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お婆さんリサイタル『忘却の歌』

ステージの上に、猫を招き上げた。
招き猫を抱きかかえるようにして、歌った。
猫はまだ少し眠そうだったけれど……。
お婆さんの歌を、こんなに近くで聴かされたら、
寝た子も起きるというものだし、一緒に歌うしかないのだ。





忘れよう
忘れよう
習ったことは全部

きみの
歌声の中で

忘れよう
忘れよう
笑ったことも全部

澄み切った川のように
流れる旋律の中で

忘れよう

増幅する自己会議室に
捨てられぬ柵は飽和寸前で

だからもう
忘れよう

新しい雨の中で
生まれ変わる川のように

始めよう
始めよう
忘れた後で新しく

きみの
歌声の向こうで

忘れよう
忘れよう
もらったことは全部

再び思い出すために

忘れよう

忘れよう

忘れよう

少しかすれた
きみの声を

まだ少しも
忘れられぬまま






お婆さんと猫は、手に手を取って客席に向けてお辞儀した。
けれども、客席には誰もいなかった。
お婆さんリサイタルが始まった時と同じように……。
猫は、お婆さんの方を不思議そうに見上げた。

その横顔は、忘却の彼方に消えた忘れ物に問いかけるようだった。

それから一つ、小さな口で大きなあくびをした。
お婆さんの歌につき合うのは、骨が折れる。
しばらくの間、お婆さんの歌が猫の耳から離れることはなかった。
季節一つ分くらいの間だった。






唄えよきみ 
ひとり
賑やかに

ライラックの風に乗せて
自由に流れる砂のように

知らない街の向こう側
遠くで誰かが聞いている

今日の道が行き詰まったら
唄えよきみ
意味さえ求めずに

唄えよきみ
ひとり
緩やかに

新月の色に似せて
にこやかな花のように

名もない唄の切れ端を
遠くで誰かが聞いている

明日の道が潰えたら
唄えよきみ
意味さえ気にせずに

永遠の回り道のように
逞しく

さあ 唄えよきみ


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テーマ : 詩*唄*物語
ジャンル : 小説・文学

お婆さんリサイタル『アンコール』

ステージの上に再びお婆さんは戻ってきた。
熱心にエールを送る観客に応えて……。
もう一度いまステージに立っている。
もう一度マイクに両手を乗せた。





もう一度
繰り返せ

好きなように

伝えたいことがあるなら
切々と

繰り返しの
唄のように
笑いのように
語り継がれる歴史のように

通じるまで

繰り返せ

良いことは

謝りたいことがあるなら
深々と

頭を下げるように
言葉は
更に下から

誠意が通るまで

繰り返せ

明るいことは

昨日の今日のように
日々の決まりごとのように
誕生とフィナーレのように
総当りの試合のように

繰り返せ
ゆるゆると

繰り返せ
もう一度

優しい言葉

繰り返せ

愛していると

毎日のように






お婆さんは優しく歌い上げると、ステージを見下ろした。
けれども、猫はもう眠っていた。
猫は飽きっぽく、それにも増してよく眠る猫だった。

その横顔は、繰り返される日々に疲れ果てた子供のようだった。

まだ少し、あどけなさのようなものが残っているが。
繰り返し、いびきをかいて。
まるで自分がリクエストしたことなど、すっかり忘れてしまったように……。



テーマ : 詩*唄*物語
ジャンル : 小説・文学

お婆さんリサイタル『最後の歌』

ステージの上を、猫が見守っていた。
お婆さんリサイタルの、たったひとりの観客だ。
最後の歌の時が近づいてきた。
どんなものでも、最後は少し寂しいものだ。
どんな歌だろう……。
猫の鼓動は、少しずつ高まりつつあった。
そして、お婆さんは歌い始めた。





最初のように
あのまま
あの場所にいたならば
私は今どこにいただろう

時間は無限じゃないと
わかっているはずなのに

あと少し時が早ければ
あと少し時間が遅ければ

途中までのように
あのまま
あの場所にいたならば
私の今はどこにあるだろう

自然は限られていると
わかっているはずなのに

もう少し勇気があったなら
もう少し器用さがあったなら

あの時に
あの場所で

わかっているはずなのに
それでも涙は止まらない

私は私は私は

想像で語れる風景は
壮大な自由と
未知の色使いで
塗り描くことができるから

現れるのはファンタジー
想像上のファンタジー

あの日の笑顔と
昨日までの道程を
嘘のように飲み込んで
飛び立ったのは別世界

結末の消えた夢物語の中で
架空の登場人物の表情は
氷の中の本のように固く

あのままだったら
どうだっただろう

きっとそれは
どうだっただろう

想像だから言えること
だからそう言えること

私はどこにいただろう

最後になればわかること






最後になっても、猫はわからなかった。
お婆さんの歌の意味がよくわからなかった。
眠たかったわけではない。
ここにいる誰よりも、よく聴いていた。
猫は自分の後ろに、誰もいないことを知らなかった。

お婆さんの消えたステージを、しばらく見たまま動かない。
意味はわからなかったが、少し痛く哀しくなった。
けれども、針の雨が降り注ぐような痛みではなくて……。
猫はまた、お婆さんの歌を聴きたいと思った。

その横顔は、最初で最後の理解者が描き出す優しさそのものだった。

それからお婆さんは、どこかから拍手の音がするのを聞いた。
それは、猫によるアンコールだった。




テーマ : 詩*唄*物語
ジャンル : 小説・文学

お婆さんリサイタル『ひとりいた』

ステージの上にお婆さんは一人。
けれども、もうひとりきりではなかった。
猫が、真冬のヒマワリのように客席に咲いている。
たったひとり、けれど眠りもせずに……。
だからお婆さんは、勇気を取り戻し歌うことができたし、
だんだん声も出るようになってきたのだ。





ゼロの中からひとつだけ
見えてきたのはひとつだけ

それは似ているようで

ONとOFF
虚無と夢

白と黒
静と動
空と海

ゼロの中からひとつだけ
見えてきたのはひとつだけ

その隔たりは
近くて遠くて

光と闇
沈黙と笑顔
空ときみ

ゼロの中からひとつだけ

きみのいちは
いまとなり

きみのいちは
永遠となり

ゼロの中から現れた

輝いたのはきみひとり






猫の目が一番星のようにキラリと輝いた。
輝くものは他になかったのだけれど、それは兄弟星のように二つ並んでいた。
お婆さんは水を一口含み喉を潤した。
ガラガラの客席に向かって、発表する。

「これで最後の歌になります」

もうおしまいか……
猫は少し不満げに眉間に皺を寄せた。
その横顔は、打切られた連載を前にした読者のひとりのようだった。
もう、最後の歌か……。



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お婆さんリサイタル『何度見ても』

ステージの上に、うなだれたように一人。
お婆さんは立ち尽くした。
まさか誰一人いないとは驚いた!
驚きを隠せないまま、お婆さんは歌い続けた。
隠す相手も、その必要さえもなかったのだけれど……。





何度見ても同じだよ
だけど何度も見るんだよ

大きな小箱に
小さく沈む
キラリ

一枚
乗りかかるように
もう一枚

ひとつひとつ
薄っぺらい
形をしてる

透明な箱を
視線だけが
痛みながら貫通する

何度見ても同じだよ
何も投げかけていないんだから

大きな世界に
小さく沈む
ひとり

一人
寄りかかるように
もう一人

ひとりひとり
好き嫌いのある
顔をしてる

何度見ても同じだよ
だけど何度も見るんだよ
手を合わせても同じだよ
誰も見てはないんだよ

眠っている思い出に
雪が降り積もるように

ひらひらと優しい光景は
かなしい幻想の中で
散っていくだけで

何度見ても同じだよ
誰も投げ入れてないんだから

何度見ても同じだよ
だけど何度も見るんだよ
願いをかけても同じだよ
誰も聞いてはないんだよ

小さな箱の中では
心の奥深くまでもが
見透かされているようで

直視はできないから
何度も視線を背けながら
何度となく

何度となく

何度見ても同じだよ
だけど何度も見るんだよ

だから何度も泣くんだよ






歌い終えると、お婆さんは泣いた。
目からサラサラと流れるものがスポットライトを浴びて。
それは宝石のように輝いた。
けれども、お婆さんは客席の中でそれとは別の宝石を発見した。
好奇に輝きながら……。

猫が、ちょこんと座りステージを見上げていた。

その横顔は、何度見ても新しいような懐かしいような猫の顔だった。

ひとりいた。
ひとりいたか……。



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ジャンル : 小説・文学

お婆さんリサイタル『川の流れのように』

ステージの上にお婆さんは一人。
気持良さそうに歌っていた。
スタンドマイクに両手を乗せ、そっと目を閉じる。

「川の流れのように……」

流れるような声が
ホールの隅々まで響いていた。





川の流れのように
私は変わっていく

一点には留まらず
ひとつの形を持たず
緩やかに
落ちていく

川の流れのように
私は変わっていく

時に身をまかせ
ひとつの方向へと
緩やかに
下りていく

同じ青さはなく
同じ音階もなく

川の流れのように
私は変わっていく

いつか
もっと広い場所へ

畏怖と救いに満ちた
永遠に広がる世界へ
流れ着く日まで

空に見送られながら
私は変わっていく

川の流れのように






歌い終えると、穏やかな川のように静かになった。
お婆さんと同じように客席も。
嵐のように沸き起こるはずの歓声も、拍手もない。

お婆さんは顔を上げて、不安そうにホールを見渡した。

その横顔は、川の上を旋回する鷹のようだった。

何度も何度も鷹の目が人の顔を追った。
けれども、何度見ても誰もいない。
何度見ても……。

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今日も散らばって行こう
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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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