好きをいっぱい
2007-06-25 Mon 08:43
閉じ込められた縫いぐるみたちの姿を見て、
お婆さんは、大切なことを思い出した。
どこに置いてきただろう?
どうして忘れてしまうだろう?
疑いが吹き荒れる中、アミューズメントを後にした。
夜のような昼の中を、お婆さんは歩き出す。
すっぽりと傘に包まれて、
空は見えなかった。



いろんな空が好き

白い雲が好き

眩しい太陽が好き

冷たい月が好き

優しい雨が好き

柔らかな新芽が好き

どんな花も好き

あふれる木漏れ日が好き

葉擦れの音が好き

甘い実が好き

小さな宝石が好き

可愛い洋服が好き

美味しいご飯が好き

暖かなお風呂が好き

面白い本が好き

今日が好き

昨日が好き

明日が好き

家族が好き

あなたが好き

友達が好き

あの子が好き

自分が好き

たくさんの好き

積み重なって

私を生かす

幸せになる




猫は街に架かった虹を、ゆっくりと渡っていた。
猫にとっても、恐ろしいほどに高い。
けれども、その向こうに幸せが待っているのだ。
そう言い聞かせて一歩踏み出した瞬間、足を滑らせた。
落下する途中、猫は半生を振り返ってみたが、特にどうということはなかった。
それからクルクルと回転して、お婆さんの頭上にピタリと着地した。

その横顔は、幸せを運ぶ曲芸師のようだった。

お婆さんの傘の上を、子馬のように駆け回った。
物凄い雨が降ってきたと思い、お婆さんは傘をきつく握り締めている。
雨は、とっくに上がっていたのだがお婆さんは、ずっと下を向いていたのだ。
虹に触れることもなく……。
互いに顔を合わすことなく、二人は重なるように再会した。
好きな時に、猫は下りてくるだろう。
あるいは、疲れた頃に。





                文…junsora
                詩…あーるぐれい


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