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2008-01-28 Mon 12:21
私の足は、もう半分棺桶の中に入っている。
そう思って歩くと、ギーギーと木の軋むような音が聞こえる。 一日が半分終わった時間、お婆さんの散歩道は雲に照らされ、すっぽりと包まれた白さのせいで街全体がブルーになっているようだった。 今年もまた、この季節がやって来た。 通い慣れた道の途中、お婆さんは立ち止まる。 時々足を休めて、それからまた歩き始める。 「これなんか、お似合いですよ。とても大人っぽく見えます」 持ち上げられて、お婆さんは少し陽気になった。 新しくできたショップで、白いセーターと赤いマフラーを買った。 買い物袋をさげて、お婆さんはまた歩き始めた。 人生の半分は 眠りの中 眠りの半分は 酷く醜い夢の中 夢から覚めて 始まる現実は 少しだけ ハッピーな世界 季節の半分は 真っ白い冬の中 飢えて渇いて 何も育たない 冬から覚めて 一気に押し寄せる 一時の陽気に 集合する世界 日常の半分は 長い長い雨の中 一寸先も 見えない道 雨があがって 突然聞こえる 青い蝶の 羽根音 人生の半分は 失敗の中 人生の半分は 目覚めの時 人生の半分は もう終わったこと 本当はキミと 分け合いたかったこと 早くも現れた冬の棺桶の中に、猫は潜り込んでいた。 棺桶の上には、みかんがピラミッドのように盛られている。 それが王家の墓の証しであるかはわからない。 けれども、猫とお婆さんを引きつけるには十分に魅力的な箱だった。 「さあ、やっぱりこれだねぇ……」 青いみかんを押しのけると、ふわぁーと湯気の上る食べ物を並べ始める。 お婆さんが散歩に出る理由の半分は、セブンイレブンに行くためだった。 そしてセブンイレブンに行く理由の半分は、セブンのおでんを買うためだった。 猫が、お婆さんの気配を感じて外の世界に飛び出してきた。 お婆さんが、猫の白い首筋に赤いマフラーを巻いてあげると、半分邪魔くさそうな顔をした。 その横顔は、雪と太陽の歌合戦を応援するウミネコのようだった。 お婆さんは、ぷるぷるとしたタマゴに箸を入れて、半分お食べと言った。 けれども、猫は半分棺桶の中に潜り込んでいた。 「まだ、冬は始まりだよ!」 お婆さんの人生も、まだ。 猫とお婆さんの世界も、 きっとこれからだった。 |
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2008-01-22 Tue 12:22
雪ダルマの口車に乗せられて、猫は滑った。
冬色に染まった道の上を、運命的に滑り落ちていった。 「お婆さん、助けて!」 けれども、お婆さんは雪ダルマの口車に乗せられている。 親切な看護士さんであるかのように雪ダルマを信用したお婆さんは、だから疑いを巡らせることもなく、暖かな家を目指して帰り道を急いでいた。 一度も振り返ることはない。 猫は落ちて冬色に染まり、落ちるところまで落ちた、と自分でも思った。 もはや、冬の運命共同体だ。 ただ不安だけが、雪ダルマのように膨らんでいった。 ぽっかりとあいた キミが落としたのは きらきら輝く 金の星 ふわりと浮いて キミが拾ったのは きらきら輝く 銀の星 きかせておくれ キミが集めている はやい話が 短いお話 たくさんたくさん きかせておくれ きらきら輝く お話の星 狭く歪んだ 人の世の檻の中を 一夜中 照らしておくれ ぽっかりあいた ボクが求めたのは 小さな小さな お話の星 気がつくと、知らない冬の中に取り残されていた。 舞い落ちる白さの中から、何者かがはしゃぎながら近づいてくる。 それは犬のおまわりさんだった。 一通り根掘り葉掘り嗅ぎ回った後で、言った。 「迷子の迷子の誰かさん、 キミがいなくなって寂しいと思う人はいないのかい?」 もしもそうなら、それは少し寂しいことなのかもしれない。 けれども、猫は答えなかった。 代わりに、おまわりさんの方をじっと見据えた。 その後ろに、手錠を掛けられた雪ダルマが、顔を曇らせているのが見えた。 猫は、回れ右して歩き出した。 本当は、助けたかったんだ……。 もしもそれが誤解なら、世界中のありとあらゆる誤解が、 早くとけますように、 そして、早く春が訪れますように…… 見えない星に向かって、 猫は祈った。 |
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2008-01-16 Wed 17:25
「ダルマさんがころーんだ!」
鬼が言いながら振り返ると、猫はピタリと止まった。 そして鬼が向こうを向いた瞬間、ゆっくりと歩き出す。 ゲームの目的は、鬼にタッチしてお年玉をもらうことだ。 その時、猫は鬼の首を取ったように喜ぶだろうか……。 「ダルマさんがころーんだ!」 競争相手、他の動物たちに負けないように頑張って進む。 物語世界の中で活躍する有名な動物たちと比べて、猫の体は小さく埋もれそうになる。 中でも象は大きかった。 その足の間を通って、猫は進んだ。 カラスは、象の背中を借りていた。 狼が、猫に向かってグレープフルーツのような視線を投げた。 あと少し。 あと少しの距離に、鬼の背が見えていた。 依然として 不安かもしれない 昨日もその前の日も 歩いてきた そうして何日も何日も 乗り越えてきたのに 一日として確信がない 依然として 不安なのかもしれない 単純な問題も複雑な事態も クリアしてきた そうして何度も何度も 生き延びてきたのに 一度として確信がない 依然として 不慣れかもしれない あなたとも他の誰かとも うまくやってきた そうして何人も何人も 触れ合ってきたのに ひとりとして確信がない いつになっても 慣れたひとには なれないのかもしれない 依然として 不安かもしれない 「ダルマさんが……」 ああ、だめだ。 それはあまりに近すぎる。 近すぎて近づけない。 鬼の目が、自分に注がれているのを感じて猫はぶるぶると震え出した。 止めようとすればするほど、震えは大きくなっていく気がする。 そして、鬼がゆっくりと指を突き出そうとした時、猫はゲームを降りた。 猛スピードで走り出す。 (お年玉なんて、いらない) 帰ろう、お婆さんのところへ。 その横顔は、川を泳いでいく桃のようだった。 あんまり急いだので、転んでしまったのは猫の方だった。 後ろで、みんなが笑う声がする。 一度も振り返らなかった。 鬼たちの声が、何も聞こえなくなるまで走った。 風が冷たいのは、今が真冬だったからに違いない。 けれども、この冷たさは以前にもどこかで……。 空一面が白かった。 突如として、黒い鳥が降りてくるまでは。 猫の前に、カラスがいた。 くちばしに、お年玉をくわえていた。 |
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| 猫と婆とそんな横顔 |
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