心 の 隙 間 か ら 出 て お い で
真っ白い朝
2008-07-06 Sun 14:12
100円玉を拾って歩く男、タクシーを拾えない女。
その合間を縫って、猫は駆けた。
少年が道端に並んでいる自転車を、なぎ倒しながら歩いていく。
猫は、一段と速く、夜を駆けた。
銀色の鉄屑に向けられた腕力が、自分の方に行き先を変えない間に……。
急ぐんだ!
ホームまで。


   *

夢の中で、猫は空飛ぶ円盤を見た。
狭い狭い空の上で、きらきらと飛び交う円盤たち。
危険だ、危険だ、危険な夜景だ。
不思議だ、不思議だ、不思議な光景だ。
それらは、世界中を悪い夢のような恐怖と深い絶望で包み込むためにやってきた?
それとも、宇宙ワールドカップのとてつもなく新しい幕開けを告げる花火のような何か?
一刻も早く、猫は安全な大地を蹴って進みたかったし、どこまでも逃げて逃げて、せめて自分だけは生き延びたかったのだけれど、夢の中ではひとつとして身動きなんかできないのだった。
ひゅーひゅーと、こんなにもたくさんでやってきて、恐ろしいスピードで飛び回っていて、それでも誰にも当たらないのはどうしてなのか……。

猫は、夢の中で突然、赤い雷に打たれた。
そうだ!
父さんが、当たらないように投げているからだ!
どうにもならない不満が、限られた器の中に溜まり溜まって、とうとう満ちて限界に達してしまった瞬間に、父という生き物は自分の中から皿を取り出して一つ一つ投げ始めるものだ。誰一人待つことのない空へ向かって、あるいは届くはずのない星へ向かって、子供のように声を荒げながら……。
猫は、円盤の叫び声を聞いた。
眠りながら、ふるえながら。



壊さなければ
ならない夜が
あるならば

どうか私を
壊しなさい

私だけを
壊せばいい

当たらなければ
ならない夜が
あるならば

どうか私に
当たりなさい

私だけに
当たればいい

大丈夫
幾度でも
私は私になれるから

怒りと絶望の力で
どうしようもなく
砕き散るならば

どうか私を
選びなさい

かけがえのある私だけを




ようやく、真っ白い朝がやってきた。
猫も含めて、部屋中が白かったのは夕べの残骸が部屋中に落ちているためだった。
誰にも当たることなく夜通し飛び回って役目を終えた白い円盤たちは、今は粉々になりながら静かにここに落ち着いていた。
きっと、お婆さんも、同じ夢を見たに違いない。

「なんで、わたしが片付けなくちゃいけないのかねえ……」

小さな雨を確かめる時のように両手を天井に掲げて、それからふーっとため息をついた。
しわしわの顔が、今朝はより一層しわしわで、猫は秋のもみじを思い出した。
危ないのでしばらく動かないようにと言いながら、お婆さんはちりとりの中にとても慎重に、夢の欠片たちを集めていく。
もう再生することのない夢が、床の上から完全に消えて見えなくなるまでかき集められると、やがてそれは黒いゴミ箱の中で最後の鳴き声をあげた。
猫は、その様子を少しばかり憐れむように見つめていた。

その横顔は、7月の空の上を永遠に回り続ける雲のように真っ白だった。

「まったく、調子にのって回し続けるから……」

お婆さんの言葉に、猫は少しわからなくなった。
やはり、別の夢だったのかもしれない……。
それでいて、同じ朝にたどり着いたのだろうか?
結果として、同じ朝に。











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