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2007-12-15 Sat 07:38
昔々、裏の島に太郎さんという青年がおりました。
太郎さんは、よく眠りよく食べよく学びよく笑いよく誰かに間違われました。 けれども、裏の島はとても小さく血気盛んな太郎さんには、だんだん物足りなくなってきたのです。 「僕は、そろそろ出て行かなきゃならないんだ!」 太郎さんは、早速出て行く準備に取り掛かりました。 スーツケースに、服やら洗面道具やら思い出のアルバムやらを詰め込みました。 けれども、『ドラえもん』の本だけがどうしても見つかりません。 太郎さんは、あっさりとあきらめて靴を履きました。 靴は、ぶかぶかです。 なんと巨人の靴だったのです。 ほとんどの人は きみの顔を 知らないだろう ほとんどの人は きみの声を 知らないだろう ほとんどのものは きみの前を 通り過ぎるだろう ほとんどの人は きみの顔を 少しも見ないだろう ほとんどの人は きみの声を 本気で聴かないだろう ほとんどのものは きみの前を あっさり通り過ぎるだろう だけどきみは 唄うのだ ほんの一瞬 誰かが足を止めるまで 繰り返し繰り返し 唄うのだ ほんの一瞬 誰かが振り返るまで ほとんどのものが 行き過ぎる道の上 ほんの一瞬のために 銀杏の葉が散っていくように、人が去っていった。 お婆さんの紙芝居が退屈だったからだ。 そして、ほとんどの場合人々は忙しいというのが現実だった。 それでも、お婆さんはお話を続けていた。 * * * なんとそれは、巨人の靴だったのです。 ぷかぷかと歩く様子は、まるで亀のようでした。 これではバス停まで何時間かかるかわかりません。 マイペースで歩いていると、どこからともなく子供たちが集まってきて太郎さんに殴りかかりました。 逃げ出す暇もなかったのです。 「やーい、亀だ、亀だ!」 手に手にこん棒やヌンチャクを持って、当り散らしてきました。 まるで島中の子供たちが集まってきて、鬼退治をしているようです。 このままで太郎さんは死んでしまうでしょう。 そこで太郎さんは、得意のボクシングでいじめっ子をやっつけました。 太郎さんは、血気盛んな若者だったのです。 そうして無事にたどり着いたバス停から、港行きのバスに乗りました。 『ドラえもん』がないので、とても退屈でしたが少しわくわくもしていました。 ようやく裏の島から抜け出して、表の世界に行くことができるのですから……。 素敵な夢を見ながら、太郎さんは眠りに落ちていきました。 めでたしめでたし。 * * * 猫のイビキに混じって、乾いた拍手が聞こえてきた。 見ると、随分離れたところで一人の少年が座っている。 「なんで、巨人の靴があったの?」 少年は少し首を傾げながら、近づいてきた。 お話はもう終わったのだ、と言いながらお婆さんは飴玉を手渡した。 少年は、お礼にと言ってランドセルから本を取り出すと人懐っこい笑顔を向けた。 「太郎さんにあげてよ! 僕も太郎っていうんだよ!」 その横顔は、突然招かれた表玄関のように輝いて、お婆さんを元気にした。 太郎くんの贈った『ドラえもん』は、 時々、お婆さんをドラドラとした童心に帰し、 そして時々は枕となって、 猫を、のび太くんのように眠らせている。 |
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| 猫と婆とそんな横顔 |
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