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おかえりなさい

お婆さんは、毎日日記を書く。
日記を書くと瞬時に100人もの人が見に来るのだ。
そしてペタペタと足跡を残していくのだ。
けれども、日記帳が真っ黒に汚れてしまったりボロボロになったりすることがないのは、足跡というのが実は人の名前だからなのだった。
名前といっても、親やお祖母さんが付けるような名前ではなく、みんなが好き勝手に付けられる。
勿論、お婆さんだって好き勝手に名前を付け、時には変更だってするのだ。
いったいどんな人が見に来ているのだろうと思って、時々足跡をたどってみる。
足跡をたどるといっても実際にてくてくと追いかけるわけではなく、瞬間的にその人の家まで行くのである。
家といっても、本当にその人が住んでいる建物ではなく、言わば架空の家なのである。
そうして足跡をたどってその人の家に遊びに行ってみるのだが、家を見ただけではどんな人かまではわからないのである。
そこで何か声でもかけてみようかと思うが、変な人と思われるかもしれないし、やっぱりやめておとなしく自分の家に帰るのだった。
家といっても、木造の家とかではなくて、お婆さんの日記のある家だ。
いずれにせよ、お婆さんは自分の家にいてその中でまた家の中にいて日記を書くのだった。
日記を書くと瞬時に100人ばかりの人が見に来るのだった。

「はーい、笑って、笑って!」

書くことに困った時は、猫の出番だ。
モデル料はたっぷりとはずむことになっている。
それが十分にわかっているので、猫も素敵なポーズを惜しまない。
ナイスショットの連続に、お婆さんの指にも思わず力が入る。
今日は、どれくらいの人が訪れか、わくわくしてくるのだった。



新しい日の始まりに
星と雲の流れ
心と頭と体の
乱れを

確かめなければ
進めない

新しい人との始まりに
どこからやって来て
好きと嫌いと
匂いと関心を

確かめなければ
落ち着けない

みんなみんなチェックマン
一通りのシートを持ってる

新しい場所での始まりに
澄んだ水と
優しい空気と
自分の居場所が

確かめなければ
生きられない

長い一日の終わりに
目を閉じて
よかったこと
わるかったこと

確かめなければ
安らげない

いつもみんながチェックマン
自分なりの基準を持ってる

最初は何も
知らなかったし
知らずにすんだ

でもいつか立ち止まり
振り返ることを
確かめることを

知ってしまった
チェックマン

項目に追われて
進み続ける




お婆さんは日記を書いた。
すると瞬時に100人の人が、日記を見に来た。
結局1時間の間に104人もの人がどこからともなく訪れたのだった。
そして今日も、静かに足跡だけを残し去って行った。
お婆さんは、どんな人が見てくれたのだろうと思って記号のような名前の足跡を一つずつたどっていった。
そうしている内に、夜はどんどん更けていき何かを見失っていくかのようだったけれど、それが何かということまではわからなかった。
ふと、少し離れたベッドの上でじっとお婆さんを見つめる生き物の視線に気がついた。
いつも、一緒にいるはずの猫だった。

その横顔は、明けない夜を知った朝顔のように寂しげだった。

そして、猫の目は静かに語りかけてくるのだった。

「お婆さん、たったひとりに届くことを夢見た頃を思い出せ。
 ようやく、誰かひとりに伝わったときの喜びを思い出せ。」

お婆さんは、しばらくじっとしたまま猫の声なき声を聴いていた。
それからモニターに向き直ると、少し照れたように笑みを浮かべた。
そして、音もなく日記を閉じた。
再び猫の方に顔を向けると、久しぶりに一首詠んだ。
猫は、静かに耳を傾けていた。



                 *


 足跡を一つ一つたどったらいつかどこにもかえれなくなる









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テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

Comment

はじめまして。
もぅ2年近く読み逃げさしてもらってました。

いつも面白い組み立て方をするなと見ていたんですけど、
今日のは最後の1行がなんか衝撃的でした。


いちばん下にある『なきうた』という詩もすきです。

稀汐さん、はじめまして。
に…2、2年!!!!
……色々と驚きながら百人力な気持ちです(^_^;)

足跡に温もりを覚えつつも、人の追いかけられる足跡って、
どこか限界があるな、と最近なんとなく思います。

「なきうた」底の方に沈んでほとんど忘れかけていました。
春は、不思議と泣きたくなる時がありますね。
読んでくれてありがとうございます♪

お久しぶりです
覚えていて下さると嬉しいです。

独特な世界に吸い込まれます。
猫の表情が、本当に人間のような、でも動物のけむくじゃらな顔が頭の中を過ぎります。

雪が降ると足跡は消えてしまう
こんなに遠く小さな足跡も消えてしまう
でも忘れてはいけない
誰かの温度を
私の家を
忘れないように

では^^

トコさん、お久しぶりです
流石に覚えていますよ(^_^;)
ところにより、僕は記憶力はいい方なんです。
トコさんの出てくる詩も思い出しました。
http://junsora.blog37.fc2.com/blog-entry-198.html

猫ってほんと不思議ですね♪
時々哲学的な瞳が浮かんだかと思えば、野生の方向に飛んでいったり……
何を考えているかわからないところがあります。

キミがやってきた足跡を
いつか雪が真っ白にしてしまうけど
私はキミのたどった道筋を
闇の中で描きながら追って行くだろう
キミの置いていった
温もりだけを頼りに


お久しぶりです。
すてきな詩、拝見いたしました。
これからもjunsoraさんらしい詩を書き続けてください☆
応援してます!

トクさん、お久しぶりです。
僕は相変わらず下手ながら、相変わらず
好きで、だから続けていくと思います。
こちらこそ応援してます♪
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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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