卒業泥棒
2008-03-17 Mon 19:39
まだまだ増やせそうだった。
決して広くはない部屋の中は、お気に入りのコレクションで満ち溢れていた。
ミチルは今日も、磨きのかかった技術で一体一体獲物たちを吊り上げていく。
極め続けたクレーンゲーム、狙ったものは、逃がさない。
けれども本当は、救ってあげているのだ、
捕らわれの小人、怪獣、宇宙人たちを……。
一枚一枚なけなしのコインでもって。

透明な箱の向こうで、猫と目が合った。
確かに中に入っている。
生きた、猫が。



もうそろそろ
卒業だよといって

春を
ボールを
アイテムを

キミは
好きなものを取り上げる

もうそろそろ
卒業だよといって

ミロを
ドールを
アイデアを

キミは
宝物を取り上げる

もうそろそろ
卒業だよといって

ネロを
ノートを
愛するものたち

キミは
何もかもを取り上げる

卒業泥棒

闇を
時間を
魔法を
笑みを
友達を
愛を

空っぽが僕に満ちるまで

さらっていく




スタッフのお婆さんが来ると、猫はすっかり生命の気配を消していた。
その他大勢の中に同化して、瞬き一つ見せなかった。

「よくできた縫いぐるみでしょう」

ミチルも、思い違いを笑いながら詫びるしかなかった。
気を取り直してコインを投入する。
慎重に→ボタンを操作すると、いい感じで一体の縫いぐるみを持ち上げた。
はずだった。
なぜか、失敗に終わった。
隣にいた猫が、ちょっとだけ動いて邪魔をしたように見えた。
今度は狙いを変えて、遠いところにクレーンを走らせると巧く一体の縫いぐるみが持ち上がった。
順調に救出口まで、運ばれていく……。
けれども、跳び上がった猫が払い落としてしまった。

その横顔は、童心に住み着いたネッシーのように何かを守っているように見えた。

一つも、取らせないつもりなのだ。
ミチルは、燃えた。
プライドにかけて繰り返し繰り返し、挑戦した。
結局のところ、猫が勝った。
敗者として、すっかり日の暮れた帰り道を歩いた。
時間を、盗まれたような気がした。






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