心 の 隙 間 か ら 出 て お い で
冬のインク
2006-11-28 Tue 23:49
3連目を書こうとしたところで、ペンは進まなくなった。

「これから盛り上がるとこなのに……」

おばあさんの唄が盛り上がったことなどあるのかな?
猫は冷たい目で、おばあさんの頭の方を見た。
おばあさんは、ペン立から新しいペンをとった。





余力があるのに
なぜ出てこないの

まだ夜のように
黒くたっぷりと
残っているのに

線は引けても
文字にならない

空ではないのに
なぜ出てこないの

まだ空のように
黒く濃く
続いているのに

円は引けても
文字にならない

強く押し付ければ
凶器となって
傷つけてしまうだろう

想いはあるけど
まだきみは
回転しないの

希望はいっぱい
残っているのに
飛び立てないの

広い世界には
まだ
零れ出れない

だから
この夜のように

世界の内側に
冷たく滲んでいく

小さな胸から

もう溢れそう






「寒くなると、インクも出て来なくなるね」

ソファーの上で丸まる猫を見ながら呟いた。
どうやら次のペンも、唄い出さないようだ。
おばあさんは、ゴミ箱に不機嫌なロケットを投げ入れた。

冬のゴールに揺れる無回転ボールのように飛んで落ちた。
猫は、その軌道に首を振った。
その横顔は、一瞬の跳躍と物語の結末と共に沈んでいった。












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