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いつもの場所に

公園のすぐ前にいつもなら、それはある。
いつもというのはどれくらいのいつもだろうか、いつもといってもそのいつもの幅はこれくらいか、あれくらいか。
バイトの帰り道、いつもこれくらいの時間ならお婆さんが店を出しているのだが。
けれどもそれは、いつも出ているからといっていつも出ているというわけでもなくいつになく出ていないことも時たまあった。
その度、渉は少し心配な気持ちになる。
お婆さんの身に、何かよくないことが起こってもう戻ってこないのかもしれない、などと。
ネガティブな空想なら、いつも得意だった。
お婆さんのことを自分はよくは知らないのだから、自分の知らない場所でどんなことが起こっていようとも知る術もないのだし、その権利もなかった。
それでもつい、気になってしまうのだ。
ほんの少しの接点ではあるけれど、触れ合ってしまったから。



何の前触れもなく
あんたは時々
消えてしまう

何の前兆もなく
なんでか時々
消えてしまう

周りを
散々心配させて
ふらっと帰ってきて
いつも
あんたに戻ってる

元気にしてたのに
あんたは時々
消えてしまう

陽気にしてたのに
なんでか時々
消えてしまう

みんなを
またかと心配させて
ふらっと帰ってきて
いつも
あんたに戻ってる

なんでなんだい
いつもいつも

まるで心配させるように

あんたは時々
消えてしまう

何の前触れもなく




(誰?)

いつものお婆さんの店には、知らないおじさんが店を出していた。
たこ焼きではなく、メロンパンが並んでいる。
焼き立てなのだろうか、緑色の甘い香りが風にのって漂い流れては道行く人にくっついていく。
甘い誘惑を断ち切って、歩いた。
そうして数十メートル行ったところで、お婆さんを見た。
いつもと少し違う場所で、店を出していた。
渉は、いつもの風景を見つけて少し安心した。

その横顔は、ホームポジションを見つけた猫のようだった。

お婆さんの横では、猫が暖を取りながら丸まっていた。
10個ください。
少し、声が弾んでしまった。


帰り道、また雪が降り始めた。
渉の足の前で、落ちてはすぐに消える、
雪だった。







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テーマ : 詩・唄・詞
ジャンル : 小説・文学

猫の照明

反応は遅かった。
お婆さんの月の大地での最初の一歩のように、とてもゆっくりゆっくりな郵便屋さんのように。
届くのには時間がかかる。
そしてようやくにして光を灯す。
けれどもそれはすぐにちかちかと明滅を繰り返し落ち着くことがなかった。
いつ頃からか、お婆さんの家の明かりは頼りなく不安定で元気だったり不機嫌だったり、はしゃいでみたりしょんぼりしていたり、突然正気を取り戻したかと思えばずっと長い間落ち込んでいたりする。
今日は、激しく不安定な調子だ。
もうそろそろ、新しいものに取り替えた方がいいのかもしれない。
そう思いながら、もうすぐ春は来るのだろうか来ないだろうか、とお婆さんは思う。
気まぐれな光は、まるで猫に似ていた。



もしもキミが
ちかちかと囁いて
去っていったら

大きな冷蔵庫の中で
僕は冷たい
迷子になるだろう

もしもキミが
ちかちかと疲れて
眠ってしまったら

冷たいジオラマの中で
僕は大きな
子供になるだろう

もしもキミが
ちかちかと瞬いて
消えていったら

東も西も忘れて
おかしくて
ただ笑うだろう

誰もいなくなった
気楽な道を
歩いていくだろう

だとしても
だとしても

歩いていくだろう




猫は冬の散歩道をひとり歩いていた。
久しぶりに雪が積もった街の夜はとても静かで、鼠一匹いない。
みんなどこに行ってしまったのだろう……。
空に向かって謎を吹きかけた。
それから犬のようにスキップしながら猫は歩いてみた。
誰も見ていないと思うと、恥ずかしくもない。

その横顔は、打ちとけ始めた雪だるまのようだった。

煙草屋の角を曲がると、眩い明かりが猫の白い顔を照らした。
ひとに反応して点灯する照明だった。
瞬間、猫はピンと背筋を伸ばした。



テーマ : 詩*唄*物語
ジャンル : 小説・文学

優しい時間

はっきりしない天気が続いていた。
お婆さんは、ドアに貼りつけられた営業時間を見て、はにかんだ。
ドアを開けると、マスターはギョッとした顔で振り返り、手にしていた掃除道具を置いた。
夕掃除の時間だったのかもしれない。
少し悪い時間に来たかもしれないと思いながらも、お婆さんはレモンティーを頼んだ。
猫を、隣の席に隠すように置いた。
少し懐かしい曲が流れていた。たしか Leyona の『travellin'man』だっただろうか……。
手さげ鞄から本を取り出して、開いた。
やさしい本だった。
字は大きく、ひらがなが多く、難しいことは何一つ書いていなかったけれど、本を読む間というものお婆さんはいつも少し難しい顔をしている。

レモンを浮かべると、口をカップに近づけた。
けれども、取っ手を掴むお婆さんの指はぶるぶると震えてしまう。
どうしたことだろうか、酒が切れて震えてしまうというわけでもなく、店内は少しは寒かったけれど震えるほどではない。
確かめるように、自分の手の平を見る。
親指を、人差し指をぴょんぴょんと動かしてみた。
猫に向かってジャンケンもしてみたけれど、猫はただ眠っているだけだった。
それからもう一度、カップを見て、取っ手の位置が異様に低いことに気がついた。
きっとそのせい違いなかった。
仕方なく、お婆さんは取っ手を無視して、両手でカップを抱え込むようにしてレモンティーを飲んだ。
そのために、いちいち本を手放さなければならなかったのだ。



いつになってもいいから……
キミは濡れながら
大きな傘を貸してくれた
もうボロボロで穴だらけで

優しいな


迷子にならないように
ミウラ折りに畳んで
くれた大きな地図
もう昔のものだったけれど

優しいな


作りすぎたからといって
真夜中3時に
ボールいっぱいの手料理を
持ってきてくれたね

優しいな


いっぱい練習できるように
とても上等な
落書き帳をくれたから
大事にとってあるんだ

優しいな


思い切り楽しんでといって
夕日に染まった
一日パスポートをくれた
とても急ぎ足で

優しいな


アンティークな玄関に
最先端の照明を
プレゼントしてくれた
とても明るくなって

優しいな


借物を返しに行ったら
もうそれはいいよと
キミは僕にまっすぐ
譲ってくれて

優しいな


優しいな




新しい客が入ってくると、店内はガラガラだというのに、人間はある程度団結した方が良いと考えているのか、意外にお婆さんの隣の席に座った。
聞き取りやすいように気をつけているためだろうか、とても大きな声で注文する。
マスターが気を利かしてテレビのスイッチを入れると、何だか急に賑やかなことになった。優しいマスターのようだ。
お婆さんは、カチカチとテーブルにタマゴをぶつけて殻をむき始めた。
さほどお腹が空いているわけではなかったけれど、せっかくあるものは食べなければもったいない。
あるいは、少しわるい気がする。
半分食べると、中は程好い色加減になっていた。
夕方のニュースは、有名人の失言とそれに対する周囲の意見、反応、その他諸々の影響についてのことだった。
芸能人は大変だね、と笑いながらマスターは色々と思いやったことを言った。

タマゴを食べ終わったお婆さんは、さてそろそろ本を再開しなければならない。
挟んでおいた栞を抜き取って読み始めるが、何行目からだったかまで思い出せないので、少し前のページまで戻ってもう一度読み進めることにした。
やさしい本なので、すらすらと読めた。
時間はゆっくり流れていって、客はついにお婆さんと眠り猫だけになったけれど、依然としてテレビはついたままだった。
活字を追いながらも、時々耳から入ってくる情報を完全に遮断することはできない。
時折ちらりちらり、顔を上げて見てしまう。
ゴールデンタイムはバラエティー番組が多いようで、半分が言葉、半分が笑い声というような世界の中では、誰が何を言っても許される雰囲気だ。
特に何をし、何を言うというわけでもないのだけれど。
ゆるい、
ゆるい感覚。
眠ったままの猫を眺めた。

その横顔は、雨さえも通してしまう傘のように優しさが滲んでいた。

それからお婆さんは、閉店時間のことを思い出した。

  「7時から疲れるまで」

確かそんな風に書いてあった。
ゆるい。
はっきりしていないことは優しいのだ。
マスターは、もう疲れただろうか……。
答えのわからない問いを、猫に吹いて、
また本を読み始めた。
やさしい本だった。








テーマ : 詩・唄・詞
ジャンル : 小説・文学

流星猫

一日が、あっという間に終わっていくように、一年はあっという間に幕を下ろす。
同じように10年が、20年が……
そうして100年が、というようにして星々の歴史は過ぎ去っていく。
人の一生なんてコミック一冊分に過ぎない、とヨコヤンは思った。
なのに一時間が、時々あり得ないほど長くなるのはどうしてなんだい?
午後一番の授業は、時計の針が何倍も重くなっているか、あるいは時々居眠りしながら進んでいるかどちらかだった。
先生は、よく見なさいと言って今から調理実習で使うお魚を持ち上げた。
お魚は、キラキラと光りまだ生きているようだった。
突然、どこからともなく現れた猫が、先生の右手からその輝きを奪い去った。
あっという間の出来事だった。
その素早さは、いつか見た流れ星のようだとヨコヤンは思った。
そして猫は、皆が願い事を考えている間にどこへともなく消えてしまった。

「泥棒猫!」

お婆さん先生が、残像の猫に向かって叫んだ。
指先から、ぽとぽと水が滴り落ちていた。



あっ、
という瞬間に
永遠の光を閉じ込めたまま

あっ、
という間に
キミは過ぎ去ってしまった

あっ、
という驚きは

あっ、
という煌きは

道々に転がっているけれど
人々の視線は小さな手の中にだけ


あっ、
という瞬間に
未来の光を約束したまま

あっ、
という間に
キミは影になってしまった

あっ、
という閃きは

あっ、
というときめきは

街々に散らばっているけれど
人々の目先は小さなディスプレイ


あっ、
という間に
野生が野生でなくなるように

あっ、
という間に
すべては離れていく

あっ、
という瞬間に
永遠の光を閉じ込めたまま




昼下がりの交差点、母と一姫二太郎は身を寄せ合うようにして立ち止まっていた。
二太郎の吐く息が、手袋に跳ね返ってペガサスやケルベロス、ユニコーンといった伝説の生き物を浮き立たせていた。
創り出される白いファンタジーは、それ以上の速さで消えていってしまう。
その儚さの向こう側から、猫は遅れてやって来た。
お魚をくわえた猫は、点滅する青信号にも構わず渡り始めた。

その横顔は、最後のユニコーンに似て真っ白だった。

「あっ、猫!」
一姫が最初に気づき、空に雪を見つけた時のように言った。

猫は、青い光の瞬きに吸い込まれるように徐々にスピードを増していくと、あっという間に見えなくなってしまった。

「えっ、どこ?」
二太郎が、空に目をやった時、
もう、雪が降り始めていた。




テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

うちはそと

「何が何でも オニわーそと」
お婆さんは、容赦なく豆を投げつけた。
2月のレースよりも凄まじいスピードで飛んでくる豆に、鬼はどうすることもできず、家の中をあてもなく逃げ回った。

「とにもかくにも オニわーそと」
ありったけの憎しみを込めて、お婆さんは豆を投げつける。
その憎しみが、いったい何に向けられたものかを猫は知ることはなかったけれど、逃げ惑い攻撃を受け続けているのはそこにいる赤鬼だった。
足に、胸に、顔に当たった豆が跳ね返って猫の足下に転げてきたので、食べてみた。
豆と思っていたそれは、柿の種だった。
何かちがう。

「何もなくても オニわーそと」
何もないのに……
お婆さんこそ、鬼だ!
猫は同情した。
赤鬼は顔を赤くして、玄関のドアを開けた。
本当に、出て行ってしまった。



決心がついたなら
ここに鎧をおいて
僕は行こう

野心が芽生えたら
ここに安らぎを残して
僕は行こう

温めるだけでは
何も生まれてこないから

不安を追い払って
もう
僕は行こう

心を鬼に武装して
もう
僕は行こう


勇気がわいたなら
弱い僕をおいて
僕は行こう

確信がないままに
重い扉をあけて
僕は行こう

温かさだけでは
何も生まれてこないから

疑心を追い払って
もう
僕は行こう

心を鬼に偽装して
もう
僕は行こう




猫は、いたたまれなくなって家を飛び出した。
消えた鬼を追って、駆けた。
煙草屋の角を曲がったところに、いた。
赤鬼は、膝を抱えて地べたに座り込んでいる。
ピースをふかしながら、ゆっくりと振り返った。
白い煙が、ドーナツのように猫に巻きついた。

「帰っておいでよ。行くとこないんでしょ」
猫は、猫の目で語りかけた。
「うちは……
 こういう扱い、慣れてるから」
赤鬼は少し顔を赤らめながら、言った。

その横顔は、鬼のように寂しげだった。

「行くところはないけれど、
 どこにでも行かなければならない」

「人は人、うちはうち……」

猫の耳に打ち明けると、鬼はゆっくりと立ち上がった。
携帯用灰皿に、短くなった煙草を押し込むと、角を冬に突き刺しながら歩き始めた。

そうして外へ出て行く鬼を、
猫はそっと見送ることに決めた。





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今日も散らばって行こう
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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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