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夕焼けポスト

どうしてもどうしても伝えたいことがあった。
由佳は手紙を書いた。
一ヶ月ぶりに歩く外の世界には、人や車や風が流れていたけれど、なぜか未来の世界に訪れてしまったような気がした。
窓から吹き込んでくる風とは違って、本物の風は大きく冷たくて、気を引き締めて歩いていなければどこか遠くへ飛ばされてしまいそうだった。
赤信号で足が止まると、右手の手紙をきつく握り締めた。立ち止まることの不安から足が震える。
けれども、青信号に変わる時には、それは歩き出すことへの不安に切り替わっているのだった。

変わることのない赤色の箱を探して歩き続けるのだけれど、いくら歩いても見つからず何度も見かけるのは灰色の箱で、それには天国と地獄を分けるみたいに
燃えるもの、燃えないものなんて書いてある。

どちらでもないものは、どこに行けばいいのだろう……。
あるいは、そんなものはないというのか……。

突然風が、未来からやってきた郵便屋さんであるみたいに水色の封筒をさらっていった。
燃え尽きそうな太陽の下で空全体が、まるでポストのように赤く染まっていた。



受け取ってくれる
箱が見つかるまで
私はずっと歩くだろう

風が吹いても
投げたりしない

灰色の口が
微笑みかけても
騙されない

受け取ってくれる
時が訪れるまで
私はずっと待つだろう

雲が鳴っても
離したりしない

闇が色を
包み隠しても
諦めない

私はずっと
持ち続けるだろう

赤い空の向こうに

あなたを描いて




お婆さんの郵便受けは、いつも空っぽだった。
だから今日も空っぽなのだけれど、お婆さんは毎日それを確かめに行くのだった。
それは朝のちょっとした運動のようなものであったし、当たり前の空っぽを確かめるのを少しも苦にしないお婆さんにとって、ほとんど習慣のようになっていたのだ。

「さーて、今日も空っぽかね……」

お婆さんが銀色の郵便受けを開けると、空っぽがどこかへ逃げ出していた。
なんと、そこには一通の手紙が入っていたのだ!

  < 辻 影踏 さまへ >

けれども、お婆さんは辻さんでもなければ、影踏さんでもなかった。
間違い手紙だ。
お婆さんは、しばらくの間、見たこともない名前を眺めていた。

その横顔は、ひらがなを習い始めて3日ばかりの少女のようだった。


猫は、お婆さんの手からそっと手紙を受け取ってくわえた。
影踏さん、待っていろ!
白猫郵便屋さんは、朝日に向かって流星のようにスタートを切った。







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テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

一人稽古

駅前は、まるでテレビのゴールデンタイムのようだ。
通る人も多いけれど、ライバルたちも多かった。
ヒロシは手当たり次第、通りかかる人に手を差し出した。
けれども、ペースは一向に上がらず残り2箱のノルマを抱えていることを思いながら時折俯いてしまうのだった。
まだ4月の間は、人々の手はもっと優しかったような気がする。

「どうぞ!」

必死に笑顔を作っても、次の瞬間笑みを向けた対象は何も見なかったかのようにヒロシのすぐ前を素通りしていき、届くことのなかった言葉と笑顔が行き場を失ったままいつまでもふわふわと浮いているのだ。
そうした小さな失敗を繰り返す度に、辺り一帯に不健康な空気が充満していくのだった。
まるでひとり芝居のようだ。
不意に、そんな気持ちになった。
そうだ。自分は今ひとりで芝居の練習をしているのだ。
発表の場は……、発表の日時は……、
まだ、何も決まっていなかった。
けれども、どうせだからうまくなりたい。
今よりも、少しだけでも。

「一つ、もらおうかね」

白い帽子を被ったお婆さんが近づいてきた。
肩には、猫が静かに乗っている。
ヒロシは、猫とお婆さんにそれぞれ一つずつ手渡した。
自分から来てくれる人ほどありがたいことはなく、少しだけエネルギーが補充されるような気がした。
けれども、やはりいい流れはそう続くことはなかった。
ズー……、ズー……、
少し離れたところで、お婆さんが鼻をかむ音がする。



未だ何でもない
未だ誰でもない
だから僕らは集まって

声を合わせて
メッセージはありません

何も発しない
何も表さない
けれど僕らは集まって

肩を並べて
メッセージはありません

言いたいことがなくても
黙ってるわけじゃない

声を大にして
メッセージはありません

どうしても
言わなきゃならない
ことなんかない

だから僕らは
叫ぶんだ
メッセージはありません




「どうぞ!」

けれども、疲れきったグレーのスーツは下を向いたまま通り過ぎていく。
本当に必要な人は、お金を払ってでも手に入れるのだ。
いくらでも、手に入れるのだ。
そして、少しも必要でない人は、ただであげるといっても見向きもしないのだ。
受け取ってもらうことは、本当に難しい。

全部を配り終えた時にはすっかり日が暮れ、三日月が青白く光って明日の天気を予言していた。
空箱を始末すると、疲れた足を引きずって歩いた。
アーケード通りを抜けて、橋を渡ったところで奇妙な光景が目に入ってきてつい足が止まってしまった。
それは、帽子のお婆さんと猫だった。
ダンボールの切れ端に短い文字が書き付けてあって、それがいくつも路上に並べてあるのだった。
お婆さんに訊くと、それは「猫短歌」というものらしかった。

「一つ10円じゃがね」
お婆さんの歯がきらりと光った。

その横顔は、月も見つめる千両役者のようだった。

「やすっ……」
思わず口に出る。
けれども、ヒロシは笑みを浮かべたまま歩き出した。
詩とか短歌などには、全くといっていいほど興味がなかったのだ。
訴えるように見つめている、
猫に小さく手を振った。









テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

白猫の夜

まだ夜は黒く、黒いから夜だった。
壁と壁の間の人が一人通れるか通れないかという細い道。
そんな道が好きだ。
猫は駆け抜ける。
目的地を目指して、ジュニーニョよりも速く。
人が知らない宝の在り処、それを見つけるのが猫の才能だ。
人気のないのを確認するため、壁の隙間から小さな首を出した。
誰もいない。
よし、行こう。



綺麗な服を着たら
きっと綺麗になれるから
綺麗な服を作ってキミにみせた
キミは一言
奇妙な服だと言った
私は安らぎが欲しくなった

奇妙な格好で始まった
旅はどこまで行っても安らがない
奇妙な運命の受け入れ先は
冬の星座には含まれないから
私は冬から脱皮して
優しい人を目指したんだ

優しい人と一緒なら
きっと優しくなれるなら
キミはきっと優しくはなかった
だから私は
さようなら
綺麗な服はもういらない

白い猫で出発します
きっと夜の中で
見つけてください




そこには、先客が待っていた。
猫とは違う形をしていた。

「おい、黒カラス。宝物は見つかったかい?」

「なんだい、白猫。ここには何もないぜ」

カラスは口先だけの嘘でごまかせると思っているようだった。
バケツをひっくり返したような宝探しの中にいて、動かないことが動かぬ証拠のように思われた。
猫は、まっしぐらに突っ込んでいった。
宝物の真ん中に向かって、あるいはカラスそのものへと……。

その横顔は、死より光を追い求めるランナーのようだった。

けれども、それより凄い勢いで闇が舞い降りてきた。
それは黒いカラスの集団だった。
黒い飢えは、みんな我先に宝を求めて尖った口先を下ろしていく。
猫は、三歩ほど下がった場所でその光景を眺めていた。
空がだんだん自分と同じ色に変わっていく中で、自分自身もまた急速に醒めていくような感覚を覚えた。
もう、朝か……。
帰って、眠ろう。








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おかえりなさい

お婆さんは、毎日日記を書く。
日記を書くと瞬時に100人もの人が見に来るのだ。
そしてペタペタと足跡を残していくのだ。
けれども、日記帳が真っ黒に汚れてしまったりボロボロになったりすることがないのは、足跡というのが実は人の名前だからなのだった。
名前といっても、親やお祖母さんが付けるような名前ではなく、みんなが好き勝手に付けられる。
勿論、お婆さんだって好き勝手に名前を付け、時には変更だってするのだ。
いったいどんな人が見に来ているのだろうと思って、時々足跡をたどってみる。
足跡をたどるといっても実際にてくてくと追いかけるわけではなく、瞬間的にその人の家まで行くのである。
家といっても、本当にその人が住んでいる建物ではなく、言わば架空の家なのである。
そうして足跡をたどってその人の家に遊びに行ってみるのだが、家を見ただけではどんな人かまではわからないのである。
そこで何か声でもかけてみようかと思うが、変な人と思われるかもしれないし、やっぱりやめておとなしく自分の家に帰るのだった。
家といっても、木造の家とかではなくて、お婆さんの日記のある家だ。
いずれにせよ、お婆さんは自分の家にいてその中でまた家の中にいて日記を書くのだった。
日記を書くと瞬時に100人ばかりの人が見に来るのだった。

「はーい、笑って、笑って!」

書くことに困った時は、猫の出番だ。
モデル料はたっぷりとはずむことになっている。
それが十分にわかっているので、猫も素敵なポーズを惜しまない。
ナイスショットの連続に、お婆さんの指にも思わず力が入る。
今日は、どれくらいの人が訪れか、わくわくしてくるのだった。



新しい日の始まりに
星と雲の流れ
心と頭と体の
乱れを

確かめなければ
進めない

新しい人との始まりに
どこからやって来て
好きと嫌いと
匂いと関心を

確かめなければ
落ち着けない

みんなみんなチェックマン
一通りのシートを持ってる

新しい場所での始まりに
澄んだ水と
優しい空気と
自分の居場所が

確かめなければ
生きられない

長い一日の終わりに
目を閉じて
よかったこと
わるかったこと

確かめなければ
安らげない

いつもみんながチェックマン
自分なりの基準を持ってる

最初は何も
知らなかったし
知らずにすんだ

でもいつか立ち止まり
振り返ることを
確かめることを

知ってしまった
チェックマン

項目に追われて
進み続ける




お婆さんは日記を書いた。
すると瞬時に100人の人が、日記を見に来た。
結局1時間の間に104人もの人がどこからともなく訪れたのだった。
そして今日も、静かに足跡だけを残し去って行った。
お婆さんは、どんな人が見てくれたのだろうと思って記号のような名前の足跡を一つずつたどっていった。
そうしている内に、夜はどんどん更けていき何かを見失っていくかのようだったけれど、それが何かということまではわからなかった。
ふと、少し離れたベッドの上でじっとお婆さんを見つめる生き物の視線に気がついた。
いつも、一緒にいるはずの猫だった。

その横顔は、明けない夜を知った朝顔のように寂しげだった。

そして、猫の目は静かに語りかけてくるのだった。

「お婆さん、たったひとりに届くことを夢見た頃を思い出せ。
 ようやく、誰かひとりに伝わったときの喜びを思い出せ。」

お婆さんは、しばらくじっとしたまま猫の声なき声を聴いていた。
それからモニターに向き直ると、少し照れたように笑みを浮かべた。
そして、音もなく日記を閉じた。
再び猫の方に顔を向けると、久しぶりに一首詠んだ。
猫は、静かに耳を傾けていた。



                 *


 足跡を一つ一つたどったらいつかどこにもかえれなくなる









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猫船長

今日はろくなものが釣れない。
スリッパに、サンダル、つっかけや、草履、長靴に、ロンドンブーツ……。
まるで志村けんのコントみたいなものしか釣れない。
お婆さんは、アイーンを繰り返しながら穏やかな波を見つめていた。
すっかりと、朝。
海にやってきてからもう軽く半日が過ぎているというのに、なかなか本命がかからないのだった。

「ん、ん、 これは!」

お婆さんは手ごたえを感じて、クルクルと腕を廻し始めた。
コントを超える何か、雑貨的なものでない生身の重さが伝わってきて、この日初めて手に力が漲っていくのが感じられた。
ついに釣り上げたそれは、アオリイカだった。
お婆さんは、がっくりと肩を落とした。

「猫船長! ダメでした」

けれども、猫船長はじっと海を見つめたまま動かなかった。
まるで、眠ってしまっているかのようだった。



一番好きなものは
いつも最後にとっておく

時々
誰かに持っていかれたり
壊されてしまうこともあるけれど

一番好きなものは
きっといつか戻って来る

一番好きなものは
大事に大事に
残しておく

時々
大事にしすぎて
忘れてしまうこともあるけれど

一番好きなものは
きっといつか思い出す

一番好きなものは
ずっと遠くにおいておく

本当に
必要になった時

一番好きなものは
最後に待って
いてくれる




「猫船長、今日はこのまま引き返しましょう」

お婆さんの提案を、長靴を履いた猫船長は完全に無視した。
それというのも、その時猫船長の手は覚えのある手ごたえをしっかりと掴んでいたからだ。
グイッと竿を引き上げると、びっくりタコが姿を現し、お婆さんが横からヒョイと網を差し出して見事捕獲に成功した。
次の瞬間、びっくりタコが黒い液体を勢いよく噴き出したため流石の猫船長もよける暇もなく、その場で固まっていた。

その横顔は、完全な夜によって塗りつぶされた虎のように静かだった。

おかげで、猫船長はその日一日を黒猫として過ごさなければならなかったのだ。
お婆さんは、笑いをこらえながら大きな声で叫んだ。

「猫船長、本命を捕まえました!
 行きましょう! 大阪府庁へ!」
たくさんのたこ焼きが作れそうだった。
みんなに元気が届けられそうなくらいに……。
猫船長は、力強く舵を切った。







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Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
たいした意味などありゃしない


旅の途中の紙くずたち
今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

猫と婆とそんな横顔はリンクフリー
「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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