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2008-02-03 Sun 16:17
「何が何でも オニわーそと」
お婆さんは、容赦なく豆を投げつけた。 2月のレースよりも凄まじいスピードで飛んでくる豆に、鬼はどうすることもできず、家の中をあてもなく逃げ回った。 「とにもかくにも オニわーそと」 ありったけの憎しみを込めて、お婆さんは豆を投げつける。 その憎しみが、いったい何に向けられたものかを猫は知ることはなかったけれど、逃げ惑い攻撃を受け続けているのはそこにいる赤鬼だった。 足に、胸に、顔に当たった豆が跳ね返って猫の足下に転げてきたので、食べてみた。 豆と思っていたそれは、柿の種だった。 何かちがう。 「何もなくても オニわーそと」 何もないのに…… お婆さんこそ、鬼だ! 猫は同情した。 赤鬼は顔を赤くして、玄関のドアを開けた。 本当に、出て行ってしまった。 決心がついたなら ここに鎧をおいて 僕は行こう 野心が芽生えたら ここに安らぎを残して 僕は行こう 温めるだけでは 何も生まれてこないから 不安を追い払って もう 僕は行こう 心を鬼に武装して もう 僕は行こう 勇気がわいたなら 弱い僕をおいて 僕は行こう 確信がないままに 重い扉をあけて 僕は行こう 温かさだけでは 何も生まれてこないから 疑心を追い払って もう 僕は行こう 心を鬼に偽装して もう 僕は行こう 猫は、いたたまれなくなって家を飛び出した。 消えた鬼を追って、駆けた。 煙草屋の角を曲がったところに、いた。 赤鬼は、膝を抱えて地べたに座り込んでいる。 ピースをふかしながら、ゆっくりと振り返った。 白い煙が、ドーナツのように猫に巻きついた。 「帰っておいでよ。行くとこないんでしょ」 猫は、猫の目で語りかけた。 「うちは…… こういう扱い、慣れてるから」 赤鬼は少し顔を赤らめながら、言った。 その横顔は、鬼のように寂しげだった。 「行くところはないけれど、 どこにでも行かなければならない」 「人は人、うちはうち……」 猫の耳に打ち明けると、鬼はゆっくりと立ち上がった。 携帯用灰皿に、短くなった煙草を押し込むと、角を冬に突き刺しながら歩き始めた。 そうして外へ出て行く鬼を、 猫はそっと見送ることに決めた。 |
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