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2007-11-25 Sun 17:09
秋風が、原稿用紙をはためかせていた。
走り出さない鉛筆を指でもてあそびながら、のりちゃんは窓の外を眺めていた。 生い茂った緑色の中に、白い影がちらちらと覗くのが見える。 草むしりに精を出す猫だった。 また、あの猫か…… のりちゃんは原稿用紙を押さえながら、あくびをした。 「何でもいいから、書けばいいんですよ!」 お婆さん先生が、ハードルを下げるように優しく言った。 けれどもそれは、壮大な草原の中で幻の蝶を追いかけるようなものだ。 方向もわからない砂漠の中で、魔法の指輪を探す旅のようなものだ。 世界中の人の中から、今すぐに、結婚相手を見つけるようなものだ。 何でもいいのなら、何も書かなければいい……。 だから、のりちゃんは何も書かなかった。 まだ一文字も。 真っ白い時間に、教室の窓がガタガタと震えていた。 布団を被ったけれど ひとときも眠れない 寝返りを打つ度に 夢は遠のいていく あきらめた ご飯が炊けたけれど 一粒も食べれない 真っ白い朝の横で 私は細くなっていく あきらめた 靴を履いたけれど 一歩も歩けない あの日開けていた 道はもう見えない あきらめた 私は ふわふわと夢を見て 胸いっぱいに満たされて 自分の好きにいきたかったのに 本当に必要なもの あんなにも 欲していたものが みんなみんな 嘘のように 消えていって 私は 言葉さえも失った 話したいことは 色々あったのに 「言いたいことが、何か一つはあるでしょう!」 お婆さん先生が、別の角度から助け船を出してきた。 けれども、その豪華客船は見上げているのが精一杯だ。 もっと小さな舟だったらよかったのに……。 それなら大きな海を、想像することもできたかもしれない。 ただただ過ぎて行く時間が、溢れる自由が惜しくて仕方がなかった。 何かを書かなければ、帰れない。 どこにも、何にも……。 「何も書かないのなら、これは必要ないでしょう」 そう言うと、お婆さん先生は机の上の消しゴムを窓から放り投げた。 かすんでいく白を、真っ赤に染まったのりちゃんの目が追っている。 その横顔は、白夜の真ん中で立ち尽くす黒板のように静止していた。 のりちゃんの消しゴムは夕暮れの中で膨らんで、一瞬で雲になった。 間もなく、夏の終わりのような雨が降り出した。 そして、それは始まりだった。 最初の一文字は、 「雨」 と書いてあった。 校庭でくつろいでいた猫は、突然の雨に驚き走り出した。 体育館の裏に避難するのだ。 雨に打たれて、背中が白く光っている。 机の上では、のりちゃんの鉛筆もようやく走り出していた。 未だ見えない結末に向けて、 まるで、長い長い助走のように……。 |
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