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一人稽古

駅前は、まるでテレビのゴールデンタイムのようだ。
通る人も多いけれど、ライバルたちも多かった。
ヒロシは手当たり次第、通りかかる人に手を差し出した。
けれども、ペースは一向に上がらず残り2箱のノルマを抱えていることを思いながら時折俯いてしまうのだった。
まだ4月の間は、人々の手はもっと優しかったような気がする。

「どうぞ!」

必死に笑顔を作っても、次の瞬間笑みを向けた対象は何も見なかったかのようにヒロシのすぐ前を素通りしていき、届くことのなかった言葉と笑顔が行き場を失ったままいつまでもふわふわと浮いているのだ。
そうした小さな失敗を繰り返す度に、辺り一帯に不健康な空気が充満していくのだった。
まるでひとり芝居のようだ。
不意に、そんな気持ちになった。
そうだ。自分は今ひとりで芝居の練習をしているのだ。
発表の場は……、発表の日時は……、
まだ、何も決まっていなかった。
けれども、どうせだからうまくなりたい。
今よりも、少しだけでも。

「一つ、もらおうかね」

白い帽子を被ったお婆さんが近づいてきた。
肩には、猫が静かに乗っている。
ヒロシは、猫とお婆さんにそれぞれ一つずつ手渡した。
自分から来てくれる人ほどありがたいことはなく、少しだけエネルギーが補充されるような気がした。
けれども、やはりいい流れはそう続くことはなかった。
ズー……、ズー……、
少し離れたところで、お婆さんが鼻をかむ音がする。



未だ何でもない
未だ誰でもない
だから僕らは集まって

声を合わせて
メッセージはありません

何も発しない
何も表さない
けれど僕らは集まって

肩を並べて
メッセージはありません

言いたいことがなくても
黙ってるわけじゃない

声を大にして
メッセージはありません

どうしても
言わなきゃならない
ことなんかない

だから僕らは
叫ぶんだ
メッセージはありません




「どうぞ!」

けれども、疲れきったグレーのスーツは下を向いたまま通り過ぎていく。
本当に必要な人は、お金を払ってでも手に入れるのだ。
いくらでも、手に入れるのだ。
そして、少しも必要でない人は、ただであげるといっても見向きもしないのだ。
受け取ってもらうことは、本当に難しい。

全部を配り終えた時にはすっかり日が暮れ、三日月が青白く光って明日の天気を予言していた。
空箱を始末すると、疲れた足を引きずって歩いた。
アーケード通りを抜けて、橋を渡ったところで奇妙な光景が目に入ってきてつい足が止まってしまった。
それは、帽子のお婆さんと猫だった。
ダンボールの切れ端に短い文字が書き付けてあって、それがいくつも路上に並べてあるのだった。
お婆さんに訊くと、それは「猫短歌」というものらしかった。

「一つ10円じゃがね」
お婆さんの歯がきらりと光った。

その横顔は、月も見つめる千両役者のようだった。

「やすっ……」
思わず口に出る。
けれども、ヒロシは笑みを浮かべたまま歩き出した。
詩とか短歌などには、全くといっていいほど興味がなかったのだ。
訴えるように見つめている、
猫に小さく手を振った。









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ジャンル : 小説・文学

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junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
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今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

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「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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