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2007-09-15 Sat 20:53
すっと開いたドアから、猫はそっと入り込んだ。
ピカピカに磨かれた床の上を、肉球が力強く進んで行く。 コンビニエンスストアには何でもある。 おにぎりがあり、お茶があり、ヨーグルトがある。 パンがあり、ペンがあり、ハンカチがある。 あちらこちらに亀がおり、派出所がある。 赤いポストの横で、国民の一票がばら売りされている。 夏が終わる頃になると、ホタルが飛び去った後のホタルの光を売っているし、激闘が繰り広げられた後の甲子園の土も売っている。 コンビニエンスストアには、ないものはあるのだろうか? 猫の小さな頭の中を、瞬時に24時間が駆け巡った。 ないものがないのなら、それは当たり前にも思える。 ないものがあるのなら…… それもまた当然のようであり、どこか矛盾に満ちた響きのようでもあった。 猫は考えることに少し疲れて、一切れのマグロをくわえた。 ゆっくりと歩く猫の横では少年がすすり泣きながら、甲子園の土を拾い集めていた。 湿った土の中から、カブトムシが這い出てきて猫に角を立てて闘いを挑む。 甘やかな香りは、白い恋人が溶け出しているからだ。 猫は、急いだ。 自動ドアの前に立つが、なぜかドアは開かなかった。 ドアの前で必死にバンザイをしてみたけれども、反応はなかった。 縞々の囚人服を着た男が、追ってきた。 行くべきところが ないから 僕らはここにいる 出入りの絶えぬ この場所に 向かうべき方向を 持たないから 僕らはここにいる 灯りの絶えない この場所は 今は僕らの セカンドハウス みんなで集い カップを抱え 少しの温かさを 分け合おう 探すべきものが 見つかるまで 僕らはここにいる 咎められない この場所は 今は僕らの宝島 閉ざすことない この場所は 今は僕らの拠り所 生きた証しを 少しだけ パラパラと置いて行く 猫に罪があったかどうかわからない。 けれども、猫はお婆さんに助けられ何とか捕まらずに済んだ。 すっかり溶けてしまったチョコレートでベタベタになった床の上を、猫を抱きかかえたままお婆さんは歩いた。 かき氷の詰まった最も冷たい場所を通り過ぎ、雑誌コーナーを通り過ぎた。 「さて何だったかね?」 お婆さんは記憶がなかった。 そして、そんなことは別に珍しいことでもなかった。 とりあえずお婆さんは、一切れのマグロと笑い袋を買った。 本当に買うべきだったのは、猫川柳とゴミ袋だったけれど、そのことに気がついたのはコンビニエンスストアを出て100歩ほど歩いた頃のことだった。 お婆さんが立つと、自動ドアが今度は開いた。 良い心を持った者でなければ、開かないのかもしれない……。 猫は、少しだけ自分自身を疑った。 その横顔は、短い夏の中で明滅するホタルの光のように小さかった。 コンビニエンスストアの外は、深い夜だというのに人々が身を寄せ合うようにして固まっていた。 「祭りかね?」 お婆さんは、そっと猫の耳元で囁いた。 けれども、それはどちらかと言うと祭りの後の寂しさに近かった。 誰もがこれから先の行き先を決めかねていた。 ラーメンの匂いが、猫の鼻先をくすぐった。 「どうしよう?」 少年の声。 答はまだ見つからないようだった。 |
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| 猫と婆とそんな横顔 |
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