黒い翼『フェンス』
2007-05-05 Sat 21:52
今や、猫とお婆さんはすっかり囲まれていた。
無数の追っ手たちに。
お婆さんは、巾着袋から何やら取り出すと、獣たちに向け投げた。

「食らえー!」

けれども、猫ビスケットは役に立たなかった。
全く何も……。



囲われている

危険な部外者を
一歩も近づけぬために
囲われているから
守られている

囲われている

危険な侵入者を
一歩も入れぬために
囲われているから
守られている

囲われている
中にある
秘密

ドロドロと
見えない

囲われているから
隠蔽されている

囲われている
中にいる


ゾロゾロと
黒く

囲われているから
逃げられない

囲われている
気がついたら
縦も横も

囲われている

囲われているから
逃げられない

気がついたら

昨日も今日も




この瞬間も、逃げ場なく囲まれていた。
これまで何度も乗り越えたきた危機のことを、お婆さんは振り返ろうとした。
けれども、お婆さんは三日前のことしか思い出せなかった。
獣の群れが迫る。
もうすぐ、お婆さんと猫は手荒く胴上げされるだろう。
それが起こり得ることで、奇跡的に最良のことだった。
近づく、もう。
距離がない。
時間も、知恵も……。
その時、辺り一帯を突然夜が訪れたように闇が包み込んだ。
巨大カラスが戻ってきたのだ。
猫は再び畏怖なるものに目を向けた。

その横顔は、囲み切れぬ壮大な宇宙を見上げる類人猿のようだった。

獣たちは逃げ惑った。
やはり、大きな翼だ。





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