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真っ白い朝

100円玉を拾って歩く男、タクシーを拾えない女。
その合間を縫って、猫は駆けた。
少年が道端に並んでいる自転車を、なぎ倒しながら歩いていく。
猫は、一段と速く、夜を駆けた。
銀色の鉄屑に向けられた腕力が、自分の方に行き先を変えない間に……。
急ぐんだ!
ホームまで。


   *

夢の中で、猫は空飛ぶ円盤を見た。
狭い狭い空の上で、きらきらと飛び交う円盤たち。
危険だ、危険だ、危険な夜景だ。
不思議だ、不思議だ、不思議な光景だ。
それらは、世界中を悪い夢のような恐怖と深い絶望で包み込むためにやってきた?
それとも、宇宙ワールドカップのとてつもなく新しい幕開けを告げる花火のような何か?
一刻も早く、猫は安全な大地を蹴って進みたかったし、どこまでも逃げて逃げて、せめて自分だけは生き延びたかったのだけれど、夢の中ではひとつとして身動きなんかできないのだった。
ひゅーひゅーと、こんなにもたくさんでやってきて、恐ろしいスピードで飛び回っていて、それでも誰にも当たらないのはどうしてなのか……。

猫は、夢の中で突然、赤い雷に打たれた。
そうだ!
父さんが、当たらないように投げているからだ!
どうにもならない不満が、限られた器の中に溜まり溜まって、とうとう満ちて限界に達してしまった瞬間に、父という生き物は自分の中から皿を取り出して一つ一つ投げ始めるものだ。誰一人待つことのない空へ向かって、あるいは届くはずのない星へ向かって、子供のように声を荒げながら……。
猫は、円盤の叫び声を聞いた。
眠りながら、ふるえながら。



壊さなければ
ならない夜が
あるならば

どうか私を
壊しなさい

私だけを
壊せばいい

当たらなければ
ならない夜が
あるならば

どうか私に
当たりなさい

私だけに
当たればいい

大丈夫
幾度でも
私は私になれるから

怒りと絶望の力で
どうしようもなく
砕き散るならば

どうか私を
選びなさい

かけがえのある私だけを




ようやく、真っ白い朝がやってきた。
猫も含めて、部屋中が白かったのは夕べの残骸が部屋中に落ちているためだった。
誰にも当たることなく夜通し飛び回って役目を終えた白い円盤たちは、今は粉々になりながら静かにここに落ち着いていた。
きっと、お婆さんも、同じ夢を見たに違いない。

「なんで、わたしが片付けなくちゃいけないのかねえ……」

小さな雨を確かめる時のように両手を天井に掲げて、それからふーっとため息をついた。
しわしわの顔が、今朝はより一層しわしわで、猫は秋のもみじを思い出した。
危ないのでしばらく動かないようにと言いながら、お婆さんはちりとりの中にとても慎重に、夢の欠片たちを集めていく。
もう再生することのない夢が、床の上から完全に消えて見えなくなるまでかき集められると、やがてそれは黒いゴミ箱の中で最後の鳴き声をあげた。
猫は、その様子を少しばかり憐れむように見つめていた。

その横顔は、7月の空の上を永遠に回り続ける雲のように真っ白だった。

「まったく、調子にのって回し続けるから……」

お婆さんの言葉に、猫は少しわからなくなった。
やはり、別の夢だったのかもしれない……。
それでいて、同じ朝にたどり着いたのだろうか?
結果として、同じ朝に。










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junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
たいした意味などありゃしない


旅の途中の紙くずたち
今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

猫と婆とそんな横顔はリンクフリー
「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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