街の灯り
2006-08-30 Wed 01:32
「あれは何の楽器だろうか?」
昔、どこかで聴いたような音。
花火の終わった夏の夜を思い出させるような音色が、二階の窓から流れてきた。
見覚えのある道だ。あるいは匂いだ。
おばあさんの家が近づいてくる。
車が猫のそばを走り去った勢いで、水溜りが悲鳴をあげた。
そのせいで顔に泥水をかぶってしまった。
けれども、気にすることはない。
おばあさんの家が近づいているのだ。
猫は歩みを止めなかった。
その横顔は、泥で作られた猫のように黒く震えていた。



街を歩けば灯りがついている
ピアノの調べが風にのって
道行く人に贈り物を届ける

家が建っている

人が住んでいる

夕暮れを歩けば灯りがついてくる
ペットの鳴き声が夕日に紛れて
旅人の背中にはりついてくる

カレーの匂いが家々を越えて
旅人の鼻先をかすめていく

人が生きている

動物が動いている

旅人を貫く遠い記憶
重い記憶は限りなく遠い

人は近い 友は遠い

夜を歩けば灯りがついている
ペットの音色が窓を越えて
夜の下に降りてくる

華麗な響きは少しの間
異世界の物語を奏でながら
旅人の足を止めさせる

人が生まれている

楽器を楽しんでいる

背中に背負った荷物は
旅人よりも大きくて限りなく軽い

街を歩けば灯りがついている

旅人の背中を
優しく照らす
街の灯り



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