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婆の決断、猫の機転

「何か1つ減らしますわ」

10円が足りないために、お婆さんは何か1つは手放さなければならなかった。
そういうことは、前にも何度かあったし、その時も10円足りなかったり、20円足りなかったり、3000円足りなかったりしたのだった。あるいは、1円足りないために、あきらめなければならないという時もあって、その時はよりくやしい思いがしたものだし、下の方を見ては奇跡の1枚が落ちていないかと探したものだった。奇跡は、日常の中にあふれているものだとしても、そういう時に限ってお婆さんの足下に、奇跡のきらめきが訪れることはなかった。
「何を減らしましょうか?」 店員さんは、人造人間のように親身な眼差しをカゴの中に投げかけた。もう少しすれば、涙までも落ちてくるかもしれない。お婆さんの背後には、いくつものプレッシャー団体が迫っていて、お婆さんはいよいよ決断を迫られているのだった。

「じゃあ、これを」
お婆さんは、そう言って猫の好物を指した。
「かしこまりました」 そうして店員さんは、手を伸ばした。

「じゃあ、これは僕が戻しておくとしよう」
猫は、店員さんの手からそれをかっさらった。そして、歩き出した。

「じゃあ、よろしくお願いね」
お婆さんは、猫にお願いした。店員さんも、猫の後姿に頭を下げた。

「マイバッグでお願いします!」
お婆さんが、大きな声で宣言した。
「今日は、麻婆豆腐なんですよ」



積み上げてきたものを
ひとつひとつ捨てた
捨てる度に私は傷ついた

私は私を離れて
確信のない夜を彷徨った

そうしてまでも
得たいものがあった

つながりあったものたちを
ひとりひとり私は捨てた
切れるほどに人を傷つけた

私は人を離れて
自分だけの世界を彷徨った

そうしてまでも
得たいものがあった



かき集めてきたものを
育ててきた大切なものたちを
私は捨てて捨てて捨てて捨てた

最後に私はひとり
もう何もなかった



たったひとつのこだわりのために
私は過去のすべてを踏み潰して
歩いて歩いて歩いて歩いて歩いた

それでも私の手から
宇宙が冷たく通り抜けるように
何もかもは落ちていった


けれど



たしかにあったかい

ソレイユ




お婆さんは、マイバッグにリンゴを入れた。
リンゴは、するりと落ちて転がった。
これがきっと、引力というものね……。
お婆さんは、続けて早生みかんを入れた。
すると早生みかんは、するりと落ちて転がった。
お婆さんは、続けてレモンを入れた。
するとレモンは、するりと落ちて転がった。
入れても入れても、お婆さんのマイバッグは、自動販売機のように落ちていく。
10円玉も、ポカリスエットも、いかるが牛乳も……。
何もかもが落ちていくんだね……。
お婆さんは、腰を下ろし落ちたものたちを拾いながらつぶやいた。
落ちたものは、拾わなきゃ……。
落ちたものたちの周りには、誰も近づかずレモンの香りだけが漂っていた。
お婆さんのマイバッグは、本当はマイエプロンに過ぎなかったのだ。
お婆さんは、マイエプロンの中にすべてのものたちを閉じ込めて、きつく紐を結んだ。

ようやく猫が戻ってきた。
「あんた、ちゃんと戻してくれた?」
猫は、口をもぐもぐしながらうんうんと頷いた。

その横顔は、初めてのお使いから戻ってきた羊雲のようだった。

スーパープチトマトの外は、すっかり日が落ちて、月が顔を出していた。
「だんだんと寒くなるね」
白いビニール袋が風に乗って流されてきた。
猫は、ひょいと避けてお婆さんの左側に回りこんだ。



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テーマ : 詩・ことば
ジャンル : 小説・文学

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junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
たいした意味などありゃしない


旅の途中の紙くずたち
今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

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「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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