マネキン14号
2008-03-04 Tue 12:16
午前3時の球技。
昼間動くことを禁じられていた、その鬱憤を晴らすかのようにマネキンたちは暴れまわった。
試着ルームをゴールに見立て、激しくゴールを狙う。
マネキン14号が高くジャンプしながらシュート態勢に入ったところに、長身のマネキンが体をぶつけた。
勿論それは、ルールブックによると禁止になっている。
暗がりの中で、中途の笛が鳴り響いた。

まるで警報のベルが作動したかのようだった。
猫とお婆さんは、身を寄せ合って身を伏せていた。
猫の光る目が、いつ彼らに生命の存在を知らせてしまうことになるかハラハラしながら……。
閉店に出遅れてしまったデパートの7階で、二人が目にしているものは決して見てはならないもの。
あるいは、目覚めぬ夢だった。



猫のトランポリンが
優しさではじける時
あっちこっちで
笑いの空が舞う

イルカの枕が
空しさで乾いた時
あっちこっちで
笑いの海が咲く

それから羊が
子守唄を歌い終えたように
静寂が押し寄せて

リターンのないサーブを
僕はうつ
うつ
うつ


ウ冠を被った幽霊が
孤独の靴を落とした時
あっちこっちで
笑いの風が立つ

トンネルを抜けた渡り鳥が
奇跡のくじを引いた時
あっちこっちで
笑いの春が弾む

それから亀が
上り坂を駆け上がるように
静寂が押し寄せて

突っ込みのない相槌を
キミはうつ
うつ
うつ


箸が転げても笑えるならば
夜が明けても笑えるならば
本当は僕らは必要なくて

本当に必要なのは
失った人

本当に
必要なのはもう
笑えなくなった人

マネキン14号に

僕は
うつ




バランスを崩しながら投じたマネキン14号のシュートは、転々とコロげて猫の手元にやってきた。
お婆さんが制止するよりも早く、猫はボールを投げ返した。(あるいは、蹴り返した)
もう、猫は十分に熱狂していたのである。

「誰だ!」
声を上げたのは、人間だった。
やはり警報ベルは作動していたのかもしれない。
昼色の懐中電灯がマネキン達のお祭りを、全裸にしてしまうかもしれない。
その時、猫はなぜか自分から声を上げて大げさに動き始めた。
(警備員さん、こっちだよ……)
そしてお婆さんは、お婆さんで、ゆっくりと制服の背後に近づいていった。
トントンと肩を叩く。
恐る恐る振り返った男に、

「うらめしや〜」
両手を上げて、キツネのお化けの真似をしてみせた。

その横顔は、三つ目のキツネがおねだりをしているようだった。

警備員は、あまりの恐ろしさに、出た〜と叫びながら逃げ出していった。
猫は、キツネの足下でピョンピョン跳ねて喜んだ。
人間的な笑い声がフロア中に広がっていたけれど、お婆さんにも聴こえないのかもしれない……。
マネキン14号の手の中で、猫の返した球体が、
微笑みを取り戻すのが見えた。





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