スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

街の灯

すっと開いたドアから、猫はそっと入り込んだ。
ピカピカに磨かれた床の上を、肉球が力強く進んで行く。
コンビニエンスストアには何でもある。
おにぎりがあり、お茶があり、ヨーグルトがある。
パンがあり、ペンがあり、ハンカチがある。
あちらこちらに亀がおり、派出所がある。
赤いポストの横で、国民の一票がばら売りされている。
夏が終わる頃になると、ホタルが飛び去った後のホタルの光を売っているし、激闘が繰り広げられた後の甲子園の土も売っている。

コンビニエンスストアには、ないものはあるのだろうか?
猫の小さな頭の中を、瞬時に24時間が駆け巡った。
ないものがないのなら、それは当たり前にも思える。
ないものがあるのなら……
それもまた当然のようであり、どこか矛盾に満ちた響きのようでもあった。

猫は考えることに少し疲れて、一切れのマグロをくわえた。
ゆっくりと歩く猫の横では少年がすすり泣きながら、甲子園の土を拾い集めていた。
湿った土の中から、カブトムシが這い出てきて猫に角を立てて闘いを挑む。
甘やかな香りは、白い恋人が溶け出しているからだ。

猫は、急いだ。
自動ドアの前に立つが、なぜかドアは開かなかった。
ドアの前で必死にバンザイをしてみたけれども、反応はなかった。
縞々の囚人服を着た男が、追ってきた。



行くべきところが
ないから
僕らはここにいる

出入りの絶えぬ
この場所に

向かうべき方向を
持たないから
僕らはここにいる

灯りの絶えない
この場所は

今は僕らの
セカンドハウス

みんなで集い
カップを抱え

少しの温かさを
分け合おう

探すべきものが
見つかるまで
僕らはここにいる

咎められない
この場所は
今は僕らの宝島

閉ざすことない
この場所は
今は僕らの拠り所

生きた証しを
少しだけ
パラパラと置いて行く




猫に罪があったかどうかわからない。
けれども、猫はお婆さんに助けられ何とか捕まらずに済んだ。
すっかり溶けてしまったチョコレートでベタベタになった床の上を、猫を抱きかかえたままお婆さんは歩いた。
かき氷の詰まった最も冷たい場所を通り過ぎ、雑誌コーナーを通り過ぎた。

「さて何だったかね?」

お婆さんは記憶がなかった。
そして、そんなことは別に珍しいことでもなかった。
とりあえずお婆さんは、一切れのマグロと笑い袋を買った。
本当に買うべきだったのは、猫川柳とゴミ袋だったけれど、そのことに気がついたのはコンビニエンスストアを出て100歩ほど歩いた頃のことだった。
お婆さんが立つと、自動ドアが今度は開いた。
良い心を持った者でなければ、開かないのかもしれない……。
猫は、少しだけ自分自身を疑った。

その横顔は、短い夏の中で明滅するホタルの光のように小さかった。

コンビニエンスストアの外は、深い夜だというのに人々が身を寄せ合うようにして固まっていた。

「祭りかね?」

お婆さんは、そっと猫の耳元で囁いた。
けれども、それはどちらかと言うと祭りの後の寂しさに近かった。
誰もがこれから先の行き先を決めかねていた。
ラーメンの匂いが、猫の鼻先をくすぐった。

「どうしよう?」

少年の声。
答はまだ見つからないようだった。




スポンサーサイト

テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

Comment

短編小説っぽい・・・・・・・

www121 さん、コメントありがとうございます。

いつか短編小説も、書いてみたいです♪

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

****さん、はじめまして☆
ありがとうございます ^^
ぜひ♪
非公開コメント

Trackback


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

笑い袋笑い袋(わらいぶくろ)は1960年代から1970年代(昭和40年代)頃に流行した玩具。主に、株式会社アイコが販売している。概要片手で簡単に持てる程度の大きさの袋の中に小型の笑い声を収録したレコードプレイヤーが入っており、中のスイッチを押すと、ひたすら笑い声が
カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
リンク(相互、片道、色々…)
最近の作品
最近のコメント
プロフィール

junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
たいした意味などありゃしない


旅の途中の紙くずたち
今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

猫と婆とそんな横顔はリンクフリー
「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

最近のTB / 返詩
そんなカテゴリー
折り返し地点

『折句ストレート』

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

フリー素材のある場所

・天の欠片
・e-素材web
・素材屋さんromance.com
・アイコンワールド




RSSフィード
月別アーカイブ
フリースペース

フリー百科事典
『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























ブログ内検索
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。