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鍵穴の猫

ポケットの中にもそれはなかった。
家の前で、巾着袋をひっくり返してみる。
けれども、出てきたのはキャンディーに、クッキーに、ビスケットに、チョコレート……
どれもこれも虫歯団の結成に一役買いそうなものばかりだったけど、お婆さんの探し物はついに出てこないのだった。
そんなこともあろうかと思って、鉢植えの下にお婆さんはこっそりともう一つのそれを隠しているのだし、その隠し場所を知っている者といえば、広い世界の中にあっても猫を除けばお婆さん一人だけなのであった。
よっこらしょっ、とお婆さんは鉢を抱え上げるとニョロニョロとミミズが現れた。
初めて空に浮かんだペンギンのように、小刻みに戸惑いながら……。

早速、猫は激しくステップを踏みながら闘いの意志を伝えるのだけれど、その波動は猫の爪の先で留まったまま地面から一センチさえも流れていかないのだった。
やがて、猫は小さな生き物を見下ろしながら、それが自分の敵ではないと悟ったように落ち着きを取り戻した。
そして、それよりもっと深い絶望を伴った落ち着きが、お婆さんの顔に浮かぶ。
入れなくなった家の前で、お婆さんは月を見上げた。
月はとても、丸かった。



やがて僕らは
合鍵を作る
技術を手に入れた

作ろうと決めたら
たった5分で
出来てしまうだろう

もうこれで
心配いらない

どこかで落としても
どこかで失っても

僕らはついに
合鍵を作る
技術を手に入れた

どんな複雑な形も
少しも狂いなく
合わせてしまうだろう

もうこれで
不安はないよ

どこかで離れても
どこかで引き裂かれても

もうこれで
大丈夫

僕らはだけど
合鍵を作らない

なぜか
どうしても
合鍵を作れない

僕らの
かえるところも
抱えられるものも
ひとつしかないのだから

いつもどこかで失うことに怯えながら

いつも
見ていることを
想っていることを
触れていることを

そして
恐れを
共有しながら

ようやくたどり着いた
到達点に
僕らは鍵をかける

ぎゅっと 強く

永遠に

代わりのない

キミと




その時、猫は立ち上がった。
鍵穴の奥を、のどの奥を熱心に探るお医者さんのように覗き込んだ。
そして小さな頭をくっつけると、ぐいぐいと押し付けながら無謀な前進を試みた。
けれども、徐々に猫の額が頭が首が吸い込まれ、ついには胴体までが見えなくなってしまった。
異次元の鍵穴の中で、猫は秘密の暗号を解きながらもがいていて、かろうじて外の世界に残っている尻尾が、あらゆる方向に揺れ動いている。
やがて、それは切ない形に落ち着いた。

        S     O     S

お婆さんは、猫の尻尾を握り締めると精一杯こちらの世界に引っ張った。
帰って来い、帰って来い、と言いながら月に照らされた綱引き大会が続く。
やがて、カチリと何かが回転する音と共に、猫が戻ってきた。

その横顔は、とけたバターで出来た猫のように不完全な猫だった。

猫とお婆さんは、色々あったけれどようやく家の中に入ることができた。
やっぱり、家が一番だ。
そして、一緒にお風呂に入った。










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ジャンル : 小説・文学

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junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
たいした意味などありゃしない


旅の途中の紙くずたち
今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

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「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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