果てしないラリー
2008-04-08 Tue 12:08
疲れも見せず、猫は首を左右に振っていた。
本能がそうさせているのかもしれない。
じっとしている物より、動いている物の方へより興味が向いてしまう。
ベンチにちょこんと腰を下ろしたまま、猫はコートの様子に心奪われていた。
これは闘いではない。遊戯なのだ。
なぜなら、決着をつけることより続けることの方が大事なのだから。
猫は、素人選手の永遠のラリーを追いながら、少し小難しいことを考えていた。
このささやかなボールのやりとりが、現代社会の中での小さなつながりなのかもしれない……。
人と人との、本当にささやかな。
けれども、猫にとってはそんなことはどうでもよかった。
素人にしてはなかなかうまいぞ。
うまいもんだ。
猫は、果てしないラリーを追いかけ続けた。



ラリーは続く
ブルーな日にも
2回4回6回8回

ラリーは続く
忘れた日にも
印を残して

やがて
安らぎの日が訪れて
ふりだしに戻るけれど

ラリーは続く
真っ白い日にも
深い都会魔界地階

ラリーは続く
無理に見えても
拾って生きる

いつか
落ちて見失って
やり直しになるけれど

ラリーは続く
ブルーな夜にも
4回6回8回10回

ラリーは続く
声なき声で
数え数えて

ゲームセットは

まだまだ先だ




どうやらゲームセットが訪れたらしい。
素人選手たちが引き上げると、続いてマルチナお婆さんが登場した。
若いコーチがサーブを打つ。
勢い良くお婆さんがラケットを振り上げると、見事に空振りだった。
サービスエース。
穴でも空いているのか……。
お婆さんは、不思議そうに自分のラケットを見た。

その横顔は、魔法の湖を覗き込む傷ついた白鳥のようだった。

今度はお婆さんがボールを手にとって、サーブを打った。
コーチは俊敏な動きで追いつくと、バックハンドで打ち返した。
お婆さんは一歩も動けなかった。
リターンエース。
見知らぬ者同士の昼食会のように、寂しいやりとり……。
ベンチの上で猫は、気だるそうに頭をかいた。
それから、横になった。
お婆さんの上達を夢見ながら、やがて眠りに落ちていった。







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