マイホーム・トレイン
2008-06-24 Tue 20:33
朝の通勤ラッシュが終わった時間、電車内はゆったりとしている。
お婆さんと猫は、ゆったりとくつろいで座っていた。

「本日も快適電車ご利用ありがとうございます!
 まるで、自分の家と思っておくつろぎくださいませ!」

いつものように決まりきった車内アナウンスだ。
お婆さんの前の席には、4人がけの席におばさん7人が幸せそうに座っている。
そのうちの一人が、紙袋の中からホールケーキを取り出すと、その隣のおばさんがどこからともなく紙のお皿を取り出して、早速切り分けたケーキを順番に食べ始めたのだった。

(まあ、なんておいしそう!)

猫と、お婆さんは、春の始まりに風と蝶が運んでくる花のそれにも似たなんとも言えないいい匂いにふらふらして、今にも倒れそうだった。
ごくり、とつばを飲み込む。



すべての場所は
我が家のように
遠慮は消えて

さあ 座れ
好きなところへ

すべての場所は
我が家のように
明かりは消えて

さあ お食べ
好きなものだけ

すべての場所は
我が家のように
我を通せ

さあ 叫べ
思いの丈を
すべて

思い残すことの
ないように

すべての場所は
我が家のように

いつも
荒れ果てた
我が家のように




静かだ。
けれども、まだいい匂いが残っている。
7人のおばさんは、ケーキを思い残すことなく食べていったというのに、そのおいしい残骸だけを残していったのだった。
猫は、早速近寄って、眠り姫にキスをするみたいに鼻先を近づけた。
それから、紙についたミルク色をぺろぺろと舐めながら、時折りお婆さんの方を振り返った。

その横顔は、どこに行っても迷子になってしまう雪の王子様のようだった。

お婆さんは、猫を呼び戻すこともせず、かといって自分も一緒になって参加するということもしなかった。
それは、どこにいてもどこかで神様が見ているような気がするからだったし、それは家の外でも中でも一緒のような気がするからだった。
しばらくの間、猫は舐めることをやめなかった。
その間に、猫とお婆さんの間をスケボーに乗った少年が、ジョギングをする紳士が、犬の散歩をする貴婦人が通り過ぎていった。
猫は、犬の視線に対してだけ、一瞬反応を示した。








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