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猫のハードル

銃声に驚いて、猫は飛び出した。
速い、速い。
やっぱり猫は速い。
世界的選手をあざ笑うかのように、猫は速い。
高いハードルも、
問題じゃない。



高すぎるハードルの前で
僕は立ち尽くし
不安になる

跳べない
跳べない

進めない

上がっていくハードルを
見上げたまま
臆病になる

跳べない
跳べない

越えられない

みんながどんどん跳んで行く
みんながどんどん逃げて行く

いつまでも
僕が

置いてきぼり




アメリカを、ロシアを、為末を置き去りにしてゴールに入った。
一等だ、金メダルだ!
お婆さんを連れてウイニングランの猫は、心躍っていた。

その横顔は、結末を知らないラストサムライのようだった。

それからお婆さんの耳に、失格の知らせが届いた。
ハードルの下を潜るのは、反則らしい。

「その気になれば、あんたは跳べただろうに……」

お婆さんは、結果を受け止めながら、
しばらくの間、猫には黙っておいた。




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テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

秘密の自転車

友達が新しい自転車を買うというので、
僕は自転車を譲ってもらうことにした。
見かけからして古びた自転車は、
乗ってみるともっと、すごかった。

真っ直ぐ前に進むことができないのだ。


 「ちょっと、キミ!
 「確認させてもらうよ……」

 「だから、もらったんですよ!
 「拾ったんじゃなくて」


初乗りから暗雲が立ち込めていた。
そして、それは毎日のように……。


 「コラッ、キミ!
 「そんな乗り方したら危ないだろ!」

 「僕だって、
 「真っ直ぐ走ろうとしてこれなんだよ!」


精一杯真面目に進んでいるのに、
ふざけているように思われるのは心外だった。
次の日も……。


 「オイッ、キミ!
 「ふらふらじゃないか!」

 「だから、酔ってなんかないって。
 「こういう自転車なんだって」


もう僕は、いちいち反論したり、弁解したりするのが面倒くさくなってきた。
いいじゃないか、人からどう見えようと……。
今度は、もう止まらないぞ。


 「オーイ、コラッ! そこ、止まれ!」


僕は止まらない。


 「待て、止まらないと撃つぞ!」


もう、止まらない。


僕の背後から、銃声が響く。
二発、三発、乾いた音……。


 BAN! 
  
    BAN! 

           BAN!


けれども、僕は自転車を止めない。
自分の意志で進み続ける。

ついには前からも、駆けつけた警官が銃を向けて、
僕の新しい古びた自転車に向けて、発砲する。


 BAN! BAN! BAN!

    BAN! BAN! BAN!

       BAN! BAN! BAN!


100億のコインのように容赦なく乱れ飛ぶ銃弾の中を、僕はナチュラルなジグザグ走行で走り抜けた。


      BAN! BAN! BAN!

             BAN! BAN! BAN!

                    BAN! BAN! BAN!

          ☆              ☆                       ☆

      BAN! BAN! BAN!

                    BAN! BAN! BAN!

                               BAN! BAN! BAN!


もうすぐ、僕は飛ぶだろう。
普通の自転車じゃなくて、ほんとに良かった。








テーマ : フィクション
ジャンル : 小説・文学

river

残された時間は、
あとどれくらいなのだろうか……。
猫はシルバーカーの中に隠れながら耳を澄ませた。
誰が作ったかわからないが、耳慣れた曲が聞こえる。

「渡れるかな 渡れるかな……」

お婆さんも、半信半疑なのか、
不安を声に出しながら、けれども少し楽しそうだ。
ちょうど今、世界の中心辺りに立っている。



あの冷たい川を
渡る時
僕は何を持って行こう

遠足の準備のように
楽しくはできないけれど
持っていけるものは
案外
少ないかもしれない

あの冷たい川を
越える時
僕は何を置いて行こう

旅立ちのあとのように
戻るあてはないけれど
残せるものは
案外
少ないかもしれない

あの冷たい川を
渡る前に
きみに何を手渡そう

期限のない約束のように
慌てることはないけれど
時間というのは
案外
ないのかもしれない

あの冷たい川と
同じように
案外
流れているのだから




まだ、曲は流れていた。
そうして何とかお婆さんは、横断歩道を渡り切ることができた。
流石に百戦錬磨のお婆さんだ……。
猫はお婆さん号から身を乗り出して、お婆さんを祝福した。

その横顔は、危ない橋を好む冒険者のように楽しげだった。

どんな困難も、案外越えていけるのかもしれない。
陽気な休日の人波に流されながら、
猫は、こっそり考えていた。




テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

夏ときゅうりと猫とカブトムシ

蝉たちのコーラスを越えて、
うさぎの森深く、猫とお婆さんは潜入した。
お婆さんの手には釣竿が握られている。
カブトムシを釣りに来たのだ。

お婆さんは、釣り針にきゅうりを付けて森に泳がせた。
後は、ゆっくり待っていればいい。
お婆さんは、ヘッドフォンを耳に当てて再生ボタンを押した。
微かに漏れてくる音を、猫は聴いた。
お婆さんの好きな aiko の曲だった。
猫は、懐かしそうにゆっくりと目を閉じた。



冷やし中華が好き
中の
きゅうりは嫌い

森の緑が好き
緑の
きゅうりは嫌い

野菜が好き
野菜サラダが好き
きゅうりは嫌い

キューちゃんが好き
本当は
好き

冷たいの
酸っぱいの
緑なの

キューちゃんが
本当は好き

きゅうりが嫌い

あの夏の
カブトムシを思い出すから

大好きだったひとを

大好きだったことを

思い出してしまうから




猫はあの夏のことを回想し始めた。
はてどの夏だったろう?
夏という夏が猫の小さな頭の中を駆け回った。
そうしている間にも、曲は流れて、
まだカブトムシは一匹も釣れなかった。
猫は、カブトムシが好きだった。
自分に似てどこかそれは王様だったから……。

あそこだ、
あそこにいる!

猫は丸々と太った木の上に、軽々と登った。
幹を抱擁するカブトムシにゆっくりと接近する。

その横顔は、夏によって炊き上げられたご飯のように白かった。

猫がカブトの先端にそっと甘い息を吹きかけると、
驚いた王様はひっくり返りながら、宙を泳いだ。
お婆さんの伸ばした網の中に、見事納まった。

カブトムシが、
一匹釣れた。


テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

猫とボウリング

よっこらしょっ、と両手で持ち上げる。

「そーりゃー!」

お婆さんは、爆弾を投げ込むように球を投じた。
筋書きを忘れたドラマのように、どんどん横に逸れていく。
溝に落ちてしまう運命を変えられるとしたら、それは猫だった。
猫は、猛スピードで球を追いかけ追いついた。
そして、小象のように球に跳び乗って進路を正した。
回転する球体の上でバランスを取りながら、操り進む。
倒すべき目標が近づいてくる。
猫は、覚悟を決めているようだ。



倒れても
倒れても
きみはまた立ち上がる

みんなの前では
きみは不死身

倒されるために
何度も
起き上がる

倒れそうでも
倒れそうでも
きみは持ちこたえる

頼れるきみは
最後のひとり

迫り来る球体を
静かに
待ちわびる

幾度も繰り返し
きみは
倒れる

その瞬間に
弾ける音と共に

喜びを
演じながら




「ストライーク!」

お婆さんは、一瞬喜びを爆発させた。
猫の姿はなかった。
一つの勝利の代償に、燃え尽きてしまったのだろうか……。
なんてことだ、なんてことだ。
お婆さんは、掲げた拳を下ろすと口を覆った。
平らな場所を、溝の中を、穴の奥を視線が彷徨う。
再生される10本の中に猫は混じっていないだろうか?
けれども、その白さの中に生命を見つけることはできなかった。

マイボールが音を立てて戻ってきた。
それに続いて猫が、
少し腹を立てながら戻ってきた。

その横顔は、薄っぺらな勝利のようにペチャンコだった。

嗚呼、神様!
お婆さんは平べったい猫を拾い上げた。
猫は、再び丸みを帯び始める。




テーマ : 自作小説(ファンタジー)
ジャンル : 小説・文学

犬になった猫

息を切らしながら自転車を引っ張った。
犬になってしまった自分に驚きながら、
猫は走り続けた。
どうして、自分がこれほど必死になる?
その理由を道端に探すように、
鼻先を地面に近づけながら……。



散歩というほど
気楽じゃない
小さな街の大冒険

感触を確かめるため
何でもくわえてみせるのさ

間違うこともあるけれど
怯んでなんていられない
短い短い僕の冒険

散歩というほど
のどかじゃない
僕の世界の一大事

感覚を蓄えるため
何でもくわえてしまうのさ

誤ることもあるけれど
選んでなんていられない
儚い儚い僕の冒険

危険はいっぱい
いたるところに
潜んでいるけれど

僕に与えられた
限られた時間
休んでなんていられない

散歩というほど
余裕じゃない
駆足で過ぎる世界

今日は何をくわえよう




何もくわえたくはなかったのに、猫は翼竜の骨をくわえている自分に驚いた。
飛んで行きたいのは、自分の方だというのに……。
声を上げて鳴いた。

「ワン、ワン、ワン…… ワン、ワン、ワン!」

犬みたいだった。
猫は、悲しくなって縮まった。
虫の王様のようにちっぽけな存在になって、首輪から抜けた。
壁を越えて、屋根を越えて自由に走り続けた。

その横顔は、列に加わることのない彗星のようだった。

久しぶりの朝帰り……。
猫は、悪い夢を見ていたのかもしれない。




テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

四次元の18番

助っ人はいつも、僕らのエースになる。
残り3分で、僕らのチームは1点負けていた。
僕らは藁にもすがる思いで、彼にボールを預ける。
その日、僕らのエースは18番だった。

「18番だけだぞ!」

敵チームのベンチから怒号のような叫びが上がる。
的確な指示によって、18番は囲われるようになった。
まるでクラスの人気者のように……。

18番は、影のように体を伸縮させて敵の一人をかわした。
続いて2人、3人と寄って来る中を、波のように体を揺らしながら、
ボールを運んだ。
敵はただ付き人のように、着いていくのが精一杯で、
頼れる18番は、ボールを失わなかった。
二次元vs四次元のプレーであるように、
彼の足だけ別次元で跳ねていた。
3人を引きずりながらも放ったシュートは、惜しくもバーを越えた。

「18番だけだぞ!」

真実は、繰り返し連呼しなければならないというのか?
時間だけが吸い取られていく真緑の芝の上で、
僅か1点のビハインドが、巨人の足のように重くのし掛かっていた。
7月の太陽の下で、僕らは、
神頼みのような攻撃を、何度も繰り返した。
けれども、18番は敵全員に囲まれるようになっていた。
まるでアニメのルパンのように……。



 よく見てごらん
 僕もここにいるよ

 見えないか?
 気づかないか?

 ずっと前から
 僕は
 ここにいるよ

 告白するよ
 僕もここにいるよ

 知らないか?
 恐くないか?

 どこにも行かない
 どこにも隠れない
 憎まれたいほど
 ここにいるんだ

 初めから
 僕は
 ここにいるよ

 透明か?
 空気のようか?

 見逃しておきな

 最後に
 僕が

 飛び出して

 決めてやるから




終末の予感が、焦りを生み、
焦りが、ミスにミスを重ねさせた。
もしも、それがミスバーガーなら、誰も食べ切れないほどに……。
届くはずもないパスが、容赦なくカットされた。
18番は、まるで国境を越えた遠い場所に位置しているように、
僕らのスペースは悲劇的に分断されていた。

もう時間はない、
と思われたその時、僕は中盤でボールを持った。
左に流れて左足でシュートを打ってやる。
僕は決めた。心に決めた。
イメージ通りに、
左に切れ込んだ。
切れ込んだのはボールだけで、
体があと半分追いつかなかった。
最後のシュートは、僕には打てなかった。
そしてその時、終了のホイッスルが僕らの時間を止めた。

大人しく整列してチーム同士で握手を交わす。
けれども、不思議なことに、
相手チームは皆、18番にだけ手を差し出した。
その時、僕は悔しかったけれど、
本当のことを知って、
なぜか少しうれしかった。


彼らは、本当に、
18番しか見えていなかったんだな……。




テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
たいした意味などありゃしない


旅の途中の紙くずたち
今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

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「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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