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風待ち

「3時までになりますが、よろしいですか?」

喫茶店ハイロウズのマスターは、言った。
ちらりと店の時計をみると、どうやら2時を少しだけ回ったくらいだった。
店内には、常連客らしい客がカウンターに一人いるだけで、お婆さんは奥から2番めのテーブルに猫と並んで座った。
流れているのはロックではなく、意外にもジャズでなかなかお婆さん好みの曲調だった。
さて、3時までに作りかけの短歌を完成させよう。
上の句だけで終わってしまって、続け方がわからなくなってしまった短歌をお婆さんは幾つも持っているのだけれど、勿論それは俳句をはじめ他のいかなる種類の詩としても成立していないものばかりだった。

 こんな時うどんがあれば走り出す ……

はて、どんな時だったかな?
なんで走り出すんだったかな?
猫に、ヒントを求めると、猫は早くも熟睡しているのだった。
アイスレモンティーの中に、当たり前のように浮いているレモンを眺めていると、作りかけの短歌よりも今ここに氷の上に浮かんでいるレモンについて、新しい短歌が浮かぶのではないかと迷いが生じてしまう。
そして、ほとんどの場合お婆さんは後から来た酸っぱさの方を優先させるのだ。
ふとカウンターの方に目をやると、女の子が座っていた。
先ほど常連客のように見えたのは、実は、この店の子供なのだった。
熱心にノートにペンを向かわせている、きっと、それは宿題なのだろう。

「急げよ! 時間がないぞ!」

マスターの声がした。
一瞬それは、自分に向けられたような気がした。
時間がないのは、むしろお婆さんの方だった。

「大丈夫、大丈夫。間に合わせる」
言葉通りに、ペンが加速していく。



ぼんやりと
流れていればよかったが
私は固い結晶と化した

キラキラと一瞬の
揺るぎなさから

粉々にわかれて
ふりだしに戻る

涼しげに
緩やかに流れは
続いていたけれど

キラキラの眩さに
ふつふつとして

浮き上がり
舞い上がった

ふわふわと
のんびり流れながら
浮いていればよかったが

キラキラと
キラキラと

恋しい地上に
降り始めた


いつも ただ
流れているようで
流されているようで

時に集合し 
時に分解し
時にいい気になって
時に号泣したりしながら

振り返れば私は
とても多くを
流れたようだ


キラキラ 明日が

透き通って




結局、勝ったのは子供だけだった。
お婆さんの創作活動は、再び路上に帰ってきた。
原点はいつも道の上にある、とお婆さんはつぶやいた。
肩の上に無理な姿勢で乗っている猫が、同意するように首を動かしていた。
歩いていけば、出会いがあるさ……。
そうしている内に、ベビーカーを押して歩く、若い母親とすれ違った。
少し遅れてシャボン玉少年が、泡を吹かしながら楽しそうに歩く。

「待ってよー……」

お婆さんの背中で、少年の声がした。
そして春風に乗って、少年の作り出した幻想の玉が流れてきた。
ふわふわと虹色に光り輝きながら、それはどういうわけか執拗に猫の頭ばかりを攻撃してくるので、猫はたまらずお婆さんの肩から飛び下りた。
そして、生き延びた泡々を追いかけて走り出した。

その横顔は、時の虹をかける猫のように透き通っていた。

「こらー、待てー!」
お婆さんが、逃げて行くものに向かって叫んだ。





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junsora(望光憂輔)

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今日も散らばって行こう
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「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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