12月のクマさん
2007-12-30 Sun 21:19
お婆さんは空気のように気配を消した。
けれども、クマはゆっくりと近づいてくる。
まるでお婆さんが見えているように……。
お婆さんは、バタンと倒れ込んだ。
空気を超えて、死の形を真似た。
太陽の光が、お婆さんの顔を射す。
その横を、クマは通り過ぎていった。

「お婆さん! 死んでしまったの?」

猫は、心配してお婆さんのお腹をつついた。
K Y N
空気読めない猫。



気づかないふりをして
ほっとかないで
ずっといるのに

気づかないふりをして
ほっとかないで
見えているのに

平気なふりをして
立っているのも
もう疲れてきた

見えないふりをして
ほっとかないで
気づいているのに

見えないふりをして
ほっとかないで
目の前にいるのに

平気なふりをして
笑っているのも
もう疲れてきた

いつまで続くの
生きていくための

死んだお芝居は




いつまでも死んだままのお婆さんが心配だった。
だから猫は、クマさんを呼びに行った。

「クマさん、お婆さんが大変なんです!」

けれども、クマさんは振り向かなかった。
年末の行事で色々と忙しかったのだ。
猫は、執拗にクマさんを追いかけて、後ろから突っついた。
なりふり構わない、小さな猫だった。
お婆さんのために必死だったのだ。

その横顔は、演技を忘れた役者のように白かった。

だめだった。
クマさんを振り向かすことは、最後までできなかった。
夕日を追い越しながら、歩いた。

猫が、お婆さんの元へ戻って来ると、
お婆さんは、ひとりでパラパラを踊っていた。
まだ一度も見た事のない、振りだった。
猫も隣に並んで、一緒に踊った。
まるで平気な振りをして。






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午前0時の殺し屋
2007-12-28 Fri 00:27
ベッドの下には、無数の死体が埋まっている。
すべてお婆さんが、殺したものたちだ。
それは、ネズミでもゴキブリでもなく人間だった。
そればかりか、お婆さん自身であった。
明日、生き残るために……。
今日も、お婆さんは銃を構えた。
昨日の自分に向かって、

「おやすみ……」



ねえ 殺し屋さん
僕の中にある
何もかもの殺意を
全部殺して

僕の中にある
どうしようもない
どうしようもなさ全部
殺してしまってよ

太陽が落ちている
表通りを歩かせて

僕に
もう一度

友の落とす言葉の
表通りを信じさせて

ねえ 殺し屋さん
僕の中にある
どうにもならない疑い
もう殺してよ




水色の弾丸がゆっくりと、お婆さんの胸に飛んでいく。
駆け寄る猫の手をかすめて、突き刺さった。

「ああ、お婆さん!」

今日も猫は、止めることができなかった。
風船のように萎みながら、ベッドの下に吸い込まれていく。
今日を生きたお婆さんが、昨日の方向に流れていく瞬間、
それは一瞬の死と再生、更新の儀式だった。

殺し屋は、ベッドの上に大の字になって倒れた。
まるで自分が撃たれたように……。

その横顔は、午前0時に沈んでいく太陽のように丸まって見えた。

お婆さんは、そうして毎日生まれ変わる。
いつまでも若さを保とうと……。

「おやすみ……」

隣で、猫も、
目を閉じた。








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猫と婆とそんな占い
2007-12-25 Tue 23:28
「一度みてもらいなさい」
友達もそう言うのだけれど……。

私には踏み出せない一歩がある。
最悪の結果から考えれば、陽気にスキップを踏むように前に進むわけにはいかない。
明るい方向を見つめ、まるで何も考えていないように進める人たちを、私は一生理解することができないし、また、だからこそ彼らを羨ましく見つめることもあった。
色鮮やかな冬の衣装を身に纏った人々が歩く公園通りを、12月の風が吹きぬける。
一匹の蝶が、ひらひらと青く輝きながら風に乗り遅れないように
私を追い越していった。
どこへ行くのだろう?
あるいは、誰のところへ……



大丈夫だよ
と言ってほしい

心配ないよ
と言ってほしい

でももしも……

その時
絶望に暮れる自分を
見たくはない

私は二の足
無限の踏切

まだ
大丈夫だよ
と言ってほしい

何も
心配ないよ
と言ってほしい

でももしも……

もしももしも……

その時
絶望に暮れるキミを
見たくはない

私は二の足
無限の踏切

この形は一瞬で

きっと終わりがある以上

この形は一瞬で

どんなに長くても

もっと遠いものからみれば

この形は一瞬で

蝶よ

その羽ばたきも 起承転結さえも




蝶は、お婆さんの帽子の上にピタリと止まって依然として輝いていた。
古ぼけたテーブルの上に、小さな猫がちょこんと座っている。

吸い寄せられるように、私は占い婆の前に立っていた。
言われるままに、猫の手を握った。
お婆さんがもう一方の猫の手を握り、猫の顔を覗き込んだ。
猫の瞳が青く光る。
その中から、占い婆は答えを読み取っているようだった。

   近い将来、あんたは好きな四字熟語を選ばねばならない
   そこで難攻不落、四面楚歌などと決して言わないこと
   相思相愛、縦横無尽……もNGワード
   日替定食などは論外じゃ
   運命は些細なことで決まる!
   些細に過ぎて留めてもおけぬ
   顔だけに騙されたなら逃げていってしまう
   甘すぎたハバネロの誤解のように
   気がつくのは決まって失った後で
   新年はいつまでも新しくないから
   あんたは嫌でも急がないとならないし
   四字熟語を決めなければならない
   ああ七の月に 星が落ちてくるのが見える
   メリークリスマス!

お婆さんの話が終わると、猫は力を使い果たしたようにテーブルに身を伏せた。

その横顔は、金八先生の授業が終わりを迎えた時の黄昏に染まっていた。

「ありがとう……」

猫に礼を言った。
眠り込んでいた蝶は、お婆さんの帽子を離れて夜の方向へ飛び始めた。
急ぐことなく、私もその後を追いかける。
少しだけ、軽い足取りで。





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共感同盟
2007-12-23 Sun 21:34
12月が過ぎ去るようなスピードで、猫はコタツに潜り込んだ。
その中で、丸くなっているのか二等辺三角形になっているのか、
お婆さんは知らなかった。
そして、お婆さんは山と盛られたみかんの中から一つを選び取った。
手に取った感触で、だいたいのことがわかった。
これは甘いぞ!
そして、今年もあと一週間で終わるのだ。
お婆さんは、色んなことを知っていた。



ねえねえ
知ってる
これってあったかい

とってもとっても
あったかい

ねえねえ
知ってる
これっておもしろい

とってもとっても
おもしろい

ねえねえ
知ってる
これっておっかない

とってもとっても
おっかない

ねえねえ
キミは知ってる

ねえねえ
もう キミ知ってる

だったら 僕は
がっかりだけど




口の中で、すっぱさがはじけていた。
お婆さんは、少しがっかりしながら足をバタバタさせた。
猫が目を覚まして、コタツの中から顔を出した。

その横顔は、12月のアサガオのようにひょろりとした様子だった。

「笑い飯は、まだかねぇ……」

けれども、笑い飯のネタはもう終わった後だった。
そして、敗者復活戦からはサンドウィッチマンが上がってきた。
M-1グランプリと共に一年は終わる。
やはり、最後には笑わなければならない。
猫も、鬼も、みんなみんな……。
共有するなら、「笑い」がいい。
お婆さんは、くちゃくちゃと顎を動かし、猫は少し無茶な姿勢で転がっていた。
月は、まだみかんの皮に包まれたままだった。



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不眠パラダイス
2007-12-20 Thu 20:40
人は迷う生き物だ。
小さな白い粒を前にして、お婆さんは迷っていた。
こんなもので眠れるだろうか?
もしも、飲んで効かなかったとしたら……。
絶望が深まるだけではなかろうか?
そう考えると、安易に口にすることはできないのだ。
ソファーの上で眠る猫を、羨ましそうに見た。
猫は夢見る生き物だ。



眠れない夜
目を閉じて
遠い風景を描く

いつもなら
すぐに消えてしまう景色も
ありありと見える

眠れない夜は
どこまでも遠く
私を運んでくれる

何百キロも離れた
行ったことのない町

てくてくと散歩する


ずっと昔に
住んでいたところ

幼い頃に別れた
ケイちゃんに
今日は会えた

眠れない夜が
あの日の忘れ物を
届けてくれる


一緒に歌をつくろう

また一緒に


世界で一番 長生きな夜に

世界で一番 短い歌を


眠れない夜 また こんにちわ




薬を飲んで、目を閉じた。
しばらくして何の変化もなかった。
余計に目が冴えた気もする。
ついにお婆さんは、歌を作り始めた。


   眠れない
   小猫の横を
   寂しさが
   かすめていった
   長い夜に

           眠りたい
           小猫のように
           幸深く
           カチカチ針は
           何周目かな
 
                    眠れたら
                    小猫見ながら
                    叫びます
                    叶わぬ夢の
                    7オクターブ

 
とうとう、猫が目を覚ましてしまった。
お婆さんと一緒に、歌い始めた。

その横顔は、夢を奪われた小猫のように切なさが滲んでいた。

薬は一向に効かなかった。
こんな小さな粒が、私に効くものか……。
お婆さんは、自信を深めていた。
そして、安心して眠りに落ちていった。

しばらくの間、猫の歌声だけが、
取り残されたように響いていた。






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太郎くん
2007-12-15 Sat 07:38
昔々、裏の島に太郎さんという青年がおりました。
太郎さんは、よく眠りよく食べよく学びよく笑いよく誰かに間違われました。
けれども、裏の島はとても小さく血気盛んな太郎さんには、だんだん物足りなくなってきたのです。

「僕は、そろそろ出て行かなきゃならないんだ!」

太郎さんは、早速出て行く準備に取り掛かりました。
スーツケースに、服やら洗面道具やら思い出のアルバムやらを詰め込みました。
けれども、『ドラえもん』の本だけがどうしても見つかりません。
太郎さんは、あっさりとあきらめて靴を履きました。
靴は、ぶかぶかです。
なんと巨人の靴だったのです。



ほとんどの人は
きみの顔を
知らないだろう

ほとんどの人は
きみの声を
知らないだろう

ほとんどのものは
きみの前を
通り過ぎるだろう


ほとんどの人は
きみの顔を
少しも見ないだろう

ほとんどの人は
きみの声を
本気で聴かないだろう

ほとんどのものは
きみの前を
あっさり通り過ぎるだろう


だけどきみは
唄うのだ
ほんの一瞬
誰かが足を止めるまで

繰り返し繰り返し
唄うのだ
ほんの一瞬
誰かが振り返るまで


ほとんどのものが
行き過ぎる道の上

ほんの一瞬のために




銀杏の葉が散っていくように、人が去っていった。
お婆さんの紙芝居が退屈だったからだ。
そして、ほとんどの場合人々は忙しいというのが現実だった。
それでも、お婆さんはお話を続けていた。

     *  *  *

なんとそれは、巨人の靴だったのです。
ぷかぷかと歩く様子は、まるで亀のようでした。
これではバス停まで何時間かかるかわかりません。
マイペースで歩いていると、どこからともなく子供たちが集まってきて太郎さんに殴りかかりました。
逃げ出す暇もなかったのです。

「やーい、亀だ、亀だ!」

手に手にこん棒やヌンチャクを持って、当り散らしてきました。
まるで島中の子供たちが集まってきて、鬼退治をしているようです。
このままで太郎さんは死んでしまうでしょう。
そこで太郎さんは、得意のボクシングでいじめっ子をやっつけました。
太郎さんは、血気盛んな若者だったのです。
そうして無事にたどり着いたバス停から、港行きのバスに乗りました。
『ドラえもん』がないので、とても退屈でしたが少しわくわくもしていました。
ようやく裏の島から抜け出して、表の世界に行くことができるのですから……。
素敵な夢を見ながら、太郎さんは眠りに落ちていきました。
めでたしめでたし。

     *  *  *

猫のイビキに混じって、乾いた拍手が聞こえてきた。
見ると、随分離れたところで一人の少年が座っている。

「なんで、巨人の靴があったの?」

少年は少し首を傾げながら、近づいてきた。
お話はもう終わったのだ、と言いながらお婆さんは飴玉を手渡した。
少年は、お礼にと言ってランドセルから本を取り出すと人懐っこい笑顔を向けた。

「太郎さんにあげてよ!
 僕も太郎っていうんだよ!」

その横顔は、突然招かれた表玄関のように輝いて、お婆さんを元気にした。

太郎くんの贈った『ドラえもん』は、
時々、お婆さんをドラドラとした童心に帰し、
そして時々は枕となって、
猫を、のび太くんのように眠らせている。







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別れのパレード
2007-12-09 Sun 23:56
ダンス・マジックの会がストリートをステージに変える。
クルクルと回ったかと思うと、ふわふわと宙に浮いたりする。
ロボットのように角ばったり、頭を取り外したりして人々を驚かせた。
次に出てきた若手課長の会は、対照的に静かだった。
正確な間隔を保ったまま、一列になって通り過ぎた。
続いて、ゾロゾロと青い軍団が歩く。
服も青い。帽子も青い。靴も青い。
すべてが青いというだけの集団が歩いている。
今にも、ひと雨きそうな曇り空の下で秋のパレードが続く。

「何者なのだろう?」

猫は、謎の一団に好奇の眼差しを送りながら、沿道を歩いていた。
海を愛する青年たちか、青空を信仰する人々の集まりか……。
あるいは……。
謎の途中で、ポツリポツリと落ちてきた。



ポツンとひとり
僕だけのパレード
仲間はいない

演じることは
何もない

たったひとりの
寂しいパレード
大勢の人が見てる

ポツリとひとつ
雨粒落ちて

ポツリとひとつ
次々落ちて

てくてく黒く
跡をつけてく

たったひとりの
寂しいパレード
知らない人が見てる

ポツンとひとり

残ったひとり

誰も続かない

虹のパレード




青の一団が通り過ぎると、続いてお婆さんが現れた。
けれども、今までの団体と違ってお婆さんは一人だった。
どうして、お婆さんが参加しているのだろう?
お婆さんの仲間たちは、どこに行ってしまったのだろう?
代わりに、自分が飛び込んでしまおうか……。
猫の心配をよそに、お婆さんは前だけを見て歩いていた。
降り出した雨を気にする様子も、周囲の視線を気にかける素振りも一切見せなかった。
猫は、そんなお婆さんの姿勢を静かに見守ることに決めた。

その横顔は、祝福を禁じられたパレードのように寂しさに満ちていた。

雨が上がる頃、ダンス・マジックの会は空の彼方へ消えてしまった。
課長の会は、人々の記憶から消えてしまっていた。
そして、青い軍団は、白い軍団へ姿を変え謎を深めていた。
くっきりと浮かび上がった虹の上を、お婆さんは歩き始めた。
それは、天国へと続いているように美しかった。
追いかけていこうか、
猫は、少し迷っていた。






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なごり駅
2007-12-03 Mon 12:09
22番ホームの上に、ピューッと風が吹いた。
風の音が聞こえるほど静かなのは、近づいてくる寂しさのためだ。
それは秋の寂しさ、あるいは別れの寂しさだ。
時間を惜しむ人々の影が、あちらこちらで伸び縮みしていた。
ある者は手を取り合い、またある者は身を寄せ合って……。
それぞれが自分たちだけの小さな秘密を、共有しているように見えた。
ほんのちょっと風が吹いただけでも壊れてしまうような、そんな秘密を。
抱えていることの幸福と手放さなければならないものへの不安の中で、時折瞬き、そして重く停滞しながら、それでも確かに時間は前進していた。
夜が、闇そのもののように濃くなっている。
先程より少し強めの風が吹いて、落ちていた空き缶を転がした。
カラン、カランと空虚な音。


もうすぐ僕は
黙らなければならない

きみと離れたら

僕の言葉を
わかるひとは
誰もいなくなる

こんな時
何を言えばいいだろう


もうすぐ僕は
行かなければならない

きみと離れたら

僕のことを
わかるひとは
もういなくなる


こんな時
いったい何を
いったい何を


もうすぐ本当の
沈黙が訪れるのに

もうすぐ本当の
静寂が訪れるのに


もう僕らは 

失い始めている




「いらん、いらん!」

転がってきた空き缶を、猫はプイッと蹴り上げた。
空き缶は、悲鳴に似た音を立てながら高く舞って、一瞬闇に隠れた。
21番ホームまで飛んでいくと、見事ゴミ箱に収まった。
その軌道は、猫の計算どおりだった。

「どうだ、見たかっ!」

といった顔で、猫は辺りを見渡した。
けれども、誰一人見てはいなかった。
猫は、何事もなかったかのように身を伏せた。

「間もなく、22番ホームに火星行き最終列車が到着します」

マイクを持ったお婆さんが、格調高い声で言った。
お婆さんの宣言通り、煙を吐きながら列車が滑り込んできた。
幾つもの旅を連結した列車は、しばし立ち止まると別れを飲み込むように大きく息を吸った。
間を置かずして、旅立つ者を内へ残される者を外へ、短くもどうしようもなく決定的な差異で隔てた。

「メールするね……」

残された女の最後の言葉を、猫は聞いていた。
メールはちゃんと届くのだろうか……
そんなことを少しだけ気にかけながら、人の別れを見つめていた。

その横顔は、幾つもの名残を見届けてきた駅長のように穏やかだった。

間もなく、列車は遥かなる闇の中へ姿を消した。
続いて人も、階段の下に吸い込まれ見えなくなった。

しばらくして22番ホームに、またピューッと風が吹いた。
別れが通り過ぎた後の風音を、
猫の小さな耳だけが、拾っていた。






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