嗟にお婆さんを盾にして隠れた。
お婆さんが、問いただしてみたところ、男は、引越しの手伝いだと言った。

「ごくろうさまです!」

それならば、扇風機が回っていてもやむを得ないというもの。
お婆さんは、お手伝いの邪魔をしないよう、猫を抱きかかえると家を後にした。
しばらく歩くと、ぽつりぽつりと雨が歌い始めた。

   はてはてな、はてはてはてな、はてはてな、はてなはてなの、はてはてはてな

しまった!
突然、雷に打たれたように気がついた。
引越しの予定など、これっぽっちもなかったということに!
だとすると、あのタオルの男の正体はいったい何者だ?
得体の知れない不安に包まれて、お婆さんは固まった。

その横顔は、?仕掛けの人形のように当惑に満ち満ちていた。

花模様の傘に、雨粒が当たる音を猫は聞いていた。
お婆さんは、まだ引き返そうとはしなかった。
ついに、不安という魔物にそっと寄り添って歩くことに決めたのかもしれない。
猫は、強まっていく雨に負けず、
ひとつ大きなあくびをした。





スポンサーサイト

テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

Comment

非公開コメント

カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
リンク(相互、片道、色々…)
最近の作品
最近のコメント
プロフィール

junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
たいした意味などありゃしない


旅の途中の紙くずたち
今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

猫と婆とそんな横顔はリンクフリー
「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

最近のTB / 返詩
そんなカテゴリー
折り返し地点

『折句ストレート』

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

フリー素材のある場所

・天の欠片
・e-素材web
・素材屋さんromance.com
・アイコンワールド




RSSフィード
月別アーカイブ
フリースペース

フリー百科事典
『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























ブログ内検索
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。