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まちゃ猫まちゃ

 無償の愛を、猫は恐れた。


 ----好きだよ。好きだよ。

 ----おいでよ。何も怖くないよ。


 スキスキオーラを出しながら近寄ってくる。
 ネコスキたちに追われていると猫はヒトキライになる。


 ヒトキライは隠れる場所を探さなければならなかった。
 隠れる場所を探すことは生きるための道であったし、その道を絶えず磨き続けてずっと生きてきたのだ。隠れることは生きることそのものだった。だからこそ猫は人には見つけられない小さな隙間を見つけ出すことができた。どんなに追い込まれた時であっても、ほんの一瞬で見つけ出すことができるのだった。けれども、ネコスキたちに追われている時は、普通の場所ではすぐに見つかってしまう。例えば、絵本の間、トランプの箱の中、長靴の底、プールサイドの端っこ、オルゴールの中、四六時中の休憩所、どら焼きの中心、木陰、そのような場所に隠れるのは無意味だった。
 まちゃまちゃの間に猫は隠れることにした。ほんの僅かな隙間、けれども才能のある猫にとっては充分な隙間を見つけて身を隠した。その時、猫はまちゃ猫まちゃになった。後を追ってきたネコスキは、まちゃまちゃの前で足を止めてまちゃまちゃを見、まちゃまちゃの足下や頭の上を見、まちゃまちゃの周辺を見回したけれど、猫はどこにも見つからないのだった。ヒトキライの隠れ方があまりに見事だったために、まちゃ猫まちゃになっているところが、ただのまちゃまちゃにしか見えたかったのである。
猫は安住の隙間を見つけた時、この上ない幸福感に浸る。世界で一つ、自分だけの秘密の隠れ家。もう、ヒトが来ても怖くはない。もう、誰にも見つからない……。

 まちゃとまちゃの間で猫は歩いた。まちゃとまちゃに抱えられながら、時々猫は飛ぶように歩くのだった。まちゃもまちゃもほど良いバランスを取りながら猫を浮かすので、猫はそのまちゃまちゃの感覚を信じて身を預けることができるのだった。地面スレスレの低空飛行、けれどもその何秒間かの一体感を猫は愛した。そこは最も小さな宇宙、そして最もまちゃ猫まちゃな時間だった。

 ネコスキに追われている猫を見た。一昔前の、まちゃ猫まちゃになる前の自分を見るように見ていた。猫は、ヒトキライに変化しながら非凡な隠れ場所を探しているけれど、まだそれは見つけられないようだった。まちゃ猫まちゃは、逃げる猫の瞳に桜色の不安を見て取ったのだった。それは四月のチョークが分断される時のように憂いを帯びた色。猫がこちらに近づいてくる。
 まちゃ猫まちゃは、逃げる猫を見ていた。呼び声をあげようとしてあげなかった。まちゃまちゃの間に引き込めば、猫を救えることは確かだった。けれども、その間は決して充分ではなかったのである。まちゃ猫まちゃはそう思い、思いとどまったのだった。あるいは、そう思い込むように自分に仕向けたのだった。ここは、自分ひとりの場所。まちゃまちゃを見上げるとまちゃまちゃは空を見上げていた。空では鳥が、束になって雲を描いている最中だった。

 まちゃとまちゃの間で、眠った。何度も何度も同じ夢を見た。まちゃとまちゃがいなくなってしまう夢だった。目が覚めると自分がまちゃとまちゃの間にいることを確かめて、猫はまた安心して眠るのだった。
 ある時、目が覚めるとまちゃとまちゃがいなくなっていた。きっとこれは夢だ……。猫はもう一度、目を覚まし直そうとして眠った。夢の中で、猫はネコスキたちに囲まれて宴を開いていた。宴は、ネコスキたちが疲れて桜の木の下に帰って行くまで続いた。そうして目を覚ますと猫は、まちゃとまちゃの間にいるのだった。それから、猫はまた眠った。

 巨人がチューブを振り回す音が聞こえた。それは遠くの遺跡から聞こえてくる異様な音楽のようだった。空を切り裂き、星を切り裂き、時を切り裂いた。コーヒー豆を切り裂き、クマの小言を切り裂き、屋根の上の絵本を切り裂いた。音は、徐々に気がかりとなって、まちゃ猫まちゃの方へと忍び寄ってくるようだった。永遠に似た一瞬の静寂が、新しい音階を溜め込んでいる間、気がかりはいよいよ増幅して猫の首筋を撫でつけるのだった。何かがやってくる。
 何かが……。やってくる……。
 巨人が、再び狂ったようにチューブを振り回し始めた。
 まちゃ猫まちゃは、まちゃまちゃに身を寄せ、よりいっそうまちゃ猫まちゃであり続けた。



おかえりと声が
聴こえるような
秘密の隠れ家を
僕は見つけたよ

こんなところに
あったんだね

ほっとするような
あたたかな場所

おかえりと声が
迎えるような
小さな隠れ家を
僕は見つけたよ

こんなところに
あったんだね

追ってきても
もう大丈夫だね

おかえりと愛が
包むような
秘密の隠れ家を
僕は見つけたよ

こんなところに
あったんだね

みんなみんな
逃げておいでよ
守ってあげるよ


おかえりと愛が
微笑むような
秘密の居場所を
僕は見つけたよ

ほっとする間に
広まる安らぎ

小さな隠れ家は
いつか僕たちを
抱え切れなくなって

もう おかえり

誰かの
声が聴こえて僕は
ひとりになる

おかえりと声が
聴こえるような
最初の隠れ家を
僕は見つけたよ

こんなところに
あったんだね

たしかにきっと
あったんだね




 「そんなところにいたら邪魔ですよ」

 まちゃ猫まちゃの間の猫に対して、お婆さんが言った。
 猫は、身をサイコロのように縮めてお婆さんの声が通過するのを待っていた。
 けれども、待っているのはお婆さんの方も同じだった。

 「そんなところにいたら邪魔ですよ」

 そんなはずはなかった。そんなはずはなかった。

 「そんなところにいたら邪魔ですよ」

 お婆さんは、呪文のように繰り返した。
 繰り返される度に、まちゃまちゃは小さくなってゆくのだった。猫が瞬く間に、隠れる間が失われてゆく。どれほど身を低くしてしがみつこうとしても、猫の手も背も尾も否応なく明るみに出て、もはやまちゃ猫まちゃとしてはいられなくなっているのだった。
 ついに猫はひとり飛び出した。

 その横顔は、新しい大地に生え始めた角のように頼りなく光っていた。

 猫は、歩き始めてまちゃまちゃの方を振り返った。
 けれども、そこにはお婆さんが立っていて見えなかった。
 スキップをするように、ぎこちなく気ままに猫は歩き始めた。低空飛行のような歩き方だった。
 小さな石ころが、気まぐれに猫の足下を駆けていった。




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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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