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白と雨の助走

秋風が、原稿用紙をはためかせていた。
走り出さない鉛筆を指でもてあそびながら、のりちゃんは窓の外を眺めていた。
生い茂った緑色の中に、白い影がちらちらと覗くのが見える。
草むしりに精を出す猫だった。
また、あの猫か……
のりちゃんは原稿用紙を押さえながら、あくびをした。

「何でもいいから、書けばいいんですよ!」

お婆さん先生が、ハードルを下げるように優しく言った。
けれどもそれは、壮大な草原の中で幻の蝶を追いかけるようなものだ。
方向もわからない砂漠の中で、魔法の指輪を探す旅のようなものだ。
世界中の人の中から、今すぐに、結婚相手を見つけるようなものだ。
何でもいいのなら、何も書かなければいい……。
だから、のりちゃんは何も書かなかった。
まだ一文字も。
真っ白い時間に、教室の窓がガタガタと震えていた。



布団を被ったけれど
ひとときも眠れない
寝返りを打つ度に
夢は遠のいていく

あきらめた

ご飯が炊けたけれど
一粒も食べれない
真っ白い朝の横で
私は細くなっていく

あきらめた

靴を履いたけれど
一歩も歩けない
あの日開けていた
道はもう見えない

あきらめた

私は

ふわふわと夢を見て
胸いっぱいに満たされて
自分の好きにいきたかったのに

本当に必要なもの
あんなにも 欲していたものが
みんなみんな
嘘のように 消えていって
私は
言葉さえも失った

話したいことは

色々あったのに




「言いたいことが、何か一つはあるでしょう!」

お婆さん先生が、別の角度から助け船を出してきた。
けれども、その豪華客船は見上げているのが精一杯だ。
もっと小さな舟だったらよかったのに……。
それなら大きな海を、想像することもできたかもしれない。
ただただ過ぎて行く時間が、溢れる自由が惜しくて仕方がなかった。
何かを書かなければ、帰れない。
どこにも、何にも……。

「何も書かないのなら、これは必要ないでしょう」

そう言うと、お婆さん先生は机の上の消しゴムを窓から放り投げた。
かすんでいく白を、真っ赤に染まったのりちゃんの目が追っている。

その横顔は、白夜の真ん中で立ち尽くす黒板のように静止していた。

のりちゃんの消しゴムは夕暮れの中で膨らんで、一瞬で雲になった。
間もなく、夏の終わりのような雨が降り出した。
そして、それは始まりだった。
最初の一文字は、

「雨」 と書いてあった。

校庭でくつろいでいた猫は、突然の雨に驚き走り出した。
体育館の裏に避難するのだ。
雨に打たれて、背中が白く光っている。
机の上では、のりちゃんの鉛筆もようやく走り出していた。
未だ見えない結末に向けて、
まるで、長い長い助走のように……。




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テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

ヒツジとヤギ

お婆さんは、毎日母になる。
ヒツジの旅から帰ってくる度に、
枕元には、お婆さんの子供たちが生み出される。
生み出される速さ故に、その一つ一つを、
お婆さんは憶えておくことが出来ないのだ。
だから、猫はヤギのように食べてあげる。
猫はお婆さんと違って、
とてもきれい好きなのだ。



なにかな これは
私の分身

枕元の紙切れは
いつもなぞなぞ

かなかな これは
誰か答えて

自分で生んだものなのに
なぜだか 輪郭もわからない

わからないから捨ててしまおう
ろくでもない一行よ

なぜかな キミは
急に転身

隣で夢見てたのは
いつのことか

なぜかな これは
誰か教えて

自分で生んだものなのに
なぜだか 心もわからない

わからないから捨てられようか
かけがえのない一時よ

他人の態度の寂しさを
遠くから眺めながら

呼びかける
呼びかける
呼びかける

そうしてもう一度 

生み出したあの日の

大切な あいを




あいうえおと書かれた、意味のなさそうな紙切れを口にして、
ヤギは無表情に顎を動かしている。
味気のない朝食を食べる子供のようだった。
本当はもっと中身のある紙を食べたい……。
ヤギの冷たい目が言っていた。
かさかさという音に気がついて、お婆さんが起き上がる。
部屋の奥からほうきを持ってくると、怒り狂ったように襲いかかった。

「この盗人め!!」

ヤギは驚いて、一歩後退した。


その横顔は、何かが生まれる前のメモ切れのように白かった。


ヤギは縮小しながら、ゆっくりと猫の姿に戻った。
ビューンと棚に跳び上がって、お婆さんの怒りから逃げた。
ほうきを武器にするとは汚い!
猫は冷やかな目で、見下ろしていた。





テーマ : 詩・唄・詞
ジャンル : 小説・文学

10円の夢

夢の6億円は、確かに夢に終わって、
お婆さんの手には、たくさんの10円玉があった。

「夢ってのは、当てるもんじゃないだろ……」

年金も何もあったもんじゃない、お婆さんの暮らしは案外厳しかった。
うまい棒を3本カゴに入れる。
ムギチョコに、蒲焼さん太郎。
幾つになっても、お菓子はうまいとお婆さんは言う。
猫は、よっちゃんを掴んでカゴに放り込んだ。
ごっそりと、音がした。



10円の歌を歌うよ
続きはきみが
つないでね

10円で終わる歌
後はきみが
なんとかしてね

たった10円で
物足りない歌
入り口までしか
たどり着けない歌

始まるけれど
続きはない

ほんの一瞬
ぴゅーっと吹くだけの

誰に
届くこともない
頼りない歌

そこからきみが
広げていってね

10円だけ
ぼく 歌うから




鼻歌を歌いながら、お婆さんはお菓子を食べた。
お菓子のある生活は幸福の証しである。
それは、猫もよくわかっていた。
よっちゃんを食べながら、噛みしめていた。
お婆さんは隅っこに何かを見つけたようだ。

「当たり! 当たり! 大当たり!」

小さな袋を握り締めて、飛び上がった。

その横顔は、万馬券を手に飛び回る魔女のようだった。

これだけあれば、当たるよ……。
猫は、少し冷たい目でお婆さんを見上げた。




テーマ : 詩・唄・詞
ジャンル : 小説・文学

いないいないばぁ

きっとそれは幻覚なのだ。
椅子の上にお婆さんが現れて、
猫が手を伸ばす、あるいは話しかけると、
お婆さんは消えてしまう。
お腹が空き過ぎて、幻が見えるようになってきたのだ。
猫がご飯を食べる時間なのに、お婆さんは帰ってこない。
仕方ないので、眠ることにする。
お婆さんが、いないのだから……。



いないいない
キミの椅子に
キミがいない

いないいない
キミの机に
キミがいない

いないいない
キミの形が
ここにない

キミはいない


いないいない
キミの椅子が
ここにある

いないいない
キミの机が
ここにある

いないいない
キミの影が
ここにある

キミがいる


いないない
キミがいる

いないいない
キミがいる

いないいない
キミがいる


やっぱり 僕には


キミがいる




お婆さんは、まだいない。
空腹のため、猫は目を覚ました。
仕方がないので、猫はお婆さんの椅子を食べることにした。
カリカリ、カリカリ……。
案外美味かった。
少し、カツオ節の味がして。
お婆さんが帰ってきても、もう座る場所はないぞ……。

その横顔は、隠し事90%のいたずらっ子のようだった。

足を一本食べて、
猫は少し口を休めた。




テーマ : 詩・唄・詞
ジャンル : 小説・文学

仮装日和 

ここにいては危険だ。
うまい棒をひと振りすると、カボチャのバスが現れた。
猫とお婆さんは、早速乗り込むと二人用の座席に腰掛けた。

「運転手さん、行ってください」

運転席の小さなカボチャが頷いて、カボチャのバスは走り出した。
後ろから、玩具のパトカーが追いかけてくる。
玩具なのに、物凄いスピードだ。
カボチャのバスは追いつかれてしまうかもしれない。

「運転手さん、飛ばしてください」

すると、小さなカボチャは頷いて、カボチャのバスは翼を現した。
宙に浮き始めると、窓から勢いよく風が吹き込んでくる。
猫は、思わずお婆さんに身を寄せた。



キミは僕と
似た形

だから僕は近づいた
分かり合えることが
きっとあるはず

だけどびっくり
キミは全然違う

一つ一つ学んだ形
形だけでは
わからない世界


キミは僕と
違う形

だから僕は近づいた
教えてもらうことが
きっとあるはず

だけどがっかり
キミはそんなに違わない

一つ一つ覚えた形
形だけでは
とけない世界


僕の今は
仮の形

キミは本当は
嘘の形

世界はまるで
玩具の形

形という手掛かりを
追いかけるしかない
僕たちの前で

形は
時に緩やかに
時に唐突に
変わっていき

戸惑いの中で
落ちていく

僕たち

本当は
飛べるはずの形
小さな手を
伸ばす

形ある生き物として

形のない何かに向け




猫の憧れていた、空の旅が始まった。
あっという間に、街の建物が玩具のように小さくなって窓から雲が入り込んできた。
ふわふわ柔らかで、おいしそう。
爪で切り裂いて、猫はむしゃむしゃと食べた。
わたがしの味を想像していたけれど、布団のような味だった。
賞味期限が切れていたんだ……。
猫は、幻滅してつばを吐いた。

ウーウーとサイレンの音が鳴り響く。
空の上までも追いかけてくるとは、ふざけたパトカーだ。
無数の玩具のパトカーに、カボチャのバスは取り囲まれていた。
どこにも逃げ場はない。
小さなカボチャの運転手は、諦めてブレーキを踏むと、
バスは月のように宙に留まった。
パトカーから、妖精に扮した子供たちが雲を渡って近づいてくると、
お菓子をくれと騒いだ。

「さもないと、がやがやと大騒ぎだぞ!」

けれども、お婆さんは保安官に扮していたのだ。
悪い子供たちを、次々に逮捕しはじめた。
犬のおまわりさんに扮した猫は、困った様子で見ていた。

その横顔は、回りくどくコーディングされた言葉のように険しかった。

逮捕されたはずの子供たちが、カリカリと手をかじり自由を得ていた。
お婆さんの手錠は、お菓子の「なげわ」だったからだ。
そして、猫の心配通りにがやがやと大騒ぎが始まると、カボチャのバスはやがて狂ったトマトのようにバランスを失っていった。

猫とお婆さんは、意を決してダイブを敢行した。
その時の二人は、仲良く皇帝ペンギンに扮していた。
きっと大丈夫さ……。
ヒレ状の翼を精一杯に広げ、降下していく。
ゆっくりと、形を見せ始めた街は、
まだ、玩具の街だった。



テーマ : 詩・唄・詞
ジャンル : 小説・文学

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junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
たいした意味などありゃしない


旅の途中の紙くずたち
今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

猫と婆とそんな横顔はリンクフリー
「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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