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船長のムニエル

海の幸は幸せをつれてくる。
お婆さんは、スパロウ船長との思い出を振り返りながら海をさばいていた。
溢れんばかりの海を、そして幸を、
皿の上に盛りつけてみせた。

「今日は『蘇る黄金平目のムニエル』だよ……」

皿の上に、得体の知れない怪物が乗っている。

「騙されたと思って食べてごらん!」

猫は、恐る恐る近づいた。
本当に恐ろしい。



きみの作った
せっかくだから
騙されてみるよ

一度くらいは
せっかくだから
引っ掛ってあげるよ

きみの素敵な言葉に
今日は落ちていくよ

構わないよ
多少嘘でも

せっかくだから
悪くはないよ

それぞれが
それぞれに
決めればいいこと

きみの紡いだ言葉
楽しんでみるよ
寄り添ってみるよ

きみのつないだ言葉
信じてみるよ
寄りかかってみるよ

きみのくれた
せっかくだから

拾ってみるよ




猫は顔を近づける。
突然、皿がガタガタと震え出すとムニエルが目を開けた。
猫に向けて謎の粘着物を投げつける。
あまりに予期せぬ攻撃だったので、猫はどうすることもできなかった。
ベタベタの顔を手で拭うと、バターの香りがした。
猫は、お婆さんを責めるように顔を傾けた。

その横顔は、ムニエルから罠を得る海賊の一味のようだった。

船長は、万能トングを持ってくると暴れるムニエルを捕まえた。
大きな鍋の中に、もう一度戻した。
猫はテーブルの下で、低姿勢を保っている。




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テーマ : 詩・唄・詞
ジャンル : 小説・文学

ここだけの話

会場には、100人を超える人が集まっていた。
熱心に講師の話に耳を傾けている。
「2010年火星移住計画」についてだ。

「もはや一刻の猶予も許されません!
 地球を抜け出す準備をするのです」

火星の砂を掃いたように、会場がざわざわとした。
どうやらこのまま行くと、海という海が沸騰し始めて海水浴に行けなくなってしまうらしいのだ。
それは夏という言葉の意味が、なくなるのと同じことかもしれない……。
確かに今年の暑さときたら、お婆さんの確かな記憶の中にあっても今までにない類のものではあった。

けれども、今はこの場所が暑くてもう耐えられそうもない。
人々の熱気のせいもあるだろう。
いや、きっとエアコンが全く入っていないのだ。
まだ話の途中ではあったけれど、猫とお婆さんは会場を抜け出すことを決めた。
ここは生き物の住める場所ではない。
二人は立ち上がった。



ここでしか聴けない
音色がある

ここでしか描けない
景色がある

ここでしか味わえない
味覚がある

ここにしかない優しさがある
ここにしかない空気がある

ここでしかとけない
謎々がある

ここでしか作れない
メニューがある

ここでしか描けない
物語がある

ここにしかない季節がある
ここにしかない自由がある

ここでしか生きれない
私がいる

ここで生まれ
ここで生きて
ここで生み出してきた

すべてのものが
私の中の宝物

世界が滅んでも ここでしか生きれない

私はそんな 生き物でしかない




エレベーターが開き、地上に降り立つとまた雨が落ち始めていた。
そうして一雨毎に秋に近づいていくのかもしれない。
猫とお婆さんの歩みと共に、見慣れた街並みが流れていく。
所々、畳む店、開かれる店があること等を除いては、
特に大きな変化はないように思えた。
今この地球上に起きている大きな問題を考えながらも、お腹がグーッと鳴る。
猫の目が、一つの看板に釘付けになった。

その横顔は、今ここにある正解を見つけ出した六年生のように光っていた。

二人は馴染みの店のドアを開けた。
お婆さんはバリバリ熟カレー、猫はマグロカツカレーを注文した。
ここは落ち着ける場所だ……。
やっぱり、カレーはココイチだね。






テーマ : 詩・唄・詞
ジャンル : 小説・文学

街の灯

すっと開いたドアから、猫はそっと入り込んだ。
ピカピカに磨かれた床の上を、肉球が力強く進んで行く。
コンビニエンスストアには何でもある。
おにぎりがあり、お茶があり、ヨーグルトがある。
パンがあり、ペンがあり、ハンカチがある。
あちらこちらに亀がおり、派出所がある。
赤いポストの横で、国民の一票がばら売りされている。
夏が終わる頃になると、ホタルが飛び去った後のホタルの光を売っているし、激闘が繰り広げられた後の甲子園の土も売っている。

コンビニエンスストアには、ないものはあるのだろうか?
猫の小さな頭の中を、瞬時に24時間が駆け巡った。
ないものがないのなら、それは当たり前にも思える。
ないものがあるのなら……
それもまた当然のようであり、どこか矛盾に満ちた響きのようでもあった。

猫は考えることに少し疲れて、一切れのマグロをくわえた。
ゆっくりと歩く猫の横では少年がすすり泣きながら、甲子園の土を拾い集めていた。
湿った土の中から、カブトムシが這い出てきて猫に角を立てて闘いを挑む。
甘やかな香りは、白い恋人が溶け出しているからだ。

猫は、急いだ。
自動ドアの前に立つが、なぜかドアは開かなかった。
ドアの前で必死にバンザイをしてみたけれども、反応はなかった。
縞々の囚人服を着た男が、追ってきた。



行くべきところが
ないから
僕らはここにいる

出入りの絶えぬ
この場所に

向かうべき方向を
持たないから
僕らはここにいる

灯りの絶えない
この場所は

今は僕らの
セカンドハウス

みんなで集い
カップを抱え

少しの温かさを
分け合おう

探すべきものが
見つかるまで
僕らはここにいる

咎められない
この場所は
今は僕らの宝島

閉ざすことない
この場所は
今は僕らの拠り所

生きた証しを
少しだけ
パラパラと置いて行く




猫に罪があったかどうかわからない。
けれども、猫はお婆さんに助けられ何とか捕まらずに済んだ。
すっかり溶けてしまったチョコレートでベタベタになった床の上を、猫を抱きかかえたままお婆さんは歩いた。
かき氷の詰まった最も冷たい場所を通り過ぎ、雑誌コーナーを通り過ぎた。

「さて何だったかね?」

お婆さんは記憶がなかった。
そして、そんなことは別に珍しいことでもなかった。
とりあえずお婆さんは、一切れのマグロと笑い袋を買った。
本当に買うべきだったのは、猫川柳とゴミ袋だったけれど、そのことに気がついたのはコンビニエンスストアを出て100歩ほど歩いた頃のことだった。
お婆さんが立つと、自動ドアが今度は開いた。
良い心を持った者でなければ、開かないのかもしれない……。
猫は、少しだけ自分自身を疑った。

その横顔は、短い夏の中で明滅するホタルの光のように小さかった。

コンビニエンスストアの外は、深い夜だというのに人々が身を寄せ合うようにして固まっていた。

「祭りかね?」

お婆さんは、そっと猫の耳元で囁いた。
けれども、それはどちらかと言うと祭りの後の寂しさに近かった。
誰もがこれから先の行き先を決めかねていた。
ラーメンの匂いが、猫の鼻先をくすぐった。

「どうしよう?」

少年の声。
答はまだ見つからないようだった。




テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

飛行

「ここから飛び下りたらどうなるかな?」

ネコは笑いながら、こっちを見た。
4階の教室に残っているのは、二人だけだった。
校庭をゾロゾロと横切っていく、白い群れが見える。

「私が猫だったら、クルクルと廻って平気かな?」

憧れを込めて、ネコは言葉を続けた。
もしも何かだったら……
私たちは、そんな言葉あそびが好きだった。
そうして空想を泳いでいると、いつも時間は何気なく吸い取られていった。

「ジョン・マクレーンなら、3階の窓を破って助かるかも」

私も、主人公になりたかった。
物語は何でも良かった。

「ついでに学校全部を壊してくれたらいいのに!」

ネコは、半分本気だと思った。
死ぬほど嫌なことだってあるのだ。

「ねえ、鳥だったら……
 鳥は、怖くはないのかな?」

鳥が、遥か校庭の上空を優雅に舞っていた。
人でない姿を、ネコはまた憧れるように見つめながら大きく溜息をついた。
私はノートを一枚千切って紙飛行機を折ると、勢いよく窓から投げた。
夏の風に乗って少しの間上昇し、色のない空間を舞った。
真っ白い鳥のように……。

「なれるよね、
    ……   これから何にだって」

窓という窓を震わせるように、チャイムが鳴り響いた。
私たちは、もう行かなければならなかった。




テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

掘り出し物

「確かに、この辺だったんだけど……」

お婆さんは、額の汗を拭いながら呟いた。
汗がプカプカと泡になって宙に漂う。
掘っても掘っても出てこない。

ここ掘れ、お婆さん!

猫が賢明な犬のように提案した。
お婆さんは、猫の声を信頼して鍬を傾ける。

掘って
掘って
掘って

猫が見守る中、掘り続けると、
土の中から何かが、
ザックザックと言いながら現れた。

潰れた空き缶、汚れた空き瓶、
外れた宝くじ、外せなかった知恵の輪、
渡せなかった切符……

「何だ、こんなもん!」

小さな溜息、
詩の欠片、初夢の残骸、
台無しになった宿題、
昨日の占い……

「役に立たないものばかり!」

枯れた恋心、
新年の決意の怨念、
忘れられた死語、方程式の不可解、
失われたチャンスボール……

「あの時、掴んでおけば良かったのに……」

お婆さんは、しょぼくれたボールを手にすると、
暮れかけたオレンジ色の夏に向かって、
投げた。

誰も見ていなかった。
猫を除いて、誰も。




誰にも見られず
埋もれているものを
僕は掘りたい

埋もれたままの
願いを
空に放したい

誰にも照らされず
誰にも見つけられず

じっと

埋もれているだけのものを
僕は掘りたい


どこまでも深く
埋もれていくものを
僕は掘りたい

埋もれたままの
痛いに
風を送りたい

誰にも知られず
誰にも気づかれず

ずっと

埋もれているものだけを
僕は掘りたい



忘れられたテロメアを
もう一度つなごう

消えかかった物語を
もう一度組み立てよう

遠ざかった名を
もう一度胸に描こう


大切なものが

そこに


そこに

眠っている



自分だけに掘り出せる
奇跡の塊を


僕は掘りたい





掘ることには、飽き飽きしていた。
掘っても掘っても求める結果が現れないことに、
腹が立ったのではない。
お婆さんは、腰が痛かったのだ。

掘り出されたガラクタを、一つ一つまた埋め始めた。
今度は猫も一緒に手伝った。
人一人がすっぽりと落ちるほど深く掘った穴の中に、
暗い暗い穴の中に、
モグラの独り言が、
実行されなかった録画予約が、
フランスパンの空耳が戻されていく。

苦虫の苦々しさと並んで、角の取れたアドレナリンが落ちて行くのを、
トカゲの嫉妬が少し邪魔をしたが、お婆さんが宥めた。
粒よりのひまつぶしの誘惑に負けて、
猫は少しの間、遊びにつき合った。
使い古された蛇口から人生の荒波が溢れ出てくるのを、
お婆さんは何とか手で押さえた。

そうして大方元通りに落ち着くと、
最後にお婆さんは、種を蒔いて土を閉じた。
猫は少し申し訳なさそうに、その様子を見届けた。

その横顔は、土葬に立ち会った猫のように静粛なものだった。

お婆さんは、何の種を埋めたのだろう?
謎めいて、
猫は少しわくわくした。




テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学

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junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
たいした意味などありゃしない


旅の途中の紙くずたち
今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

猫と婆とそんな横顔はリンクフリー
「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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