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まわり終わる頃

初夏の夜はまだ始まりだった。
UFOは急降下すると光の帯を瀧のように下ろした。
お婆さんたちは、吸い込まれまいと必死だ。
地べたに踏ん張るカブト虫のように……。
けれども、やがて猫だけは負けてしまった。
UFOに吸収されると、瞬く間に見えなくなった。
お婆さんは、懇願するように手を伸ばす。



もう届かない
風に消された
僕の声

予兆も無く
きみは飛んだ

伝えたいことは
たくさんあったのに

もう届かない
遠く離れた
きみの影

助走もつけず
きみは飛んだ

伝える時間は
たくさんあったのに

もう届かない
小さくなっていく
僕の声

もう届かない
見えなくなった
きみの影

自由に僕を
置いていった

届かない距離
もう願うだけ




UFOの中は、猫の知るあらゆる建物よりもずっと広かった。
中にはスペース映画館、スペース会議室、スペース動物園、スペース博物館、スペース公園、スペースゲームセンター、スペース遊園地、スペース学校、スペース水族館、スペース村などがあり、宇宙人々はみなそこで学習したり遊んだり生活したりしているのであった。
スペース回転寿司で見たこともないネタに舌鼓を打ちながらも、遠く狭苦しいお婆さんの家のことを時々思い出した。
宇宙人の人々は、みな古くからの友人のように友好的であり、猫は次第に警戒心を解いていった。
そうして何日もかけて、猫はスペース動物園、スペース博物館、スペース公園、スペースプール、スペース競技場、スペース広場、スペース村などで遊びまわった。遊びまわっても遊びまわっても尽きることのないスペース施設の豊富さと、自分の好奇心に愛想が尽きるほどだった。

「もう少しだよ」

「回転が止まるのは」

ある日、スペース会議室の片隅でまどろんでいる時に、猫はその会話を聞いてしまった。

「そうしたら、もっと人間たちを取り出しやすくなるのね」

「いずれ地球は僕たちの星になるのだ」

そう言って、宇宙人の男は微笑んだ。

その横顔は、わが子へのプレゼントを思案する地球人の父のようだった。

あまりにも優しい面影に、猫はここにきて始めての恐怖を覚え震えた。けれども、その震えの半分には唯一危険が差し迫っていることを知ってしまった地球生物としての使命感に似たものが含まれていたのである。
もうすこしで、地球が止まってしまう……
伝えなければ…… 伝えなければ……
早く、お婆さんに。
猫は、心をかためた。


冬の夜、一つの隕石がお婆さんの家の屋根を突き破って落ちてくると、中から顔を黒く塗った猫が現れて、何やらお婆さんに向かって狂った火山のように訴え始めた。けれども、その燃えるような熱意とは裏腹に、気持ちは少しも伝わらなかった。

「なんだい、寒いじゃないか」

お婆さんは、夜のような猫の横顔をなでながらつぶやいた。
ぽっかりと空いた屋根の中から、冬の星座がのぞいていた。



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テーマ : 詩・想
ジャンル : 小説・文学

冬の準備

「猫を見なかった?」

けれども、女は顔色一つ変えなかった。
その眼差しは、冷たくお婆さんを突き刺したまま瞬き一つしなかった。
赤いカーディガンから伸びた細い指先が、雨の日の熱帯魚のように輝いている。生まれてから一度も、ダイエットなどというものを必要としなかったであろうスリムなボディー。ファッション誌の20ページくらいを適当に開けば、現れるであろう完全な着こなし。若さ。羨望を込めてお婆さんは女を見つめた。
女は、身じろぎ一つしなかった。

「バナナダイエットって知ってる?」

それは一昔前に、まちである種の熱狂を持って流行した特異な形のダイエットである。
まち中のバナナを求めて、誰もが息を切らして駆けずり回り買いあさった。まるでバナナをたくさん持つことが、その人の社会的なステータスであるかのように。結果、まちからバナナが消えてしまった。人々は、バナナが消えるほどより一層バナナを探してまち中を歩き回り、時にはその労力は隣のまちへ、あるいは遠く離れたまちまちまでも及ぶことになったのである。一つのバナナを探すことに費やされる恐るべき情熱と運動量。そして探しても結局は見当たらなかった時の一抹の寂しさが、ダイエットにつながると固く信じられた。ブームは、なぜか突然に終わった。

「ねえ、そんなものがあったでしょう」

けれども、女は唇一つ動かさなかった。
やっぱりね。あなたには、必要なかったようね。
お婆さんは、沈黙のうちに赤いカーディガンを奪い取った。
今日から、これは私のもの……。
それでも、女は文句一つ言わなかった。
露わになった白い腕の先に伸びた細い指先が、12月を走る涙のように光った。



紙があった
誰かが折った
私も折った

そのようにして
キミをまねた

キミの仕種の
一つ一つを
私はまねた

キミは私の大いなる
お手本だった

ボールがあった
誰かが追った
私も追った

そのようにして
キミをまねた

キミの走りの
一つ一つを
私はまねた

キミは私の大いなる
憧れだった

一つ一つ
キミの形を追って
その意味さえ知らなくても
私はずっとキミのすべてに
ひかれ続けた

いつか私は
キミのように

いつだって私は
キミのように

なりたかったんだ




何も言わない女は、少しだけ寒そうに見えた。
お婆さんは、今まで自分が着ていた色あせたカーディガンを代わりに着せてあげることにした。
女は、少しだけうれしいような少し困ったような複雑な表情を浮かべたように見えた。

「一つ、教えてくれる?」
「私は、これからどこへ行ったらいい?」

女は、何も答えなかった。
けれども、次の瞬間、お婆さんのぼろを纏った腕がゆっくりと動き始めた。徐々に持ち上がった左腕は、あるところまで来ると突然止まり、その指先がお婆さんのこれから進むべき方向を指し示していた。腕は動いても、顔は依然として前を向いたまま動かない。

その横顔は、創作が始まる以前のノートのように真っ白だった。

人形の指示に従って歩いていくと、レジでは猫が一足早くお婆さんを待っていた。
赤い手袋をくわえながら、少し待ちくたびれた様子だった。
そうそう、手袋も買わなくちゃね。
お婆さんは、猫から手袋を受け取った。






テーマ : 恋愛詩
ジャンル : 小説・文学

雲隠れ

世界は回っている。
幸か不幸かわからないまま、出会いと別れを引き連れて。
世界は回っている。
あまりに速く、回っていることを忘れてしまうほど。
世界は回り、回りすぎておかしくなっていく。

「ああ、神様!」

回転を終えた世界の中から帰ってきたものは、すっかり見違える姿になっていた。
お婆さんは、無理に体を細めて進入を試みたけれど、頭を入れることもままならなかった。
すっかり途方に暮れていると、世界のどこかから猫が歩いてきた。暖炉にあたるように身を寄せてきた。
寒いの?

「これはおまえにあげよう。これから、もっと寒くなるからね」



10周回って走り出す
世界はまだ回っている

キミの元へ
駆け寄ろうとするが
回っているのでたどり着けない

青と白が交錯する

回っているのは
世界か私か

世界の中心は
どこにもあって
どこにもない

10周回って立ち止まる
世界はまだ揺れている

自分の元へ
留まろうとするが
揺れているので揺れている

赤と黒が交錯する

揺れているのは
母か私か

世界の中心は
どこにもなくて
どこにもある

10周回って思い出す
世界はまだ回っていた

おかしくなりながら

誰かが呼んでいる




「御免ください」

お婆さんの家を人が訪ねるのは、久しぶりだった。
隣の町からわざわざやってきた女は、野菜を売ってくれるという。白いTシャツの胸の真中でカボチャが能天気に笑っていて、黒い長靴の先には今畑から飛び出してきたように土がついていた。
「あらあら、遠いところから」
お婆さんのセーターを着た猫は、小さな雪ダルマのように見えた。
女が視線を向けると、雪ダルマはますます小さくなった。
「あらあら、かわいい猫さん」
女が手を伸ばすと、小さくなった雪ダルマは、もっと小さくなって雪のてるてる坊主のように小さくなった。
「知らない人が来ると、縮んでしまってね」
てるてる坊主は、首を垂れながらお婆さんの背中の後ろに逃げていった。

その横顔は、3月の雲に溶けてゆくたんぽぽのようだった。


お婆さんは、コマツナを中心としてコマツナと愉快な仲間たちのジュースを作った。
ミキサーの中で魅惑のハーモニーを奏でて混じり合う、豊かな自然。
お婆さんの瞳の奥は、人里を遠く離れてやがて森の緑に染まっていった。

世界は、いつも回っている。
寝ても覚めても回っている。
回りすぎるので、おかしくなってしまう。
猫は、暇を見つけてかくれんぼする。


テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

あふれる猫

いつものように、猫は転がっていた。
まどろみながら、くるりと回ると猫にぶつかった。
見覚えのある見知らぬ猫だ。
懐かしく疑いながら、くるりと回転する。
今度も、また猫にぶつかった。
おちおちと眠ることもできずに……。




猫の額のように
狭い部屋の中には
ギザギザの十円玉が
転がっている

拾い手のない円周率が
ことを円満に
狭めていくように

遠慮のない調子で
転がっている

片付ける場所はないから
足の踏み場もない

過去の期待のように
狭い部屋の中には
ひねくれたハンガーが
転がっている

掛け値のないカーブが
ことを複雑に
交差させるように

伴侶のない様子で
転がっている

足の踏み場はないから
片付ける術もない

明日の希望ほど
縮まった部屋の中には
昨日の自分が
転がっている

鏡に映らない面影が
鋭気だけを
吸い取るように

何もない形で
転がっている

誰も片付けないから
昨日だけが
重みを増して

今日を狭めながら

積み重なっていく





折り重なるように転がった。
次第に猫の数が増えていることに驚きながら……。
猫は所狭しと駆け回った。

その横顔は、昨日に向かい尾を立てる猫のようだった。

「お婆さん、大変だ! 猫屋敷になってるよ!」

けれども、お婆さんは猫だけを見つめていた。
太陽のように、じっとして。
皺の数ほど落ち着いていたのだ。




テーマ : 詩・ポエム
ジャンル : 小説・文学

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junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
たいした意味などありゃしない


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今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

猫と婆とそんな横顔はリンクフリー
「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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