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勇者

200円払って、ポカリスエットを買う。
お婆さんは、少し震える手で小銭を返してくれる。
ありがとう、という。
ユウも、ありがとう、という。

毎日、同じ道を歩く。
全く、同じ。
昨日も、今日も、先週も、一年前も。


   「ねえ、先生。なんでみんな同じなんかな?」

   「日は昇り、日は沈む。当たり前じゃないか……」


あの日、先生が言ったように、今日もすっかり日が沈んでしまった。
ポカリスエットを一気に飲んでしまう。
この道に、しばらくゴミ箱はない。
だから、空っぽになった後でも、捨てることはできない。
わかりきったこと。
わかりきった道。



長い旅でした

小さなものから
倒し片付け
経験に変えました

始まりは不安でした

小金が少々
粗末な装備
やくそうを抱えて

険しい道程でした

地図にもない獣道
緑がいっぱい
溢れていました

出会いがありました

魔法じみていたけれど
不思議とすぐ打ち解けて
旅の仲間となりました

時と共に成長しました

自分が自分じゃないと
思えるほどたくさんの
悪を倒し滅ぼしました

何かが見えてきました

探し求めていたものです
最後の目的とその向こう側に
なぜかうっすらと寂しさが

多くを手に入れました

あり余る大金 伝説の宝物
友人たちの賞賛の声
まちの人々の笑顔と祝福

ようやくたどり着きました

ありえないほどの試練と
振り返ることも許されない
かなしみを乗り越えて

長い旅でした

とても とても

長い 旅でした


僕は選ばれた
たった一人の
勇者になれたでしょうか

ほこらの奥からドラゴンの声が聞こえます

  いいえ あなたは
  本日一万と一人目の訪問者です
  ようこそ

次の 旅が 待っています




空っぽになったポカリスエットが、ずっと右手に握られていた。
重く満ちていた時よりも、軽くなった今の方がなぜか重たい。
通い慣れた道は、旅にはならないけれど、今空っぽのそれはユウにとって唯一旅の仲間だ。
いつか、この真っ直ぐな道を越えて本当の旅に出て行くことを、黒い夜の向こうに想像してみる。
旅の仲間が、ヘッドライトにキラリ反射する。

徐々に夜は、それよりも黒い雲に覆われ始めていて、道はより寂しい道に変わっていった。
世界で最後の煙草屋を曲がった所には、きっと猫がいるだろう。
いつもの猫が……。
ユウが道を折れるとその先に見えたのは、猫ではなくふらふら運転の自転車だった。
ふらふら、ふらふら、としてやがてガシャーン、と転倒した。

 「立てるか? おっちゃん」

体に覆い被さった自転車を起こしながら、ユウは訊いた。
赤鬼のような顔は、何度も転げたせいか傷だらけで、鼻の上に薄っすらと赤いものも見える。

 「けど、杖がなあ……
  はあー、おまわりなんか知らん顔や……」

おっちゃんは、倒れたまま雲を見上げながら、杖のこと、他の色々なことに文句を言っている。
その時何者かが、ユウの背後から黒い影を作った。
振り返ると、警官が両手を膝に置いて様子を窺っていた。


ユウは、再び自分の道を歩き出した。
旅の仲間は、いつの間にかいなくなっている。
今日も、同じ道だった。
繰り返し、繰り返し、同じ道を歩く。
けれども、それは一度だけの道だ。

ユウは、一度振り返った。
そこにおっちゃんも、警官もいない。
そして、いつもの猫が座っていた。

その横顔は、一息で夜を塗り替える魔法使いのようだった。






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テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

マイホーム・トレイン

朝の通勤ラッシュが終わった時間、電車内はゆったりとしている。
お婆さんと猫は、ゆったりとくつろいで座っていた。

「本日も快適電車ご利用ありがとうございます!
 まるで、自分の家と思っておくつろぎくださいませ!」

いつものように決まりきった車内アナウンスだ。
お婆さんの前の席には、4人がけの席におばさん7人が幸せそうに座っている。
そのうちの一人が、紙袋の中からホールケーキを取り出すと、その隣のおばさんがどこからともなく紙のお皿を取り出して、早速切り分けたケーキを順番に食べ始めたのだった。

(まあ、なんておいしそう!)

猫と、お婆さんは、春の始まりに風と蝶が運んでくる花のそれにも似たなんとも言えないいい匂いにふらふらして、今にも倒れそうだった。
ごくり、とつばを飲み込む。



すべての場所は
我が家のように
遠慮は消えて

さあ 座れ
好きなところへ

すべての場所は
我が家のように
明かりは消えて

さあ お食べ
好きなものだけ

すべての場所は
我が家のように
我を通せ

さあ 叫べ
思いの丈を
すべて

思い残すことの
ないように

すべての場所は
我が家のように

いつも
荒れ果てた
我が家のように




静かだ。
けれども、まだいい匂いが残っている。
7人のおばさんは、ケーキを思い残すことなく食べていったというのに、そのおいしい残骸だけを残していったのだった。
猫は、早速近寄って、眠り姫にキスをするみたいに鼻先を近づけた。
それから、紙についたミルク色をぺろぺろと舐めながら、時折りお婆さんの方を振り返った。

その横顔は、どこに行っても迷子になってしまう雪の王子様のようだった。

お婆さんは、猫を呼び戻すこともせず、かといって自分も一緒になって参加するということもしなかった。
それは、どこにいてもどこかで神様が見ているような気がするからだったし、それは家の外でも中でも一緒のような気がするからだった。
しばらくの間、猫は舐めることをやめなかった。
その間に、猫とお婆さんの間をスケボーに乗った少年が、ジョギングをする紳士が、犬の散歩をする貴婦人が通り過ぎていった。
猫は、犬の視線に対してだけ、一瞬反応を示した。







テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

風待ち

「3時までになりますが、よろしいですか?」

喫茶店ハイロウズのマスターは、言った。
ちらりと店の時計をみると、どうやら2時を少しだけ回ったくらいだった。
店内には、常連客らしい客がカウンターに一人いるだけで、お婆さんは奥から2番めのテーブルに猫と並んで座った。
流れているのはロックではなく、意外にもジャズでなかなかお婆さん好みの曲調だった。
さて、3時までに作りかけの短歌を完成させよう。
上の句だけで終わってしまって、続け方がわからなくなってしまった短歌をお婆さんは幾つも持っているのだけれど、勿論それは俳句をはじめ他のいかなる種類の詩としても成立していないものばかりだった。

 こんな時うどんがあれば走り出す ……

はて、どんな時だったかな?
なんで走り出すんだったかな?
猫に、ヒントを求めると、猫は早くも熟睡しているのだった。
アイスレモンティーの中に、当たり前のように浮いているレモンを眺めていると、作りかけの短歌よりも今ここに氷の上に浮かんでいるレモンについて、新しい短歌が浮かぶのではないかと迷いが生じてしまう。
そして、ほとんどの場合お婆さんは後から来た酸っぱさの方を優先させるのだ。
ふとカウンターの方に目をやると、女の子が座っていた。
先ほど常連客のように見えたのは、実は、この店の子供なのだった。
熱心にノートにペンを向かわせている、きっと、それは宿題なのだろう。

「急げよ! 時間がないぞ!」

マスターの声がした。
一瞬それは、自分に向けられたような気がした。
時間がないのは、むしろお婆さんの方だった。

「大丈夫、大丈夫。間に合わせる」
言葉通りに、ペンが加速していく。



ぼんやりと
流れていればよかったが
私は固い結晶と化した

キラキラと一瞬の
揺るぎなさから

粉々にわかれて
ふりだしに戻る

涼しげに
緩やかに流れは
続いていたけれど

キラキラの眩さに
ふつふつとして

浮き上がり
舞い上がった

ふわふわと
のんびり流れながら
浮いていればよかったが

キラキラと
キラキラと

恋しい地上に
降り始めた


いつも ただ
流れているようで
流されているようで

時に集合し 
時に分解し
時にいい気になって
時に号泣したりしながら

振り返れば私は
とても多くを
流れたようだ


キラキラ 明日が

透き通って




結局、勝ったのは子供だけだった。
お婆さんの創作活動は、再び路上に帰ってきた。
原点はいつも道の上にある、とお婆さんはつぶやいた。
肩の上に無理な姿勢で乗っている猫が、同意するように首を動かしていた。
歩いていけば、出会いがあるさ……。
そうしている内に、ベビーカーを押して歩く、若い母親とすれ違った。
少し遅れてシャボン玉少年が、泡を吹かしながら楽しそうに歩く。

「待ってよー……」

お婆さんの背中で、少年の声がした。
そして春風に乗って、少年の作り出した幻想の玉が流れてきた。
ふわふわと虹色に光り輝きながら、それはどういうわけか執拗に猫の頭ばかりを攻撃してくるので、猫はたまらずお婆さんの肩から飛び下りた。
そして、生き延びた泡々を追いかけて走り出した。

その横顔は、時の虹をかける猫のように透き通っていた。

「こらー、待てー!」
お婆さんが、逃げて行くものに向かって叫んだ。





テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

イルカになった猫

第一のコースにイルカが上った。
きっと優勝するだろう。
イルカの落ち着き払った表情を見て、猫は思った。
第二のコースのレトリーバー、その隣のみにくいアヒルの子を、猫は目を見開いて観察してみたものの、とても敵わないと思う。
第四のコースにライオンが登場するとさすがに百獣の王だけあって、場内は一気に緊張感を高めたものだ。
続けてエントリーしたカバとの距離が、恐ろしいほど小さくて、猫はどんなに頼まれたとしてもあの二人の間を通り抜けることは絶対に絶対に嫌だった。
第六のコースには空を見上げながら、かもめのジョナサンが上がった。
初夏の空は、雲一つなく澄み切っていて絵の具で塗ったようにどこまでも青く、鳥になったら今すぐ飛んでいきたい空だったけれど、転げてもひっくり返っても猫の背中に翼は生えてこないのだった。

猫が空を見上げている間に、ジョーズが、皇帝ペンギンが、ヒトがそれぞれエントリーを終えた。
プールサイドで猫は、深くブルーになりながら長いため息をついた。
自分だけが、泳げないなんて……。
ただ、見てるだけなんて……。
生まれ変わったら、絶対にイルカになろう。
それがダメなら、アホウドリだ。
アホウドリのように強く、優しくなるんだ。



春になったり
カブトムシになったり
できるなら
占い師にだってなれるはず

鳩になったり
ビターチョコレートになったり
できるなら
弁護士にだってなれるはず

生まれ変わって
なれるなら
今だって変われる

夢中になったり
優しくなったり

好きになったり
得意になったり

できるんだ
なれるんだ


ビルになったり
豪華客船になったり
できるなら
工場長にだってなれるはず

風になったり
バレーボールになったり
できるなら
旅人にだってなれるはず

生まれ変わった
つもりなら
今だって変われる

強くなったり
優しくなったり

輪になったり
ひとつになったり



できるんだ
なれるんだ


翼になったりオーロラになったり
積乱雲になったりドラゴンになったり
カシオペア座になったり未来になったり

想像することが
できるなら

ほらね

キミはもう
変わり始めている




「さあ、これを着て!」

お婆さんは、手作りの水着を猫に手渡した。
そして、最後のコースには猫が意気揚々と立っていた。
ズドーンッ、と鳴ってレースが始まると、真っ先に飛び込んだのはやはり大舞台に慣れているイルカだった。
続いてほぼ同時にヒトと皇帝ペンギンとカバ、それから猫だ。
かもめのジョナサンは、飛び込むことなく飛び立った。
目指すは十六分割垂直緩横転か、その素晴らしいスピードあるいはアクロバットはやはり大きな空でこそ発揮されるべきものだったからだ。
お婆さんは、真っ白い旗を振りながら猫にエールを送っていた。
猛スピードで追い上げてきたジョーズが、カバの尻に食いつくとそこから海底をひっくり返したような大喧嘩が始まって、残念ながら彼らはレースから脱落していくことになるのだった。
そんなことには関係なく、レトリーバーはどこまでもマイペースだったし、みにくいアヒルの子の姿は、お婆さんのところからは確認できなかった。

先頭のイルカを追うのは、ヒト、続いて猫だ。
お婆さんの声援に勇気づけられながら、猫はついに疲れの見え始めたヒトを捉えた。
壊れんばかりに壁を蹴ってターンをすると、イルカを猛追した。
猫は、空を得たジョナサンのように速く、それは正にお婆さん製の水着がいよいよ真価を発揮し始めた証拠だった。
イルカは、ラストスパートに入ったところでプールから飛び上がり、二度三度と回転して大いにギャラリーを沸かせたのだけれど、皮肉なことにそれは自分自身の輝かしいゴールを遠ざけた。
自分の泳ぎに自信さえ覚え始めた猫は、とうとうイルカさえも抜き去ったのだ。

最後の手を伸ばした時、振り返れば驚くべき記録で、なんとそれは動物新記録だったのだ!
猫の次に入ったのは、意外にも皇帝ペンギンで、ペンギンは自分のタイムをみてしきりに頷いていた。
続いて、ヒトがゴールする時、イルカは壊れた時計のように空中に留まっていた。
そして、百獣の王ライオンは最後までその場を一歩も動くことはなく、その姿はやはり王様にふさわしいものだった。
表彰台の上に立った猫は、きらきらのメダルにそっと感謝のキスをした。

その横顔は、なれるべきものになれた子供のように黄金色に染まっていた。

お婆さんは、今すぐそばにいって抱きしめたかった。
けれども、しばらくは離れていることに決めた。
ヒーローになった猫を、遠くで眺めている……。
それだけで、お婆さんも幸せなお婆さんになれたのだ。







テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
たいした意味などありゃしない


旅の途中の紙くずたち
今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

猫と婆とそんな横顔はリンクフリー
「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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そんなカテゴリー
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『折句ストレート』

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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