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家族テーブル

思えば、お婆さんは家族のようなものだった。
テーブルに着くと、店員さんが水を運んできてくれた。
お婆さんは、読んでいた新聞をクルクルと丸めるとソフトクリームのカップのような形になった新聞の中に水を注いでみせた。
それから新聞を広げると、不思議なことに新聞はひとつも濡れていなかったのだ。
猫は、テーブルの上に身を乗り出して驚いた。
そして、驚いたら当然のようにお腹も空いてきた。
ファミリーレストランには、食べたいものが何でもあった。
猫とお婆さんは、仲良くメニューを眺めてアットホームな時間を過ごした。
ツルツルしたメニューの上に、猫の手がペタペタとしるしを残していく。
頃は良しと呼び出しのボタンを押す。



呼び出したけれど
来てくれるかは
わからない

来てくれたから
何かを告げるかは
わからない

告げた言葉が
すべて本当かは
わからない

僕にはまだ
わからない

声を出したけど
伝わったかは
わからない

伝わったけれど
届いているかは
わからない

届いたから
返ってくるかは
わからない

僕にはまだ
わからない

一緒にいるけど
好きかどうかは
わからない

好きと言うけど
好きかどうかは
わからない

明日も明後日も
好きかどうかは
わからない

僕にはまだ
わからない

離れていったけど
嫌いかどうかは
わからない

告げた言葉が
すべて本当かは
わからない

好きだったけど
好きだったかは
わからない

僕にはまだ
わからない

ずっとずっと




程なく店員さんがやってくると、お婆さんはお手洗いの場所を聞いた。
店員さんは、丁寧に説明を終えると帰っていった。
それから、お手洗いに行くかと思うとお婆さんは動かなかった。
今は、お手洗いには行きたくなかったのだ。

またボタンを押すと、店員さんがやってきて水を入れてくれた。
お婆さんは、新聞をクルクルと丸めて、得意の手品を披露すると店員さんはパチパチと拍手をして帰っていった。

そろそろお腹がペコペコになってしまったので、猫は呼び出しボタンを押した。
今度は本題に入らなければ、何をしに来たのかわからない。
間もなく店員さんがやってきた。
すると、お婆さんはプロポーズした。
猫は、椅子から滑り落ちてしまった。
しばらくの間、立ち直ることができなかった。

その横顔は、家族会議のひび割れたテーブルのように修復が難しかった。

店員さんが、猫の席に座っていた。
楽しそうに会話が弾んでいる。
何がどうなっているのか、さっぱりわからない。
猫は、よろよろとふらつきながら、ゆっくりと店を出て行った。
もう、どうでもいい……。
まずは何か、食べ物だった。








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テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

猫の代名詞

そんなに寝てばかりいると、豚になるよとお婆さんは言う。
眠ったくらいで豚になるということがあるのだろうか?
まどろみながら猫は、考えていた。
もしもそうなら眠ることは、生まれ変わることに似ている。
毎日が生まれ変わりの連続で、夢見ている間に自分の夢見る姿に、あるいは恐れるものに形を変えていくのだ。
目覚めた瞬間、別の自分になる。
心も……。
猫は、自分が巨大な人間になることを想像して一瞬ギョッとした。

*

少し豚になってきたのではないか……。
食べること夢見ること、猫にとってそれは自分が歌うことと同じように大事なことだ。
お婆さんは、十分に理解しているつもりだったが時々猫のことを心配して小言を言ってしまう。
豚汁を飲み終えて、新しい歌を考えた。
けれども、今は何も浮かばなかった。
猫の姿を眺める内、なんだかお婆さんも眠たくなってきた。



ブタといったらかわいそう
あの子とってもかわいそう
なぜならあの子は
ブタなんかじゃない

そんなこと言ったらかわいそう
あの子がとってもかわいそう
どこからみてもあの子
ブタなんかじゃない

ブタと言う奴がブタだよ
だからあの子に謝りなさい
ブタなんて呼んだこと

*

私ブタです
人が名づけてくれました
選ぶ余地もなく
私はブタです

時々人が人のことを
私の名で呼ぶことがあるけど
呼ばれた人が泣いているのをみて
私とっても
泣きたくなるのです

それでも
私ブタです
牛でも猫でも人でもなくて
私ブタです




猫は目を覚ますとまずは一安心した。
どうやら自分は、人間なんかにはなっていない。
いつものように猫のようだ。
自分が自分であることだけでこれほど嬉しい自分に少しだけ驚いた。
そして、牛になったお婆さんを見て今度はもっと驚いた。
ひとのことを心配していたお婆さんの方が牛になってしまうなんて!
牛は、ゆっくりと猫の方に歩み寄ってきた。

その横顔は、前世と来世とミルクが入り混じったように揺らいでいた。

「モー モー ……」
そして
「ンモー、」
などと話しかけてくる。
けれども、牛の言葉は猫にはまるでわからなかった。
猫は、近づいてくる牛を十分に引きつけてから、ひらりと身をかわした。
久しぶりに、いい運動になりそう だった。












テーマ : 詩・唄・詞
ジャンル : 小説・文学

イマジン

押入れの中は、未開の森のようだ。
底知れぬ闇が、その奥深くに広がっている。
かつては猫も、その中で眠っていたことがある。
けれども、その一番深い場所までは一度も行くことはなかった。
久しぶりに、本当に久しぶりにお婆さんは押入れを開けた。
バサバサと音を立ててコウモリが出てきた。
猫が超音波を出して威嚇している間に、お婆さんが窓を開ける。
コウモリは列を成して出て行ってしまった。
代わりに入り込んできたのは、白い風だった。



書かなかったのではない
書きかけて書きかけて
書けなかったのだ

いくつもの迷いの中で
本当は……

言わなかったのではない
言いかけて言いかけて
言えなかったのだ

いくつものためらいの中で
本当は……

何もしなかったのではない
何かを
しようとして
しようとして
できなかったのだ

何度も何度も
迷いためらい
打ち消された物語を

僕らは
読まなければならない

張り裂けそうな
苦しみと闘いの果てに
傷ついた静寂を

僕らは
わからなければならない

少しだけ

心を広げて




お婆さんは、押入れの中から取り出した風呂敷を広げた。
中から出てきた箱は、お婆さんの歯の色に似ていた。
しわしわの手を広げて、箱の端を持ち上げようとするが開かない。
どうやら、開き難い箱のようだ。
猫も近づいてカリカリと爪を立てたり、ウーウーと唸ったりした。
そして、お婆さんは部屋が寒いことに気がついて、さっき開けた窓を閉めに行った。
それからトンカチを持って戻ってくると、トントンと箱の端を叩き始めた。

トントントン  トントントン ……
トントントン  トントントン ……
トントントン  トントントン ……

そうだ、これは箱ではなく、太鼓だ!
猫は、トントン拍子に合わせて踊り始めた。

その横顔は、酔っ払ったドラキュラのようだった。

猫のお腹がグーグーと鳴り始めた頃、太鼓の演奏が終わった。
太鼓の中から、一通の手紙が出てきた。
それはきっとラブレターだ。
猫は、ピンと来た。
お婆さんは、猫に聞こえないように手紙を読み始めた。

けれども、こっそり覗いてみる。
見覚えのある字だ。
猫は、更に首を傾けた。













テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

果てしないラリー

疲れも見せず、猫は首を左右に振っていた。
本能がそうさせているのかもしれない。
じっとしている物より、動いている物の方へより興味が向いてしまう。
ベンチにちょこんと腰を下ろしたまま、猫はコートの様子に心奪われていた。
これは闘いではない。遊戯なのだ。
なぜなら、決着をつけることより続けることの方が大事なのだから。
猫は、素人選手の永遠のラリーを追いながら、少し小難しいことを考えていた。
このささやかなボールのやりとりが、現代社会の中での小さなつながりなのかもしれない……。
人と人との、本当にささやかな。
けれども、猫にとってはそんなことはどうでもよかった。
素人にしてはなかなかうまいぞ。
うまいもんだ。
猫は、果てしないラリーを追いかけ続けた。



ラリーは続く
ブルーな日にも
2回4回6回8回

ラリーは続く
忘れた日にも
印を残して

やがて
安らぎの日が訪れて
ふりだしに戻るけれど

ラリーは続く
真っ白い日にも
深い都会魔界地階

ラリーは続く
無理に見えても
拾って生きる

いつか
落ちて見失って
やり直しになるけれど

ラリーは続く
ブルーな夜にも
4回6回8回10回

ラリーは続く
声なき声で
数え数えて

ゲームセットは

まだまだ先だ




どうやらゲームセットが訪れたらしい。
素人選手たちが引き上げると、続いてマルチナお婆さんが登場した。
若いコーチがサーブを打つ。
勢い良くお婆さんがラケットを振り上げると、見事に空振りだった。
サービスエース。
穴でも空いているのか……。
お婆さんは、不思議そうに自分のラケットを見た。

その横顔は、魔法の湖を覗き込む傷ついた白鳥のようだった。

今度はお婆さんがボールを手にとって、サーブを打った。
コーチは俊敏な動きで追いつくと、バックハンドで打ち返した。
お婆さんは一歩も動けなかった。
リターンエース。
見知らぬ者同士の昼食会のように、寂しいやりとり……。
ベンチの上で猫は、気だるそうに頭をかいた。
それから、横になった。
お婆さんの上達を夢見ながら、やがて眠りに落ちていった。






テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

春風の訪問者

一番好きな季節だった。
どうかこのまま時間が止まってくれないだろか……。
この季節が訪れる度に、猫はふとそんなことを考えるが果たしてそれはいいことのようでもあり良くないことのようでもあった。
なぜなら猫は、春そのものが好きであるように、もしかするとそれ以上に春の訪れが好きだったから。
春。
それなのにお婆さんときたら、冬のセーターを着込んでまるでダルマさんのように見える。
窓から入ってくる春風に攻められて、なかなか71ページ目をめくれないでいるお婆さんはいつになったら72ページ目に到達することができるだろうか。
テーブルの上には、お饅頭の最後の一つが寂しそうにしていた。
お婆さんが食べ忘れたものに違いなかった。
トントン、トントン、
誰かが玄関を叩く。



だんだん輝いて
わくわくわくわく
光が溢れそうな道だから
今日はここで足を止めよう

とっておくんだ
明日のために

だんだん恋しくて
わくわくわくわく
想いが溢れそうな夜だから
今日はここでお別れしよう

やめておくんだ
明日のために

輝かしさも恋しさも
いつか峠を越えるものだから
ゆっくり登って行こう

だんだん満ちてきて
引き返せないもう
気づいただろう

春風はそこに吹かないと

幻と手をつないだ
景色の中に残る
真物に気づいただろう

春風はもう去ったと




お婆さんは、71ページ目に栞を挟んで重い腰を上げた。
ようやく玄関にたどり着きドアを開けると、春風が立っていた。
「お届け物です」
春風は涼しげに言った。
お婆さんは、丁寧に礼を言って中で少し休んでいくように勧めた。
けれども、春風は涼しげに言った。
「次が待っていますので……」
それ以上引き止めることはできず、お婆さんはお届け物だけもらって引き下がった。
春風はピューッといった。
家の中では、猫が最後のお饅頭で頬っぺたを膨らませていた。

その横顔は、春風を存分に吸った風船のように陽気だった。

大事にとっておいたことの哀しみを、お婆さんはまたしても味わった。
よくあることさ、と慰めながら春風の届けてくれた小包を開けると少し元気になった。
それは春色のセーターだった。
早速着替えて、鏡の前でポーズをとってみる。
うん、わるくないね。
冬のセーターを、丁寧にたたむとタンスの中に大切そうに仕舞った。






テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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