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イルカになった猫

第一のコースにイルカが上った。
きっと優勝するだろう。
イルカの落ち着き払った表情を見て、猫は思った。
第二のコースのレトリーバー、その隣のみにくいアヒルの子を、猫は目を見開いて観察してみたものの、とても敵わないと思う。
第四のコースにライオンが登場するとさすがに百獣の王だけあって、場内は一気に緊張感を高めたものだ。
続けてエントリーしたカバとの距離が、恐ろしいほど小さくて、猫はどんなに頼まれたとしてもあの二人の間を通り抜けることは絶対に絶対に嫌だった。
第六のコースには空を見上げながら、かもめのジョナサンが上がった。
初夏の空は、雲一つなく澄み切っていて絵の具で塗ったようにどこまでも青く、鳥になったら今すぐ飛んでいきたい空だったけれど、転げてもひっくり返っても猫の背中に翼は生えてこないのだった。

猫が空を見上げている間に、ジョーズが、皇帝ペンギンが、ヒトがそれぞれエントリーを終えた。
プールサイドで猫は、深くブルーになりながら長いため息をついた。
自分だけが、泳げないなんて……。
ただ、見てるだけなんて……。
生まれ変わったら、絶対にイルカになろう。
それがダメなら、アホウドリだ。
アホウドリのように強く、優しくなるんだ。



春になったり
カブトムシになったり
できるなら
占い師にだってなれるはず

鳩になったり
ビターチョコレートになったり
できるなら
弁護士にだってなれるはず

生まれ変わって
なれるなら
今だって変われる

夢中になったり
優しくなったり

好きになったり
得意になったり

できるんだ
なれるんだ


ビルになったり
豪華客船になったり
できるなら
工場長にだってなれるはず

風になったり
バレーボールになったり
できるなら
旅人にだってなれるはず

生まれ変わった
つもりなら
今だって変われる

強くなったり
優しくなったり

輪になったり
ひとつになったり



できるんだ
なれるんだ


翼になったりオーロラになったり
積乱雲になったりドラゴンになったり
カシオペア座になったり未来になったり

想像することが
できるなら

ほらね

キミはもう
変わり始めている




「さあ、これを着て!」

お婆さんは、手作りの水着を猫に手渡した。
そして、最後のコースには猫が意気揚々と立っていた。
ズドーンッ、と鳴ってレースが始まると、真っ先に飛び込んだのはやはり大舞台に慣れているイルカだった。
続いてほぼ同時にヒトと皇帝ペンギンとカバ、それから猫だ。
かもめのジョナサンは、飛び込むことなく飛び立った。
目指すは十六分割垂直緩横転か、その素晴らしいスピードあるいはアクロバットはやはり大きな空でこそ発揮されるべきものだったからだ。
お婆さんは、真っ白い旗を振りながら猫にエールを送っていた。
猛スピードで追い上げてきたジョーズが、カバの尻に食いつくとそこから海底をひっくり返したような大喧嘩が始まって、残念ながら彼らはレースから脱落していくことになるのだった。
そんなことには関係なく、レトリーバーはどこまでもマイペースだったし、みにくいアヒルの子の姿は、お婆さんのところからは確認できなかった。

先頭のイルカを追うのは、ヒト、続いて猫だ。
お婆さんの声援に勇気づけられながら、猫はついに疲れの見え始めたヒトを捉えた。
壊れんばかりに壁を蹴ってターンをすると、イルカを猛追した。
猫は、空を得たジョナサンのように速く、それは正にお婆さん製の水着がいよいよ真価を発揮し始めた証拠だった。
イルカは、ラストスパートに入ったところでプールから飛び上がり、二度三度と回転して大いにギャラリーを沸かせたのだけれど、皮肉なことにそれは自分自身の輝かしいゴールを遠ざけた。
自分の泳ぎに自信さえ覚え始めた猫は、とうとうイルカさえも抜き去ったのだ。

最後の手を伸ばした時、振り返れば驚くべき記録で、なんとそれは動物新記録だったのだ!
猫の次に入ったのは、意外にも皇帝ペンギンで、ペンギンは自分のタイムをみてしきりに頷いていた。
続いて、ヒトがゴールする時、イルカは壊れた時計のように空中に留まっていた。
そして、百獣の王ライオンは最後までその場を一歩も動くことはなく、その姿はやはり王様にふさわしいものだった。
表彰台の上に立った猫は、きらきらのメダルにそっと感謝のキスをした。

その横顔は、なれるべきものになれた子供のように黄金色に染まっていた。

お婆さんは、今すぐそばにいって抱きしめたかった。
けれども、しばらくは離れていることに決めた。
ヒーローになった猫を、遠くで眺めている……。
それだけで、お婆さんも幸せなお婆さんになれたのだ。







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junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
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今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

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「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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