お婆さんリサイタル『川の流れのように』
2007-02-08 Thu 08:21
ステージの上にお婆さんは一人。
気持良さそうに歌っていた。
スタンドマイクに両手を乗せ、そっと目を閉じる。

「川の流れのように……」

流れるような声が
ホールの隅々まで響いていた。





川の流れのように
私は変わっていく

一点には留まらず
ひとつの形を持たず
緩やかに
落ちていく

川の流れのように
私は変わっていく

時に身をまかせ
ひとつの方向へと
緩やかに
下りていく

同じ青さはなく
同じ音階もなく

川の流れのように
私は変わっていく

いつか
もっと広い場所へ

畏怖と救いに満ちた
永遠に広がる世界へ
流れ着く日まで

空に見送られながら
私は変わっていく

川の流れのように






歌い終えると、穏やかな川のように静かになった。
お婆さんと同じように客席も。
嵐のように沸き起こるはずの歓声も、拍手もない。

お婆さんは顔を上げて、不安そうにホールを見渡した。

その横顔は、川の上を旋回する鷹のようだった。

何度も何度も鷹の目が人の顔を追った。
けれども、何度見ても誰もいない。
何度見ても……。


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