心 の 隙 間 か ら 出 て お い で
river
2007-08-20 Mon 17:02
残された時間は、
あとどれくらいなのだろうか……。
猫はシルバーカーの中に隠れながら耳を澄ませた。
誰が作ったかわからないが、耳慣れた曲が聞こえる。

「渡れるかな 渡れるかな……」

お婆さんも、半信半疑なのか、
不安を声に出しながら、けれども少し楽しそうだ。
ちょうど今、世界の中心辺りに立っている。



あの冷たい川を
渡る時
僕は何を持って行こう

遠足の準備のように
楽しくはできないけれど
持っていけるものは
案外
少ないかもしれない

あの冷たい川を
越える時
僕は何を置いて行こう

旅立ちのあとのように
戻るあてはないけれど
残せるものは
案外
少ないかもしれない

あの冷たい川を
渡る前に
きみに何を手渡そう

期限のない約束のように
慌てることはないけれど
時間というのは
案外
ないのかもしれない

あの冷たい川と
同じように
案外
流れているのだから




まだ、曲は流れていた。
そうして何とかお婆さんは、横断歩道を渡り切ることができた。
流石に百戦錬磨のお婆さんだ……。
猫はお婆さん号から身を乗り出して、お婆さんを祝福した。

その横顔は、危ない橋を好む冒険者のように楽しげだった。

どんな困難も、案外越えていけるのかもしれない。
陽気な休日の人波に流されながら、
猫は、こっそり考えていた。





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