猫とボウリング
「そーりゃー!」
お婆さんは、爆弾を投げ込むように球を投じた。
筋書きを忘れたドラマのように、どんどん横に逸れていく。
溝に落ちてしまう運命を変えられるとしたら、それは猫だった。
猫は、猛スピードで球を追いかけ追いついた。
そして、小象のように球に跳び乗って進路を正した。
回転する球体の上でバランスを取りながら、操り進む。
倒すべき目標が近づいてくる。
猫は、覚悟を決めているようだ。
倒れても
倒れても
きみはまた立ち上がる
みんなの前では
きみは不死身
倒されるために
何度も
起き上がる
倒れそうでも
倒れそうでも
きみは持ちこたえる
頼れるきみは
最後のひとり
迫り来る球体を
静かに
待ちわびる
幾度も繰り返し
きみは
倒れる
その瞬間に
弾ける音と共に
喜びを
演じながら
「ストライーク!」
お婆さんは、一瞬喜びを爆発させた。
猫の姿はなかった。
一つの勝利の代償に、燃え尽きてしまったのだろうか……。
なんてことだ、なんてことだ。
お婆さんは、掲げた拳を下ろすと口を覆った。
平らな場所を、溝の中を、穴の奥を視線が彷徨う。
再生される10本の中に猫は混じっていないだろうか?
けれども、その白さの中に生命を見つけることはできなかった。
マイボールが音を立てて戻ってきた。
それに続いて猫が、
少し腹を立てながら戻ってきた。
その横顔は、薄っぺらな勝利のようにペチャンコだった。
嗚呼、神様!
お婆さんは平べったい猫を拾い上げた。
猫は、再び丸みを帯び始める。
テーマ : 自作小説(ファンタジー)
ジャンル : 小説・文学